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26 呪いのシステム
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聞き慣れない単語に、エステルは首を傾げた。
「不勉強で申し訳ございません。どういったものなのでしょうか、そのセッ……」
「言うな! 言わなくて良い!」
なぜか急に顔を真っ赤にしたアルベルトに手で口を押えられ、エステルは目を白黒させる。
「むぐっ」
「リッカ! ななな何という破廉恥な! 不敬‼ 不敬だぞ‼」
どうやらリッカの言った言葉は、あまり良くないものだったらしい。
アルベルトがキッと彼女を睨みつける。
「いえ、下世話な興味ではなく大事な質問ですよ」
一方でリッカは平然としており、何やらエステルには理解できない模様や文字がぎっしり書かれたノートをパンパンと叩いて見せた。
「どう聞いても下世話な質問の、どこが大事なことなんだ!」
憤然とするアルベルトに、リッカが肩を竦めた。
「殿下にかけられた呪いが解ける条件は、『運命の相手と婚姻を結ぶ』ですよね? その『婚姻』の定義は一体なんだろうなと昨夜から考えていました」
「は……?」
アルベルトが目を瞬かせた。
「殿下、エステル様。呪いをかけるのには条件があります」
「そのことはもう聞いている」
苦々し気に答えたアルベルトに、リッカが頷いた。
「それは承知しています。でも、エステル様にも解ってもらえるように、改めて説明しますね」
コホンと軽く咳ばらいをして、リッカがエステルに向き直る。
キランと分厚い眼鏡の奥で、彼女の目が光った気がした。
その勢いに気圧され、エステルは知らずに背筋が伸びる。
「条件、ですか?」
「はい。必要な条件は大きく二つ。代償の用意と、解呪を相手に伝えてかけることで完成します。この代償は大きい程に効力が強く、ドリスの呪いの代償は彼女の命と大変大きなものなので、定められた解呪条件でしか解けません」
熱心な教師が演説をするように、リッカは前のめりになって早口で口上をまくしたてた。
「その条件ですが、例えば、一分で国を横断しろとか、荷馬車十台分の食料を食べろとか、絶対に無理な解呪の条件では呪いはかけられません。呪いをかける主が無理だと認識している条件ではかけられない……つまり、解呪の可能性は必ずある条件でしか、呪いはかけられないのです」
「は、はぁ……」
ズンズン前のめりで詰め寄って来るリッカに、のけ反りながらエステルは相槌を打つ。
「昨日、結婚式の誓いをした直後に殿下の呪いが解けなかったということは、結婚式をしただけではドリスの定義した『婚姻』の条件を満たさなかったというわけです」
そこまで言うと、リッカはクイと眼鏡を押し上げ、心なしか呆れの篭ったような横目でアルベルトをチラリと見た。
「つまり、ドリスのような歴代随一の魔女の呪いを甘く見て、形だけの結婚式でやり過ごして解呪しようとしても無駄だということですね」
「……自分が仕えていた王家に、一方的な恋慕で仇をなした魔女を褒める気か」
眉を潜めて低い声を発したアルベルトに、リッカが肩を竦めた。
「あーし……いえ、わたしもドリスのことが好きなわけじゃありません。あの女のせいで魔女の肩身がどれだけ狭くなったか」
「だったら、そのような発言は……」
「でも、だからといって相手を軽んじるのは愚策です。どんなにムカつく相手でも、ドリスは超一流の魔女で、その呪いは極限まで解呪の条件を難しく出来るほど強力だった。それは事実なんですよ」
シンと、室内が静まり返った。
冷静な声で発されたリッカの発言に、アルベルトも思う所があったらしい。
「解った。では、形式だけエステルを妻にした結婚式では不十分だった。そして、その……夫婦の契りが必要なのではと、言いたいのだな?」
「その通り! さっすが殿下、話がお早い!」
パンと手を打ち合わせたリッカに、アルベルトが嫌そうな視線を向けた。
「慣れないくせに。下手なおべっかはしなくて良い」
「あ、バレました?」
ハハッとリッカは笑っているが、話にまるでついていけないエステルは、かなり混乱していた。
何しろ、夫婦の契りというものは、結婚式でのあの神聖な宣誓だとばかり思っていた。
でも、二人の会話を聞くに、それはどうやら違うらしい。
「あ、あの……」
おずおずと挙手をすると二人が同時に振り返ったので、思い切って頼むことにした。
「恥かしながら、私はお二人の仰る『夫婦の契り』がどういうものかよく解りません! お教え願えますでしょうか!」
「へ?」
リッカが目を丸くして、エステルとアルベルトを交互に眺める。
「……殿下。エステル様が箱入り娘だったとしても、まさか殿下まで、初夜のやり方をまるでご存じなかったとか?」
恐る恐ると言った感じで尋ねたリッカに、アルベルトが顔を真っ赤にした。
「私は解っている‼」
憤りと焦りの篭ったような怒声に、昨夜の晩の記憶がエステルの脳裏に蘇る。
『何を言っている? まさか、夫婦が寝室で何をするか知らないとでも?』
多分……いや、きっと夫婦になった二人には結婚式の後で何かなすべきことがあり、それをエステルが知らなかったから、アルベルトの呪いは解けなかったのだ。
そうと決まれば、目標は定まったではないか。
「殿下、私に夫婦の契りを教えて下さい!」
両手で拳を握りしめ、エステルはアルベルトに詰め寄った。
「不勉強で申し訳ございません。どういったものなのでしょうか、そのセッ……」
「言うな! 言わなくて良い!」
なぜか急に顔を真っ赤にしたアルベルトに手で口を押えられ、エステルは目を白黒させる。
「むぐっ」
「リッカ! ななな何という破廉恥な! 不敬‼ 不敬だぞ‼」
どうやらリッカの言った言葉は、あまり良くないものだったらしい。
アルベルトがキッと彼女を睨みつける。
「いえ、下世話な興味ではなく大事な質問ですよ」
一方でリッカは平然としており、何やらエステルには理解できない模様や文字がぎっしり書かれたノートをパンパンと叩いて見せた。
「どう聞いても下世話な質問の、どこが大事なことなんだ!」
憤然とするアルベルトに、リッカが肩を竦めた。
「殿下にかけられた呪いが解ける条件は、『運命の相手と婚姻を結ぶ』ですよね? その『婚姻』の定義は一体なんだろうなと昨夜から考えていました」
「は……?」
アルベルトが目を瞬かせた。
「殿下、エステル様。呪いをかけるのには条件があります」
「そのことはもう聞いている」
苦々し気に答えたアルベルトに、リッカが頷いた。
「それは承知しています。でも、エステル様にも解ってもらえるように、改めて説明しますね」
コホンと軽く咳ばらいをして、リッカがエステルに向き直る。
キランと分厚い眼鏡の奥で、彼女の目が光った気がした。
その勢いに気圧され、エステルは知らずに背筋が伸びる。
「条件、ですか?」
「はい。必要な条件は大きく二つ。代償の用意と、解呪を相手に伝えてかけることで完成します。この代償は大きい程に効力が強く、ドリスの呪いの代償は彼女の命と大変大きなものなので、定められた解呪条件でしか解けません」
熱心な教師が演説をするように、リッカは前のめりになって早口で口上をまくしたてた。
「その条件ですが、例えば、一分で国を横断しろとか、荷馬車十台分の食料を食べろとか、絶対に無理な解呪の条件では呪いはかけられません。呪いをかける主が無理だと認識している条件ではかけられない……つまり、解呪の可能性は必ずある条件でしか、呪いはかけられないのです」
「は、はぁ……」
ズンズン前のめりで詰め寄って来るリッカに、のけ反りながらエステルは相槌を打つ。
「昨日、結婚式の誓いをした直後に殿下の呪いが解けなかったということは、結婚式をしただけではドリスの定義した『婚姻』の条件を満たさなかったというわけです」
そこまで言うと、リッカはクイと眼鏡を押し上げ、心なしか呆れの篭ったような横目でアルベルトをチラリと見た。
「つまり、ドリスのような歴代随一の魔女の呪いを甘く見て、形だけの結婚式でやり過ごして解呪しようとしても無駄だということですね」
「……自分が仕えていた王家に、一方的な恋慕で仇をなした魔女を褒める気か」
眉を潜めて低い声を発したアルベルトに、リッカが肩を竦めた。
「あーし……いえ、わたしもドリスのことが好きなわけじゃありません。あの女のせいで魔女の肩身がどれだけ狭くなったか」
「だったら、そのような発言は……」
「でも、だからといって相手を軽んじるのは愚策です。どんなにムカつく相手でも、ドリスは超一流の魔女で、その呪いは極限まで解呪の条件を難しく出来るほど強力だった。それは事実なんですよ」
シンと、室内が静まり返った。
冷静な声で発されたリッカの発言に、アルベルトも思う所があったらしい。
「解った。では、形式だけエステルを妻にした結婚式では不十分だった。そして、その……夫婦の契りが必要なのではと、言いたいのだな?」
「その通り! さっすが殿下、話がお早い!」
パンと手を打ち合わせたリッカに、アルベルトが嫌そうな視線を向けた。
「慣れないくせに。下手なおべっかはしなくて良い」
「あ、バレました?」
ハハッとリッカは笑っているが、話にまるでついていけないエステルは、かなり混乱していた。
何しろ、夫婦の契りというものは、結婚式でのあの神聖な宣誓だとばかり思っていた。
でも、二人の会話を聞くに、それはどうやら違うらしい。
「あ、あの……」
おずおずと挙手をすると二人が同時に振り返ったので、思い切って頼むことにした。
「恥かしながら、私はお二人の仰る『夫婦の契り』がどういうものかよく解りません! お教え願えますでしょうか!」
「へ?」
リッカが目を丸くして、エステルとアルベルトを交互に眺める。
「……殿下。エステル様が箱入り娘だったとしても、まさか殿下まで、初夜のやり方をまるでご存じなかったとか?」
恐る恐ると言った感じで尋ねたリッカに、アルベルトが顔を真っ赤にした。
「私は解っている‼」
憤りと焦りの篭ったような怒声に、昨夜の晩の記憶がエステルの脳裏に蘇る。
『何を言っている? まさか、夫婦が寝室で何をするか知らないとでも?』
多分……いや、きっと夫婦になった二人には結婚式の後で何かなすべきことがあり、それをエステルが知らなかったから、アルベルトの呪いは解けなかったのだ。
そうと決まれば、目標は定まったではないか。
「殿下、私に夫婦の契りを教えて下さい!」
両手で拳を握りしめ、エステルはアルベルトに詰め寄った。
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