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シーズン1
5 全裸、ダメ、絶対
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『恋人らしい』外出は大成功だったようだ。
帰宅してアーウェンにぎゅうぎゅう抱きしめられながら、ラクシュは非常にご満悦だった。
***
―― アーウェンは、女の裸が嫌い。
ラクシュの頭には、そうしっかりと刻み込まれている。
彼と出会った数日後、一緒に水浴びをしようとしたら、ものすごく嫌がられたからだ。
その後すぐ、ラクシュ自身を嫌いではないと告げるように、おずおずと謝ってきたから、単に女の裸が嫌いなのだと解釈した。
半月前に肌を重ねた時も、ラクシュのローブは脱がせずに、下着を破いただけだったから、なお確信した。
『女性を抱くのは大丈夫でも、裸は絶対に見たくないのだ』と。
……実のところ、アーウェンは興奮しすぎて余裕がなかっただけだが、ラクシュがそんなことに気づくはずもない。
あの時、アーウェンは眠ってしまった自分を寝巻きに着替えさせてようだが、彼にとってはかなり嫌な作業だったのではと反省した。
アーウェンはとても優しいから、そんな事はおくびにも出さないけれど。
彼は、ラクシュに傍にいて欲しいと言って自分から生き血をくれた。
利用する為の嘘ではない。不要になったのを悟って離れようとしたラクシュを、彼は必死で引き留めてくれた。
ラクシュが好きで一緒にいるのが嬉しいのだと……血よりも遥かに欲してやまなかった想いをくれた。
――何か、お礼がしたいなぁ。
先日にそう思い、アーウェンに何がいいか聞こうかと思ったのだ。
すると、台所でクルミを擦ってペーストにしていた彼は、ラクシュが背後にいるのに気づかず、『ラクシュさんと……もっと恋人らしくなりたい……』と、ため息混じりに独り言を呟いていた。
ラクシュは無言で頷き、そのままスルスルと台所を出て行った。
気配を消すのは昔から得意だったし、血を飲んでからは、また身体が思い通りに動くようになった。
自室兼工房に戻り、ラクシュは魔道具つくりを再開した。爪の先をノミのように鋭く変化させ、鉱石に魔法文字を刻んでいく。
日の当たらない部屋はいつでも薄暗いが、今はもう夜空に月がとっくに昇っている時刻だ。
部屋にはいくつもの木箱が置かれ、出来上がった魔道具や材料が雑然と置かれていた。
灯りはなく、魔道具にする発光鉱石が、部屋のそこかしこで、緑や赤の光を薄ぼんやりと発しているだけだ。
しかし、ラクシュの眼にはこれくらいがちょうど心地いい。
―― アーウェンと私、恋人になったのかな?
個人差はあるが、他の種族は吸血鬼ほど多数の相手と性快楽を得たがらず、特定の相手を好む者が多いと知っていた。そういう相手を『恋人』と呼ぶらしい。
ラクシュは異質のせいか、そうやたら発情しない。でも、アーウェンは特別に大好きだと思うし、肌を重ねた時は気持ちいい以上に、すごく幸せだった。
こういう相手を、恋人というのだろうか?
そして、とても大きな疑問がある。
―― 恋人らしいって、どういうことをするのだろう?
カリカリと鉱石を引っかきながら、一生懸命に街の様子を思い出してみた。人間や他の魔物が賑やかに暮らす街では、仲のよさそうな男女を時おり見かけた。
そして何年か前に、鈴猫屋の店主から、恋人は外で食事をしたり、特に目的もなく出かけたりすると聞いたのを、思い出した。
―― 外で、ゴハン……。
外食は大嫌いだ。
お店で食べるくらいなら、生の野草でもモグモグやったほうがマシで、アーウェンの作るゴハンが一番好きだ。
―― でも、アーウェンは、そういうのがやりたいのか……。
だったら頑張ろうと思った。
恋人という概念は、吸血鬼のラクシュには今ひとつ理解しきれなかったけれど、アーウェンは大好きだ。
彼がそう望むなら、ラクシュも彼と恋人という関係になって、そういう関係の者が楽しむ行動をやってみたい。
***
そういうわけで本日のラクシュは、決死の外食と出歩きに挑んだのだ。
正直に言えば、目的もなく出歩くのは何が楽しいのかよく解らなかった。
外食も、アーウェンが贔屓にしているらしい食堂は思っていた以上に感じも味も良かったけれど、やっぱり彼が作ってくれるご飯にはかなわない。
帰る道筋で、アーウェンはいつものキラキラが薄れるくらい悲しそうだったから、失敗かと思った。
でも、どうやら彼にラクシュに意図がきちんと伝わっていなかっただけのようで、恋人らしい外出の企画だと知ったらとても喜んでくれている。
アーウェンは、ラクシュの髪につけた飾りも見たらすごく気に入ったらしい。
ぎゅうぎゅう抱きしめる彼の周囲には、あのキラキラがいつもより格段に増えていて、直視できないほどだ。
「ん」
玄関で抱きしめられたまま、ラクシュは深く頷く。とてもいい仕事を終えた気分だ。
キラキラがまぶしくて視線を下に向けると、アーウェンから狼の尻尾が出ていて、歓喜を示しブンブンと振れていた。
「あ」
ゴクリ、と喉がなる。
ラクシュはこの尻尾がすごく好きだ。触るとすごく気持ちいいし、正直だから。
吸血鬼にも、この素直な尻尾があれば、本当はラクシュを好きじゃなかったと、もっと早くわかったのに。
しかし、アーウェンは尻尾を撫でられるのも、あまり好きではないらしく、ラクシュが撫でると困った顔をしてすぐ引っ込めるから、もう何年も触っていない。
できれば、あのモフモフ尻尾を抱きしめてほお擦りしたいが、嫌がるだろうなぁ……。
残念だと、じっと尻尾を見つめていたら、不意にアーウェンが耳元で囁いた。
「俺の尻尾、触りたいですか?」
「…………ん」
一瞬ためらったが、ラクシュは小さく頷く。
「でも、きみは、尻尾触られる、嫌い……」
くくっと、低い笑い声が聞こえた。
「嫌いじゃないですよ。ただ、触られると、ラクシュさんを抱きたくなるから、困ってたんです」
「あ」
そういえば、人狼の尻尾は性感帯だったと思いだした。
「触ります?」
そそのかすように、囁かれる。
「……いい?」
「はい。でも、我慢できなくなったら、抱かせてくれますか?」
「ん」
頷くと、ひょいと横抱きにされて、アーウェンの寝室に連れていかれた。日当たりの良いこの部屋に、ラクシュは数えるほどしか入ったことがない。
けれど今日は曇りだし、あと数時間で夜になる。
アーウェンはラクシュをベッドに下ろし、念のためにとカーテンをしっかり閉めたあと、ベッドに腰を降ろす。オリーブ色の尻尾が、シーツの上でパサパサ揺れていた。
「ん……」
スリッパを脱いでベッドに横たわり、尻尾を抱きしめると、やっぱりとても気持ちいい。眼を瞑って頬をすりつけたら、ビクンと跳ねて逃げそうになった。
「っ!」
アーウェンが短く息を飲んだのが聞こえた。
発情しているらしく、彼からいい匂いが強くする。けれどラクシュの血飢えは満たされているから、今日は噛んでしまう心配はない。
―― すごく気持ちいいなぁ。
パサパサ跳ねる尻尾を、身体を丸めてしっかり捕まえる。
「ん……」
横たわってジタバタしていたので、ローブの袖や裾が、もうずいぶんと捲れてしまっている。
腕や太ももに少しだけ触れる尻尾が、ものすごく気持ちいい。
心地いい感触と、大すきなアーウェンの体温にうっとりし、できればローブを脱いで全身で堪能したい……という欲求が競りあがってきた。
チラっとアーウェンを見上げると、口元を手で覆い、瞳へすでに虹彩を宿している。
「アーウェン……ちょっとだけ……お願い……」
我慢できずに上体を起こし、囁きかけた。
「っは……なんですか……? 俺、もう……早く、ラクシュさんを抱きたくて、仕方なくて……」
息を荒げたアーウェンがうめき、ラクシュの顎に手をかけて上を向かせた。そのまま唇がかさなり、口内を味わうように舐められる。
「ん、ふ……」
ラクシュの頬を両手で掴み、何度も角度を変えて、性急に唇を貪る様子は、必死ささえ感じるほどだ。オリーブ色の髪からは狼の耳まで出ている。
「言ってください、ラクシュさん……あと、何をしたいですか?」
「んっ……服……」
自分の黒いローブを摘んで見せた。狼の熱い吐息にあてられ、理性がゆるんでいく。
「私、全部、脱いで……尻尾、触りたい……」
思いきって打診すると、アーウェンの蒸気した顔が、さらに真っ赤になった。わなわなと口元を震わせている。
「っ!!」
「だめ?」
「だ、ダメなわけ……え、ええっと……で、でも、なんていうか、もう俺、絶対に歯止めが……っ!! ら、ラクシュさんから、脱ぐって……ダメじゃありませんけど……っ!!」
叫び声をあげて頭を抱えこんでしまったアーウェンに、ラクシュは首をかしげる。
「ん?」
ダメではないと言っても、明らかに困っているようだ。
アーウェンの行動は、たまによくわからない時がある。
ラクシュはシーツにペタンと座り、ふと自分の足元に視線を下ろした。
「……アーウェン、心配ない」
丸まってブルブル震えているアーウェンの背中を、軽く指でつついた。
これでも彼が困るようなら、きっぱり諦めよう。
「きみが、困るなら、全部、脱がない」
首をふり、自分の足元を指差した。
いつもは素足に柔らかな布スリッパが、ラクシュの定番だが、今日は久しぶりの外出だったので、白い靴下をはいたままだった。
「靴下、は、脱がない」
下着を残しても、後で抱かれるなら意味がないし、我ながら良い思いつきだと頷く。
「あ……あ……」
アーウェンは大きく眼と口を開いて、ラクシュを凝視していたが、不意に低くうめいた。
「ら、ラクシュさん……」
「ん?」
小首を傾げると、ものすごい力で抱きしめられた。
「ラクシュさああああんーーーーーっっっ!!!!」
「アーウェ……っ!?」
良いのか悪いのか尋ねる暇もなく、押し倒されて唇を塞がれた。
アーウェンの手がローブの襟元を掴み、薄紙のようにあっさり引き裂く。
「あっ! んんん……」
舌で激しく口内をかきまぜられ、ラクシュの欲情も高ぶらされていく。胸の先端を吸われ、下腹部から蜜があふれ出した。
「ラクシュさん……綺麗です……俺、ずっと見たかった……」
初めてラクシュの身体を見たときは、あんなに嫌そうだったのに、アーウェンはうっとり囁く。
やはりアーウェンの行動は、たまによくわからない時がある。……と、ラクシュは脳裏の端で困惑する。
それに、彼のまとうキラキラが、さっきよりもっと増えて、眩しすぎる。
しかし、興奮しきり半獣となったアーウェンの身体は、オリーブ色の毛並みに覆われ、眼を瞑っても、暖かく気持ちいい毛皮を全身で感じることができた。
心地よさとアーウェンのキラキラが、肌をすり抜けて心臓の奥まで滲みこんでくるような気がする。
ラクシュの言語能力は低すぎて、この感情をなんと呼べばいいのか解らなかったから、一番近いものを囁いた。
「……きみが、好きだよ」
***
気がつくと、ラクシュは変身したまま眠っているアーウェンに、しっかり抱きしめらていた。
裸身は体液でベトベトし、身を捩ると大量に流し込まれたものがドロリと零れ出る。
「ん……?」
視線を動かすと、無残に引きちぎられたローブと下着が見えた。
これはさすがに叱らなくてはいけないと思いつつ、続けて足元に視線を動かすと……靴下だけは無事に履いていた。
「ん」
やっぱりそうか……と、ラクシュは心の中で頷く。
アーウェンは、ラクシュの胸など裸体を見るのが嫌いではないらしい。でも……
―― 全裸、ダメ、絶対。
帰宅してアーウェンにぎゅうぎゅう抱きしめられながら、ラクシュは非常にご満悦だった。
***
―― アーウェンは、女の裸が嫌い。
ラクシュの頭には、そうしっかりと刻み込まれている。
彼と出会った数日後、一緒に水浴びをしようとしたら、ものすごく嫌がられたからだ。
その後すぐ、ラクシュ自身を嫌いではないと告げるように、おずおずと謝ってきたから、単に女の裸が嫌いなのだと解釈した。
半月前に肌を重ねた時も、ラクシュのローブは脱がせずに、下着を破いただけだったから、なお確信した。
『女性を抱くのは大丈夫でも、裸は絶対に見たくないのだ』と。
……実のところ、アーウェンは興奮しすぎて余裕がなかっただけだが、ラクシュがそんなことに気づくはずもない。
あの時、アーウェンは眠ってしまった自分を寝巻きに着替えさせてようだが、彼にとってはかなり嫌な作業だったのではと反省した。
アーウェンはとても優しいから、そんな事はおくびにも出さないけれど。
彼は、ラクシュに傍にいて欲しいと言って自分から生き血をくれた。
利用する為の嘘ではない。不要になったのを悟って離れようとしたラクシュを、彼は必死で引き留めてくれた。
ラクシュが好きで一緒にいるのが嬉しいのだと……血よりも遥かに欲してやまなかった想いをくれた。
――何か、お礼がしたいなぁ。
先日にそう思い、アーウェンに何がいいか聞こうかと思ったのだ。
すると、台所でクルミを擦ってペーストにしていた彼は、ラクシュが背後にいるのに気づかず、『ラクシュさんと……もっと恋人らしくなりたい……』と、ため息混じりに独り言を呟いていた。
ラクシュは無言で頷き、そのままスルスルと台所を出て行った。
気配を消すのは昔から得意だったし、血を飲んでからは、また身体が思い通りに動くようになった。
自室兼工房に戻り、ラクシュは魔道具つくりを再開した。爪の先をノミのように鋭く変化させ、鉱石に魔法文字を刻んでいく。
日の当たらない部屋はいつでも薄暗いが、今はもう夜空に月がとっくに昇っている時刻だ。
部屋にはいくつもの木箱が置かれ、出来上がった魔道具や材料が雑然と置かれていた。
灯りはなく、魔道具にする発光鉱石が、部屋のそこかしこで、緑や赤の光を薄ぼんやりと発しているだけだ。
しかし、ラクシュの眼にはこれくらいがちょうど心地いい。
―― アーウェンと私、恋人になったのかな?
個人差はあるが、他の種族は吸血鬼ほど多数の相手と性快楽を得たがらず、特定の相手を好む者が多いと知っていた。そういう相手を『恋人』と呼ぶらしい。
ラクシュは異質のせいか、そうやたら発情しない。でも、アーウェンは特別に大好きだと思うし、肌を重ねた時は気持ちいい以上に、すごく幸せだった。
こういう相手を、恋人というのだろうか?
そして、とても大きな疑問がある。
―― 恋人らしいって、どういうことをするのだろう?
カリカリと鉱石を引っかきながら、一生懸命に街の様子を思い出してみた。人間や他の魔物が賑やかに暮らす街では、仲のよさそうな男女を時おり見かけた。
そして何年か前に、鈴猫屋の店主から、恋人は外で食事をしたり、特に目的もなく出かけたりすると聞いたのを、思い出した。
―― 外で、ゴハン……。
外食は大嫌いだ。
お店で食べるくらいなら、生の野草でもモグモグやったほうがマシで、アーウェンの作るゴハンが一番好きだ。
―― でも、アーウェンは、そういうのがやりたいのか……。
だったら頑張ろうと思った。
恋人という概念は、吸血鬼のラクシュには今ひとつ理解しきれなかったけれど、アーウェンは大好きだ。
彼がそう望むなら、ラクシュも彼と恋人という関係になって、そういう関係の者が楽しむ行動をやってみたい。
***
そういうわけで本日のラクシュは、決死の外食と出歩きに挑んだのだ。
正直に言えば、目的もなく出歩くのは何が楽しいのかよく解らなかった。
外食も、アーウェンが贔屓にしているらしい食堂は思っていた以上に感じも味も良かったけれど、やっぱり彼が作ってくれるご飯にはかなわない。
帰る道筋で、アーウェンはいつものキラキラが薄れるくらい悲しそうだったから、失敗かと思った。
でも、どうやら彼にラクシュに意図がきちんと伝わっていなかっただけのようで、恋人らしい外出の企画だと知ったらとても喜んでくれている。
アーウェンは、ラクシュの髪につけた飾りも見たらすごく気に入ったらしい。
ぎゅうぎゅう抱きしめる彼の周囲には、あのキラキラがいつもより格段に増えていて、直視できないほどだ。
「ん」
玄関で抱きしめられたまま、ラクシュは深く頷く。とてもいい仕事を終えた気分だ。
キラキラがまぶしくて視線を下に向けると、アーウェンから狼の尻尾が出ていて、歓喜を示しブンブンと振れていた。
「あ」
ゴクリ、と喉がなる。
ラクシュはこの尻尾がすごく好きだ。触るとすごく気持ちいいし、正直だから。
吸血鬼にも、この素直な尻尾があれば、本当はラクシュを好きじゃなかったと、もっと早くわかったのに。
しかし、アーウェンは尻尾を撫でられるのも、あまり好きではないらしく、ラクシュが撫でると困った顔をしてすぐ引っ込めるから、もう何年も触っていない。
できれば、あのモフモフ尻尾を抱きしめてほお擦りしたいが、嫌がるだろうなぁ……。
残念だと、じっと尻尾を見つめていたら、不意にアーウェンが耳元で囁いた。
「俺の尻尾、触りたいですか?」
「…………ん」
一瞬ためらったが、ラクシュは小さく頷く。
「でも、きみは、尻尾触られる、嫌い……」
くくっと、低い笑い声が聞こえた。
「嫌いじゃないですよ。ただ、触られると、ラクシュさんを抱きたくなるから、困ってたんです」
「あ」
そういえば、人狼の尻尾は性感帯だったと思いだした。
「触ります?」
そそのかすように、囁かれる。
「……いい?」
「はい。でも、我慢できなくなったら、抱かせてくれますか?」
「ん」
頷くと、ひょいと横抱きにされて、アーウェンの寝室に連れていかれた。日当たりの良いこの部屋に、ラクシュは数えるほどしか入ったことがない。
けれど今日は曇りだし、あと数時間で夜になる。
アーウェンはラクシュをベッドに下ろし、念のためにとカーテンをしっかり閉めたあと、ベッドに腰を降ろす。オリーブ色の尻尾が、シーツの上でパサパサ揺れていた。
「ん……」
スリッパを脱いでベッドに横たわり、尻尾を抱きしめると、やっぱりとても気持ちいい。眼を瞑って頬をすりつけたら、ビクンと跳ねて逃げそうになった。
「っ!」
アーウェンが短く息を飲んだのが聞こえた。
発情しているらしく、彼からいい匂いが強くする。けれどラクシュの血飢えは満たされているから、今日は噛んでしまう心配はない。
―― すごく気持ちいいなぁ。
パサパサ跳ねる尻尾を、身体を丸めてしっかり捕まえる。
「ん……」
横たわってジタバタしていたので、ローブの袖や裾が、もうずいぶんと捲れてしまっている。
腕や太ももに少しだけ触れる尻尾が、ものすごく気持ちいい。
心地いい感触と、大すきなアーウェンの体温にうっとりし、できればローブを脱いで全身で堪能したい……という欲求が競りあがってきた。
チラっとアーウェンを見上げると、口元を手で覆い、瞳へすでに虹彩を宿している。
「アーウェン……ちょっとだけ……お願い……」
我慢できずに上体を起こし、囁きかけた。
「っは……なんですか……? 俺、もう……早く、ラクシュさんを抱きたくて、仕方なくて……」
息を荒げたアーウェンがうめき、ラクシュの顎に手をかけて上を向かせた。そのまま唇がかさなり、口内を味わうように舐められる。
「ん、ふ……」
ラクシュの頬を両手で掴み、何度も角度を変えて、性急に唇を貪る様子は、必死ささえ感じるほどだ。オリーブ色の髪からは狼の耳まで出ている。
「言ってください、ラクシュさん……あと、何をしたいですか?」
「んっ……服……」
自分の黒いローブを摘んで見せた。狼の熱い吐息にあてられ、理性がゆるんでいく。
「私、全部、脱いで……尻尾、触りたい……」
思いきって打診すると、アーウェンの蒸気した顔が、さらに真っ赤になった。わなわなと口元を震わせている。
「っ!!」
「だめ?」
「だ、ダメなわけ……え、ええっと……で、でも、なんていうか、もう俺、絶対に歯止めが……っ!! ら、ラクシュさんから、脱ぐって……ダメじゃありませんけど……っ!!」
叫び声をあげて頭を抱えこんでしまったアーウェンに、ラクシュは首をかしげる。
「ん?」
ダメではないと言っても、明らかに困っているようだ。
アーウェンの行動は、たまによくわからない時がある。
ラクシュはシーツにペタンと座り、ふと自分の足元に視線を下ろした。
「……アーウェン、心配ない」
丸まってブルブル震えているアーウェンの背中を、軽く指でつついた。
これでも彼が困るようなら、きっぱり諦めよう。
「きみが、困るなら、全部、脱がない」
首をふり、自分の足元を指差した。
いつもは素足に柔らかな布スリッパが、ラクシュの定番だが、今日は久しぶりの外出だったので、白い靴下をはいたままだった。
「靴下、は、脱がない」
下着を残しても、後で抱かれるなら意味がないし、我ながら良い思いつきだと頷く。
「あ……あ……」
アーウェンは大きく眼と口を開いて、ラクシュを凝視していたが、不意に低くうめいた。
「ら、ラクシュさん……」
「ん?」
小首を傾げると、ものすごい力で抱きしめられた。
「ラクシュさああああんーーーーーっっっ!!!!」
「アーウェ……っ!?」
良いのか悪いのか尋ねる暇もなく、押し倒されて唇を塞がれた。
アーウェンの手がローブの襟元を掴み、薄紙のようにあっさり引き裂く。
「あっ! んんん……」
舌で激しく口内をかきまぜられ、ラクシュの欲情も高ぶらされていく。胸の先端を吸われ、下腹部から蜜があふれ出した。
「ラクシュさん……綺麗です……俺、ずっと見たかった……」
初めてラクシュの身体を見たときは、あんなに嫌そうだったのに、アーウェンはうっとり囁く。
やはりアーウェンの行動は、たまによくわからない時がある。……と、ラクシュは脳裏の端で困惑する。
それに、彼のまとうキラキラが、さっきよりもっと増えて、眩しすぎる。
しかし、興奮しきり半獣となったアーウェンの身体は、オリーブ色の毛並みに覆われ、眼を瞑っても、暖かく気持ちいい毛皮を全身で感じることができた。
心地よさとアーウェンのキラキラが、肌をすり抜けて心臓の奥まで滲みこんでくるような気がする。
ラクシュの言語能力は低すぎて、この感情をなんと呼べばいいのか解らなかったから、一番近いものを囁いた。
「……きみが、好きだよ」
***
気がつくと、ラクシュは変身したまま眠っているアーウェンに、しっかり抱きしめらていた。
裸身は体液でベトベトし、身を捩ると大量に流し込まれたものがドロリと零れ出る。
「ん……?」
視線を動かすと、無残に引きちぎられたローブと下着が見えた。
これはさすがに叱らなくてはいけないと思いつつ、続けて足元に視線を動かすと……靴下だけは無事に履いていた。
「ん」
やっぱりそうか……と、ラクシュは心の中で頷く。
アーウェンは、ラクシュの胸など裸体を見るのが嫌いではないらしい。でも……
―― 全裸、ダメ、絶対。
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