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第2章
ダフォディル
しおりを挟む千藤偲が死体として発見されてから二週間経とうとしていた。
だが、誰も千藤偲の死体を知らなかった。
それどころか、千藤偲自体最初からいなかったように誰も千藤偲のことを口にしなかった。
─ただひとりを除いては。
柊深冬《ひいらぎみふゆ》は、千藤偲の幼なじみだった。
だった、と過去形なのは偲が小学校にあがる前に引っ越していったからだ。
それも深冬には、何も言わずに。
深冬は、偲が引っ越す当日に偲が引っ越すことを知り、泣きながら偲の乗った車を追いかける。
『偲ー!!』と力いっぱい叫ぶも、遠ざかるだけ。
深冬は、泣き崩れながら偲への淡き恋心を渡すはずだったラブレターに封じた。
そして、そのラブレターをビリビリに破った。
そんな幼き頃の思い出を胸に生きてきたが、ある日を境に誰も偲を忘れ、いや最初からいなかったようにだった偲を知らない世界に変わっていった。
自分だけが偲を覚えていることに不思議に思いつつ、やがて自分だけが偲を知っていることに絶望する。
そのとき、深冬の目の前にダフォディルが咲く。
本来、春に咲く花で冬の今に咲く花ではないはずなのに。
訝しみつつも、雪が降り注いでも折れないダフォディルの美しさと強さに惹かれ、
触れたそのときに何者かが深冬に語りかける。
『ダフォディルの花言葉は、“報われぬ恋”、そして“あなたを待つ”。お主は、ずっと愛した者との再会を望んでいたように思う』と胸の内を見透かされる。
深冬は、幼き頃のあの日から本心ではずっと偲との再会を望んでいた。
そして、そのときをずっと待っていた。
声の主は、血塗れの偲を深冬の目の前で見せた。
深冬は今度こそ本当に絶望した。
声の主は、深冬に『救いたいか』とたずねた。
深冬は、無言で頷いた。
声の主は、『宜しい。では、今からお主は私と契約してもらう』
そういい、ダフォディルの花を深冬に差し出す。
ダフォディルにキスをした深冬は、“アイアン・ダフォディル”に変化した。
声の主は、『お主が、ダフォディルの咲く春までに復讐を遂げたら、お主の望む現実を叶えてやろう』
─ただし、復讐を遂げられなかったら、お主は永遠に黒いダフォディルとしてこの世を呪いながら生きるしかない。
契約を果たした深冬は、まず偲を殺した犯人を探すが、なかなか見つからず。
そもそも、偲はこの世界からいないことになっている。
そこで深冬は、自身以外で偲を知っている人間が犯人であることに気付く。
深冬は出会う人すべてに『千藤偲を知っているか』をたずねた。
当然誰も知っているわけもなく、疲れ果てた深冬は美しき少女に『千藤偲を知っているか』たずねたら、少女は『知っている』という。
深冬は、ハッとして少女を見つめる。
少女も口が滑ったことに気づき、口を手でふさぐ。
深冬は、アイアン・ダフォディルに変化し、少女を攻撃する。
少女もブラッド・リリーに変化し、ふたりは殺し合う。
アイアン・ダフォディルは、『許さない!お前だけは、絶対に!』と叫びながら、ブラッド・リリーを殺そうとする。
殺せたと思った束の間、背後からブラッド・リリーに殺される。
そのまま絶命し、霧がかかった森のような場所で目が覚める。
殺されたはずでは、と訝しみながら森を歩いていくとダフォディルが咲き誇る花畑で幼き日の偲がそこで花を摘んでいた。
深冬は、偲をみて駆け寄ろうとするが、そのとき偲と深冬の知らない姉弟と思われる少女と少年が偲と笑い合いながらダフォディルの花畑にいた。
そして、偲は少女に『ずっと好きでした』と告白した。
少女は、ちょっと困ったような照れたようなはにかみ笑顔で頷いていた。
深冬は絶望し、黒いダフォディルに成り果てた。
黒いローブを身に纏う美しい魔女が『フフフ、やはり、花になったほうが美しいじゃないか、ねえ柊深冬だったダフォディル』
そういい、黒いダフォディルを摘む。
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