キラキラ狼は偏食の吸血鬼に喰らわれたい

小桜けい

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番外編

このキラキラの為に生きている

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 ラクシュはここしばらくの間、とても忙しかった。
 商売熱心なクロッカスから、祭りの日に見せたゴーグルに、鉱石ビーズを足して改良を試して欲しいと頼まれたのだ。
 その結果に出来たのが、暗闇の中でも昼のように見える暗視ゴーグル。
 これがなんと大人気となり、最初に造った百個は即日完売。その後も、欲しがる客が鈴猫屋に殺到しているそうだ。

 地下遺跡の探索には、携帯灯の魔道具が欠かせないが、灯りは蟲や合成獣たちに、こちらの位置を知らせてしまう危険も孕んでいる。このゴーグルなら、敵に位置を知らせることなく、自分ははっきりと周囲が見えるのだ。
 他の魔道具屋でも、すぐに類似品が売られ始めたようだが、他の細工師ではレンズが歪んでしまい、あまりよく見えないらしい。

 ――結果。
 客たちに懇願されたクロッカスから、大急ぎの追加注文が入り、ラクシュはこの二週間というもの、工房にずっと篭りきりでゴーグルの製作に取り掛かっていた。
 貧弱な魔物とされている吸血鬼だが、火や風に植物などを操る魔法の力は、飛びぬけて優れている。ラクシュは特にその力も強く、手の平に鉱石を乗せて念じるだけで、超高温の炎で綺麗に溶かすことができた。
 だが、レンズの作成だけでなく、取り付けや外部の鉱石ビーズにも手間暇がかかる。
 殆ど眠りもしないで作業に勤しむラクシュを見かね、アーウェンは手伝いたいと言ってくれたけれど、彼に魔道具造りの能力は、残念ながら相変わらずゼロだった。
 なので、気持ちは大変に嬉しかったが、やはり一人でせっせと頑張ることにした。

(九十……百、できた)

 木箱に揃えたゴーグルを数えてラクシュは頷く。
 時計を見ると、クロッカスがもうそろそろ品物を取りに来る頃だった。なんとかギリギリ間に合った。
 いつもなら作った魔道具は、街に買出しも兼ねて店へ届けに行くのだが、今回は急ぎのためにクロッカスが取りに来る。
 木箱を片手で抱えて部屋の扉を開けると、気配で解っていたが、やはりアーウェンがすぐ傍にいた。どうやらノックをするか迷っていたらしい。

「っ……え、と……品物、出来たんですか」

 妙にうろたえた様子のアーウェンが、しどろもどろに言いながら視線を逸らす。

「ん」

 ラクシュが木箱を見せると、ヒョイと取り上げられた。

「けっこう重いじゃないですか! これは俺が運んでおきます。 もうすぐクロッカスさんも来ますし……あ、チョコケーキを作りましたから! 居間で待っていてくださいね」

 木箱を肩に担いだアーウェンは、振り向きもしないで早口に言うと、そそくさと玄関に向ってしまった。

「ん?」

 取り残されたラクシュは、首をかしげた。
 ここ最近は、アーウェンとも食事時くらいしか顔をあわせず、彼はラクシュが倒れてしまうのではないかと、本気で心配していたようだ。
 二週間前にちゃんと血を飲ませて貰ったのだし、昔は不眠不休で一ヶ月も戦い続けたこともあるのだから平気だと言ったが、どうも納得できないようだった。
 それでも、これで造り終わったのだから、安心して喜んでくれると思った。
 アーウェンの周囲には、あの綺麗なキラキラがたくさん見えると思ったのに……。
 足早に立ち去ったアーウェンは、どこか悲しそうで、キラキラも薄れたままだ。

(アーウェン……嬉しくない?)

 アーウェンが贈ってくれた室内スリッパの足元を眺めながら、スルスルと静かに歩いて居間に向う。

(……チョコケーキ、チョコケーキ……だいすき、アーウェン、の、チョコケーキ……)

 いつもなら心の浮き立つ素敵な言葉も、今日はやけに胃もたれするような感じがした。

***

「――急がせて悪かったな。コイツを欲しがる客たちが、店に無いなら細工師を紹介しろって、暴動を起こしそうなんだ」

 木箱を馬車に積み込んだクロッカスは、嬉しいような困ったような顔をして見せる。そして夜道を、せわしなく街まで戻っていった。
 アーウェンはラクシュと共に、走り去る馬車のシルエットを見送ってから玄関の中に入り、扉が閉まると同時に歯を喰いしばった。


 ―― く、ああああっ!!! ラクシュさんとイチャイチャしたい!! ラクシュさんにピッタリくっつきたいっっ!! ラクシュさんラクシュさんラクシュさあああああああん!!!!!!


 ……と、内心の雄たけびを漏らすわけにはいかない。

「お疲れさまです、ラクシュさん」

 アーウェンは内なる野獣を慎重に押し殺しつつ、なるべく平静を装い、笑って見せた。
 とても惜しいが、ラクシュからさりげなく離れる。

「ん」

 ラクシュは満足そうに頷き、身体をほぐすように大きく伸びをする。
 逸らした喉や、きゅっと目元を瞑る表情に、思わず喉が鳴りそうになってしまい、アーウェンは慌てて目を逸らした。

「お、お風呂……沸いてますから」

 ラクシュをなるべく見ないようにして声をかけ、素早く居間に戻った。茶器を片付けていると、浴室から微かに水音が聞こえてくる。

(……っ!!!! だ、だめだめだめ!! 我慢しろ!! ラクシュさんは、大仕事をやっと終えたばっかりなんだから!!!)

 ティーカップを握りつぶさないように苦労しながら、アーウェンはプルプルと全身を震わせる。
 本音では、今すぐ浴室に飛んでいき、ラクシュを押し倒したくてたまらない。
 この二週間、指一本触っていないのだ。
 ラクシュが非常に忙しいのは解っていたから、アーウェンもなるべく邪魔をしないように勤めていた。
 幸いにも、畑の手入れや家の修繕に保存食作りなど、やることには事欠かず、ラクシュが工房で黙々と作業をしている間に、アーウェンも忙しく動き回った。
 おかげで野菜畑には雑草一本なく、家はどこもピカピカ。食料棚には瓶詰めの果物や乾物がぎっしりだ。

 しかし、その代償として、アーウェンのラクシュ補給欲求度は、限界まで高まっていた。

 ようやく作業が一段落したのだから、ラクシュにゆっくり休んで欲しい気持ちと、一刻も早く抱きついてむしゃぶりつきたい欲求とのせめぎ合いだ。

「……はぁ」

 茶器を流しで洗いながら、思わず溜め息が零れる。
 最後にラクシュへ触れた二週間前の夜、血はたっぷりと飲ませた。本人が言う通り、二週間の不眠不休くらい平気だろう。
 それは解っている……けれど、ラクシュがこんな風に工房に閉じこもっていると、あの弱りきっていた頃の姿が、どうしても浮んできてしまうのだ。

(っ……仕方ない。俺の欲求なんかより、ラクシュさんを休ませるのが先決……っ!!)

 くっと涙を飲み、アーウェンは布巾でカップを丁寧に拭き、食器棚にしまっていく。
 そもそも、ラクシュは血飢え以外の時は、基本的にそっちの方面に関して、非常に淡白だ。
 アーウェンを大好きだと言ってくれるし、抱きたいといえば拒まれもしないが、ラクシュが積極的に誘う事はない。積極的に触りたがるのは尻尾くらいだ。
 だから、ラクシュが望まないのなら、自分の欲求不満を優先になどしたくない。
 今の状態で性感帯の尻尾に触られでもしたら、確実にその場で我慢できなくなるので、アーウェンはさっきから狼耳と尻尾を出さないように、全力で気を配っている。
 あとはラクシュが風呂からでて自室に戻るまで、あまり顔を合わさないようにやり過ごそう……と、思った時だった。

「アーウェン」

 唐突に背後から抑揚のない声があがり、アーウェンは飛び上がらんばかりに振り向く。
 白いネグリジェを着たラクシュが、いつのまにかすぐ後ろにいた。湯の香りや濃い湿気も、振り向いた今ではしっかり感じるのに、どうしてかいつも、背後に回られるのには気づけない。

「は、早かったですね……」

 うっかり独り言を言わなくてよかったと、アーウェンは冷や汗をかき、声を上擦らせた。

「ん」

 頷いたラクシュの短い髪はまだ濡れており、毛先から細かな水滴が落ちてネグリジェの肩を濡らしている。
 いつもなら、ちゃんと魔法で風を起こして髪を乾かしてくるのにと、アーウェンは苦笑した。

「ほら、まだ濡れてますよ。やっぱり疲れてるみたいですね」

 ラクシュが手に持っていたタオルを取り、艶やかな純白の髪が傷まないように、丁寧に髪の水分を拭き取っていく。
 こうしていると、一緒に暮らしてから数年後のことを、余計に思い出した。
 あのころ、本格的な血飢えに苦しみ始めたラクシュは、魔道具の製作以外では、魔法をいっさい使わなくなった。
 グショ濡れの髪でフラフラと工房に戻ろうとするラクシュを追いかけ、毎晩のようにこうして髪を拭いたものだ。

「ん……」

 小さな声をあげ、ラクシュが心地良さそうに目を閉じた。赤い唇がゆっくりと開く。

「疲れて、ない……けど……きみに、拭いて、欲しかった……んだ」

 いつも通りの抑揚のない声は、その奥にアーウェンだけが聞き取れる、うっとりした恍惚を含んでいた。

「ラクシュさん……?」

 アーウェンは思わず息を詰め、ラクシュを凝視した。赤い目が薄っすらと開き、またすぐに閉じてしまう。瞳を閉じたまま、ラクシュはポツポツとまた声を発した。

「アーウェンに、髪……拭いて貰うの、嬉しいんだ……血も……足りてる、けど……私、君に、いっぱい、触りたくなる……」

 そしてラクシュは、困惑気に首を傾げた。

「私……変に、なった?」

 一瞬、アーウェンは声も出ずに、夢中でラクシュを抱き締めた。

「ん? アーウェ……?」

「……ラ、ラクシュさん!! ラクシュさんラクシュさんラクシュさんラクシュさん!!!!」

 力を込めすぎないようにしなければと思うのに、どうしても強く抱き締めてしまう。がむしゃらに唇を重ね、何度も角度を変えて貪りつくした。

「すみません……俺、もう我慢できない……ラクシュさんを、思い切り抱かせてください」

「ん……」

 ラクシュが小さく頷き、眩しそうに目を細めた。

「アーウェン……すごく、キラキラ……ゴーグル、取って、くる」

 そのままひょいと腕から逃れそうになったラクシュを、アーウェンは後ろから必死に抱きとめた。
 狼の耳と尻尾はとっくに飛び出て歓喜を示し、瞳には虹彩が浮んでいる。

「待っていられません……眩しいなら、こうしますから」

 タオルをラクシュの目元に巻きつけて覆い隠し、しっかりと端を結んで目隠しをする。

「ん、でも……これ、見えない……」

 少し不満そうなラクシュを抱きあげて、耳元で囁いた。

「じゃぁ、ラクシュさんがどうなっているか、俺が全部言って聞かせますから」

 ラクシュを抱いて二階の寝室へと駆け込み、寝台に組み敷いた。
 ドクドクと血流が耳の奥でうるさく鳴っている。理性が飛びそうなほど興奮しているのに、衣服を引き裂きたい衝動は起きなかった。代わりに、仰向けに寝たネグリジェの胸元に、小さな突起を見つけて指で摘む。

「っ、ん」

 小さな声がラクシュからあがり、犬歯のわずかに伸びた口元が、勝手にニヤけた。
 片方を衣服の上から指先で挟んで嬲り、もう片方を口に含む。湿った布越しに尖った感触を楽しみ、息を吹きかけながら囁いた。

「ここ、俺が触る前から、硬くなっていたみたいですけど?」

「……っ、っ……ぁ、あ……」

「直接触って欲しいんですか?」

 布の上から軽く歯を立てると、組み敷いた身体が細い悲鳴をあげて仰け反った。
 コクコクと懸命に頷かれる。

「アーウェン……脱がせ、て?」

「……はい」

 素直に告げられる誘惑の言葉に眩暈を覚えながら、丸い木のボタンを一つづつ外していく。
 薄っすらと蒸気した肌が露になり、薄桃色の突起を頂点にした胸が、浅い呼吸を繰り返している。
 小さな突起を舌で舐めると、ヒクンと可愛らしく震えた。

「ラクシュさんの胸、すごく可愛いですよ。膨らんで、どんどん赤くなってくるし……」

 乳首を嬲りながら、もじつかせている脚の奥に手を伸ばす。膝裏に手をかけて左右に大きく開かせた。

「こっちも、何もしてないのに濡れてるじゃないですか。これ、お風呂のお湯じゃないですよね?」

 赤みを帯びてほころんだ花を指でつつき、とろみのある蜜を掬い取る。濡れた粘着音を響かせると、目隠しの下で頬を蒸気させたラクシュが頷いた。

「ん……きみに、胸……触られたら……そこも、きもちよく、なった……」

 抑揚のない声にも熱い吐息が混じり、蕩けそうな色を帯びている。
 率直に快楽を認めるラクシュに、やはり羞恥責めは無理のようだと、アーウェンは内心で苦笑した。
 しかし、ストレートに快楽を訴えられ、アーウェンで感じると素直に告げられる方が、万倍も興奮する。
 ぬかるみに指を差し込むと、離したくないというように吸い付いてきた。

「ん、アーウェ……もっと……」

 ラクシュの両腕が宙をかき、アーウェンを探りあてた。白い手が首にまわり、引き寄せられる。

「はい。ラクシュさんが好きなこと、いっぱい教えてください……」

 指で熱い内部をかき回すと、耳元で悩ましい吐息を立て続けに吐かれた。花芽を押すと抱きつく腕に力が篭り、短い嬌声が漏れる。

「ん、ん……そこ、きもち、い……けど……」

 戸惑うように、首を傾げられる。

「アーウェン……早く、君が、欲しい……中に……」

 細い足が腰に絡みつく。

「……はい」

 アーウェンは掠れた声で返答をし、下穿きから痛いほど張り詰めた雄を取り出した。硬い熱をすぐにでも埋め込みたかったが、ラクシュの手をとって触れさせる。
 手の平は汗ばんでいても、たぎった雄にはひんやりと心地よく感じられ、思わず呻き声が漏れた。

「ラクシュさんが、入れてくれませんか?」

 両腕で身体を支えてラクシュに覆いかぶさり、雄がちょうど入り口に当たるように腰を落とす。

「ん……?」

 ラクシュは首をかしげたが、すぐに了解したようで、蜜壷の入り口へと雄の切っ先を導いた。濡れた花弁の合間に、ゆっくりと先端を埋め込んでいく……。

***

「――あ……きゅって締め付けてきますよ。ここが気持ち良いんですね?」

 ラクシュの腰を掴んで揺さ振りながら、アーウェンがとても嬉しそうに言う。

「ん……ん、ん」

 動かされるたびに、内部のちょうどイイところを突かれるから、返答は喘ぎ声にまざってしまい、頷く動作も快楽の悶えと一緒になってしまう。
 感じる場所を集中的に抉られ、また絶頂におしあげられた。
 アーウェンにしがみついて身体を痙攣させていると、満足そうに髪を撫でられる。
 もう何時間もこうして睦みあっているから、白い髪からは湯の湿気など無くなっているが、代わりに汗でしっとりと湿り、頬や額に張り付いていた。

(……喉、渇いた……なぁ)

 目隠しのタオルはとっくに外れていたが、すぐ目の前にいるアーウェンが、あんまりキラキラと眩しいから、とても目を明けていられない。
 目を瞑ったまま、ラクシュはアーウェンの首を引き寄せて、耳元で強請る。

「アーウェン……お水、欲しい……」

「はい。ちょっと待ってくださいね」

 繋がったまま、アーウェンが片腕だけを離してわずかに身動きをした。寝台の横に置いてある水差しを取ったのだろう。
 目を閉じて待っていると、唇が柔らかく合わさった。
 口移しに流し込まれた水は、もう随分と生ぬるくなっていたけれど、喉を鳴らして夢中で飲み干す。
 とても美味しかった。もしかしたら、アーウェンのキラキラが水に溶けて混ざっているのかと思うほどだ。

「ん、もっと……」

「水ですか?」

「違う……お水、と、アーウェン……両方……」

 正直に欲しいものを言うと、閉じた瞼の向こうがいっそう明るくなり、キラキラの増えた気配がした。
 やっぱりゴーグルを取ってくれば良かったとも思うが、この繋がった時間が途切れるのも惜しい。
 だからせめて、目を瞑ったままアーウェンにしっかり抱きついて、大好きなキラキラの気配を感じることにした。

 魔道具を造るのは好きだが、今回のように少し大変な時もある。
 それでも頑張れるのは、同じ家の中にアーウェンがいて、ラクシュを大好きだと、キラキラで表現してくれるからだ。
 たとえ世界中からチョコケーキの材料が消えたとしても、少しがっかりするくらいだけど、これだけは失くせない。
 ラクシュが一番欲しいのは、いつだってアーウェンで……一仕事を終えた後のキラキラは、また格別なのだ。

 きっと本当に、このキラキラ狼の為に生きている。


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