傲慢猫王子は落ちぶれ令嬢の膝の上

小桜けい

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18 今できること

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 突拍子もないコスティの発言に、エステルは面食らい、目を瞬かせた。
 だがすぐ、彼は冗談でそんなことを口にしたのかもしれないと思いなおす。
 コスティはアルベルトの乳兄弟だというし、主従とはいえ随分と気の置けない仲のような雰囲気を感じる。
 先ほど、『結婚式で呪いを解くぞ計画』が、理由も解らないまま見事に失敗してしまったのを見て、主人を明るく慰めようとしたのではなかろうか。

「コスティ。冗談はいいから、早く話を始めるぞ」

 アルベルトが呆れたように肩を竦め、執務室の中へ入るようエステル達を促す。

(あら……?)

 執務室に一歩入ったエステルは、心の中で首を傾げた。
 中央にある執務机の真向かいに、二人分の椅子が増えているのだ。
 午前中にここへ入った時には、確かになかった。

「二人とも、そこに座ってくれ」

 アルベルトが執務机の椅子に腰を降ろしながら言い、エステルの微妙な表情に気づいたらしい。

「……結婚式があのような結末に終わらず、呪いが無事に解けていたとしても、ここでの話し合いをする予定は変わらなかったからな」

「それでは、今からお話することは呪いの件とは別物なのですか?」

 エステルはコスティがひいてくれた椅子に座り、尋ねた。
 てっきり、アルベルトはすぐに執務室で呪いが解けなかった理由を話し合うつもりなのかと思ったが、彼の口調からしてどうも違うらしい。

「そうだ。魔法を使えぬ私が呪いの件をあれこれ考えるより、専門家の意見を聞いた方がいいからな」

 アルベルトが頷き、エステルの隣に座ったコスティをチラリと見やる。

「調査は済んでおります。リスラッキ家について、アルベルト様の予想通りでした」

 そう答えたコスティとアルベルトを、エステルは困惑して眺めた。

「リスラッキ家について……?」

「例の、借入金についての件だ」

 アルベルトが目線で合図をすると、コスティが軽く頷いて立ちあがる。

「前リスラッキ伯について調査をしましたが、特に事業での失敗もなく、わざわざ大金を借りる状況であったとはとても思えません。それとは逆に……」

 コホンと、言い辛そうにコスティが小さく咳ばらいをした。

「現伯爵――つまり、エステル様の叔父は二年前に事業で大きな失敗をしております。かなりの負債を抱えたはずですが、どこからか融資を受けたのか即座に負債を補填したので公になっていません。恐らく、身内からでも密かに借りたのだと思われます」

「え……」

 ゾワリと悪寒がして、エステルは苦い唾を呑みこむ。
 今、コスティが言った内容は、叔父の言い分とは正反対だ。

『何度も申し上げましたが、私は未だにエステル様が背負わされている借金に疑問を抱いております。家令のヨハンさんや出納係のダレルさんが証言したと言いますけれど……私はあの二人が胡散臭いとずっと思っていました』

 実家でサリーに言われた言葉が脳裏に蘇る。
 実際、エステルも叔父から借入金の話を聞いた時は信じ難かった。
 両親は特に金銭的に困っている様子もなく、エステルも何不自由ない生活をできていたし、まさか身内に多額の借金をするなんて到底思えなかったのだ。
 しかし、長年父に仕えていた家令と出納係からの証言もあり、書類もあるのだと言われれば反論できない。
 何よりも、信じたくなかった。
 唯一に残った身内一家が、自分を陥れようとするなんて……。

「……ですが、借入金の証書があると叔父が……元家令と出納係の証言も……」

 絞り出した声は、奇妙に掠れていた。
 自分の顔が混乱で引き攣っているのが解かる。
 そんなエステルをじっと眺め、アルベルトがゆっくりと口を開いた。

「普通なら、借入金の件が間違いだったと知れば喜びそうなものだが。おおかた、身内が自分を裏切ったなど考えたくもないというところだろうか?」

「っ!」

 図星を差されて息を呑む。

「だが、残念ながら世の中は理不尽なことで溢れている」

 恐らく、この国で最も理不尽な目に遭っている王太子は、少々苛立たし気に息を吐いた。

「よって、私は今自分にできることを精一杯にやるつもりだ。正式に王太子妃になったそなたについて不穏なものは一切取り除く気でいる。いいな?」

「は、はい!」

 鋭い口調で言われ、エステルは反射的に頷いていた。
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