あなたの隣で愛を囁く

ハゼミ

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肺水腫

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 「原因は不明ですが、現在旦那さんは肺水腫です・・・」

主治医は静かに呟いた。
 
 とは、肺胞内に液体成分が貯留することで、酸素と二酸化炭素のガス交換ができなくなり、全身の低酸素状態や呼吸困難を引き起こす疾患のことである。

 2020年1月4日、日中。
 検査の結果を、主治医が私に告げる。
 
 ・・・。
 私は項垂れながらその話を聞いていた。
 現在、人工呼吸器を再びつけたカズくんは、今も危険な状態にあった。
 「とりあえず、抗菌剤の投与と副腎皮質ホルモンの投与、それから透析を毎日行います・・・」
 検査の結果、前回よりも肺が真っ白な状態となっており、今できる治療を全てやっているのが現状だった。
 「とにかく、治療の効果が出るのを待ちましょう。」
 私は、
「分かりました、先生にお任せします。よろしくお願いします。」
 そう言って話を終わらせた。

 しかし、頭の中は真っ白であった。
 何がどうなっているのか、肺の病気は何もなかったのに、どうしてそうなったのか・・・。
 なんで、今、生死の境目に立たされているのか・・・

 医師からの話し合いを終え、途方に暮れながらも、カズくんのいるリカバリールームへとやってきた。
 カズくんは、人工呼吸器をつけるために再び薬で眠らされていた。
 人工呼吸器の反対側のベッドサイドでは、昼間の時間、人工透析の機械が置かれ、透析をゆっくりと行なっている。
 心臓に負担をかけないための治療だ。

 しかし、それが、前よりもまして身体中に管が巻き付き、体に触ることができないくらいだった。
 どうしたらいいか・・・
 途方に暮れていると、
 「奥さん、こちらにどうぞ」
 透析の機械を見ている看護師さんが、そう声をかけてくれて、椅子を用意してくれた。
 なんとかベッドの横に座ったものの、私はどう声をかけたらいいのか分からなかった。
 ただ、よくなって欲しい・・・
 そのことしか、頭には無かった。
 知らず知らず、目には涙が溢れて、今にも泣き出しそうになった。
 しかし、それをグッと我慢すると、なんとかカズくんの指先に触れた。
 手の甲から指にかけて・・・パンパンに浮腫んでおり、まるで別人の様である。
 ただ、依然と同様に暖かかった。
 私は、その指先を優しく撫でる。
「カズくん、約束だよ。私とまたデートしてくれるって」
 そう、自分にも言い聞かせながら、私はカズくんに話しかけた。
 
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