傲慢猫王子は落ちぶれ令嬢の膝の上

小桜けい

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39 本当の意味で

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 その瞬間、エステルは自分が聞き間違えをしたのかと思った。



「で、殿下……申し訳ございません。私は今、とても不敬な聞き間違えをしてしまったようで……恐れ入りますが、もう一度お伝え願えませんでしょうか?」



 恐る恐る尋ねると、アルベルトの顔が茹でたように真っ赤になった。



「だっ、だから! 呪いが解けたのは、私がそなたを真に愛したからで……っ! こういう事は二度も言わせないで欲しい!」



 真っ赤な顔のまま、アルベルトが激昂したように言い募る。

 そんな彼の言葉を、エステルはまだ夢の中にでもいるように、信じられない気持ちで聞いていた。



「あの……それでは聞き間違いではなく、本当に殿下は私を好いてくださったと……?」



「ああ。しかし、そなたにしてみれば迷惑な話なのは重々に承知だから……」



「嬉しいです!」



 何かアルベルトが言っていたような気がしたが、思わず彼の言葉を遮って、エステルの口は本音を吐き出していた。



「エステル?」



「私は呪いで仕方なく娶られた立場なので、殿下に好いた御方ができたら、その恋路を応援しなければと思っていました。ですが……っ」



 嬉しくて言葉が詰まる。

 知らずに涙が零れ落ち、しゃくりあげながらエステルは満面の笑みを浮かべていた。



「殿下が私を好いてくださったのなら、その立場に相応しくなれるよう、これから努力しても良いのですね⁉ 私、頑張ります!」



 拳を握りしめて宣言すると、アルベルトが呆気にとられたような顔をしたあと、クシャッと顔を顰めて笑った。



「まったく、そなたはいつでも私の想像を軽々と超えてくる」



 アルベルトがエステルの手をとり、その甲にキスをした。



「改めて言おう。そなたは美しくて勇敢で努力家で……私が愛した初めての人だ」



「殿下……」



 胸がいっぱいになり、また涙が零れる。



「エステル……今夜からは、本当の意味で寝室を共にしてもいいだろうか?」



 じっと目を見つめて囁かれた。



「本当の意味で……?」

「以前、夫婦の契りを教えてくれと私に言っただろう? それを教えたい」

「え、ええ……では、お願いします!」



 もう呪いは関係ないとしても、アルベルトと普通に夫婦らしくなれるのは大歓迎である。

 エステルは張り切って頷いた。





 

 その晩。

 エステルはこの季節にしてはやや薄物の夜着で寝室に入った。

 アルベルトが帰ったあと、一部始終をアウラに話したところ、非常に張り切った様子の彼女からいつもより数段念入りの湯浴みを促されたあげく、ぜひ夜着はこの薄物をと勧められたのだ。

 とはいえ、寝室は魔道具で十分に暖められているから、肌が透けそうな薄衣でも寒くはなかった。



(少し恥ずかしいけれど……)



 アウラが言うには、初めて夫婦の契りを交わす際にはこうした装いが正装だというのだから、仕方がない。

 ドキドキしながらアルベルトを待つと、久しぶりに彼の私室へと繋がる寝室の扉が開いた。



「なっ⁉ そ、その姿は……っ」



 エステルの装いを見ると、アルベルトは顔を真っ赤にして視線を彷徨わせた。



「こ、これが初めて夫婦の契りをする際の正装とアウラに教わったのですが、良くなかったでしょうか? でしたらすぐに着替えて参ります」



 何かアウラが勘違いしていたのかと心配して尋ねたが、アルベルトは深呼吸をして、首を横に振った。



「いや、驚かせてすまなかった。少々……その、刺激的だが、よく似合っている」

「お褒めにあずかり、光栄です」



 ホッとしたのもつかの間。

 アルベルトがゆっくりとエステルに近づき、その頬を優しく撫でた。



「殿下……?」

「エステル、目を閉じてくれ」

「はい」



 素直に目を閉じると、顎にそっと手がかかり、上を向かされる。続いて、唇に柔らかいものが触れた。



(え……? もしかして……)



 口づけ、というものをされているのだろうか。

 混乱するも目を開けて良いのか解らず、エステルは両手を握りしめ、必死に唇と目に力を入れて瞑り続ける。

 すると、不意にアルベルトが唇を離した。



「エステル……口を開けられるか?」



 低く掠れた声で耳元に囁かれ、身体がカァッと熱くなる。



(口を開ける? え、どういうこと……?)



 動揺したが、エステルはコクンと頷いて口を開いた。

 その瞬間、再び唇が塞がれたかと思うと、ぬめりとしたものが口の中に入ってくるのを感じる。



「ん……っ」



 思わず驚いて目を開けてしまった。

 目の前には目を閉じたアルベルトの顔があり、彼の舌が自分の舌に絡みついているのを感じる。



「ん、んん……っ」



 どうしたら良いのか解らず、エステルは口内を動き回るアルベルトの舌に翻弄される。



「はぁ……っ」



 やがて唇が離れ、どちらのものとも知れぬ唾液が二人の間に糸を引いた。



「殿下……今のは……?」

「口づけにも色々とある。これからゆっくり教えるから……」



 再びアルベルトの顔が近づいてきて、エステルは慌てて目を閉じる。今度は触れるだけの口づけだったが、離れてすぐにぎゅっと抱きしめられた。



「……愛している」



 耳元で囁かれた言葉は熱く掠れていて、ゾクリとエステルの背筋に甘い痺れが走る。



「私もです……愛しています、殿下……」



 自然とそう口にしていた。

 ずっと秘めていた想いを、ようやく告げることができた。

 エステルの答えにアルベルトがハッと息を呑むのを感じ、次いで再び唇を塞がれる。

 先ほどよりも熱を帯びて激しい口づけを交わしながら、アルベルトがエステルの背中を手で支え、ゆっくりと寝台に横たえた。

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