強面さまの溺愛様

こんこん

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一章

強面さまと訓練です

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初対面から2日後、見た人が確実に遠近感を疑うような2人が、早くも訓練を始めようとしていた。

「……お、おいあれ」
「…………訓練中だよな。え、合意の上?助けた方がいいのか……?」
「でもちっさい方も反撃してるっぽいし……大丈夫じゃないか?それに俺、怖くて声かけらんない」
「……そうだな。行こう」

見られていることに気づかない二人は、なおも戦闘を続けている。しかしこれを戦闘と言ってよいのかと思う程に、ロゼの攻撃はゼルドに効いていなかった。ゼルドもある程度は力を調整しているようだが、誰かに教えることなどなかったのだろう、容赦がない。


「手合わせをするぞ」
「は、はい。宜しくお願いします」

会って最初に、ゼルドはそう言った。ロゼは手合わせで自分の実力を測り、そこから共闘訓練をしてくれるのだろう、と足りない言葉を補って解釈した。リリーからの情報では、ゼルドはロゼの3つ上の20歳で、その世代の中では最も強いと言われている、らしい。支部にいる現役の火使いを合わせたとしても、上位の実力だそうだ。
それを聞いた時、そんな人と共闘なんて自分には荷が重すぎやしないかとロゼは自嘲気味に笑ったが、こうやって対面すると笑う余裕なんて微塵もない。


物凄い爆発音と同時に爆風によって吹き飛ばされたロゼは、壁にぶつかる直前に自身の背中側に半球体状の風壁ウィンドウォールを張り、身を守る。しかしゼルドによる爆発によって髪の先端が少し焦げてしまっており、身体もそこら中擦り傷だらけだ。
自身の神力を用いて術を発動する際、必ず詠唱が必要ということはない。しかし詠唱しないにしてもいくらかのタイムラグが生じてしまうのが普通だ。しかしゼルドにはそれがなかった。

円状に窪んだ訓練場の壁から身を起こしたロゼが見たのは、自身の手を開いたり握ったりして、加減を調整しようとしているゼルドの姿だった。

――まるで相手にならないじゃないですか!これで実力の一割とか言われたら、私は泣く自信があります!!

悔しいやらなにやら、ロゼは複雑な気持ちだったが、こちらの実力をはかるために相手をしてもらっている以上は全力でいかなければならない。
ロゼは走り出した。手に持った長剣を振って複数の風刃ウィンドカッターをつくり出し、そのままゼルドの懐に入り込もうと走り続ける。風刃ウィンドカッターが避けられても、接近戦に持ち込めると判断したのだ。

しかし予想に反してゼルドは攻撃を避けることなく、手に持った柄の長い武器を構え、そして目に見えない速さで横に薙ぎ払った。

「ぅえっ!?」

ロゼは仰天した。見た限り神力を使った様子もなかったのに、その一閃でロゼの放った刃が全て切り込まれ周りに吹き飛んでしまったのだ。煙が立ち込める中、何もなかったように無表情で立っているゼルドは、ロゼにとってはまるで得体のしれない魔物、いや鬼神だった。

――――神力を使った様子がないということはまさか、風圧で!?ええええええ、風使いのいる意味ないじゃないですか!

ごもっともである。

ならば接近戦で、と思い跳躍して剣を振り下ろすが、それさえも右手首を掴まれて封じられてしまう。結果、方手首を掴まれたままぶらーんと吊るされてしまった。なにせ身長差が二倍近くあるので、今の状態はいたずらをして捕まえらた子猫と、その子猫をどうしてやろうかと吟味している魔王、いや男にしか見えない。
ちなみに今、ゼルドは柄の長い、いかにも切り刻む、殴る、断ち切るのにふさわしいような武器を持っているので怖さはいつもの倍である。睨まれたらどんな悪党も失禁して気を失うだろう。

「終いか?」
「………………………他にも見てもらいたい技はあったんですけど、まあ、はい」
「そうか。改善点は大いにありそうだ」
「……はい。あ、あの、すみません。下ろしてもらえませんか」

そう、ロゼは先程からずっと左手首を掴まれ持ち上げられた状態のままだった。血が上ることによって生じた独特の痺れが少し痛い。
おずおずと言ったロゼに対し、ああ、と今思い出したようにこぼしたゼルドはロゼの左腕を離した……………が。

「に、にゃんで!?」

それと同時に反対側の腕に持ち替え、ロゼの首根っこを掴んだではないか!これで、吊られた猫状態は継続、いや悪化してしまった。
哀れロゼ、まさに猫の扱い。

「下ろしたら顔を合わせるのが難しくなるだろう」

確かにえげつない身長差のせいで、ゼルドと話す際ロゼは首を痛めながら話さなければならない。それを考慮してくれたのは分かる。
だがしかし。

「心配の方向性が間違ってます!これはおかしいでしょう!!」
「…………そうか?別に重くないぞ」
「――そぉゆうことじゃないんですよ!と、とにかく、下ろしてください」
「……分かった」

よくわからん奴だな、という顔で下ろされる。

――いやいや、私は正常ですよ!怖い顔顰めて首傾げないでください、可愛くないです!……なんかもう、疲れた……

ロゼは普段、誰かに対して声を荒らげることは滅多にない。だのに、みんなから恐れられるゼルドに言い返しているのだから不思議だ。案外肝が座っているのか、それともゼルドの行動が異常なせいなのか。

ロゼは気づいていないが、最初あんなに怖がっていたゼルドの顔も今は普通に見れるようになっていた。自分の何倍もでかい体の男に、どもりながらもきーきーと言い返す。その様はまさに可愛らしい子猫だ。

「それじゃあ」
「り、両手で持ち上げるのもダメです」

両手を広げてロゼの両脇に差し込もうとしたゼルドは、ロゼの拒絶にあい、腕を下ろす。

「面白いやつだな」
――――私は正常です!

少しむくれたロゼは気が付かなかった。
鋭いゼルドの目が、少しだけ緩んでいることに。






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