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一章
まあ、そういう反応ですよね
しおりを挟む―――聖師長の、まご?
今、有り得ない言葉が聞こえなかったか。
「孫って言ってもなぁ。全く似てないしな」
「それに姓が違うし、俺も噂聞くまでは知らなかったよ。なんでも母方の祖父らしいぜ」
「ああそれで」
二人組の会話の内容は理解できているはずなのに、まるで頭に入ってこない。
孫。
いちばん偉い、聖師長様の。
何故今まで気付かなかったのか。
驚愕にその場で目を見開くロゼが次に思い出したのは、今まで自分がゼルドに対して行った行動の数々だった。
撫でて欲しいなどとのたまった上に、防衛の為とはいえ両手で顔を掴んで引き離そうとし。
最近では恥ずかしいという理由で一方的に避けて、顔も合わせようとしなかったではないか。
―――っぁぁぁあ゙あ!!思い出したら私っ、なんて失礼で恥ずかしい事を!えっ、懲罰もの!?退職届書かなきゃダメなやつ!?
思い出される己の数々の愚行や痴態に、ロゼはその場で膝を折って頭を抱えたい衝動に駆られていた。
そもそももっと恥ずかしい事やアウトな事など、ゼルドが散々やらかしているのだが……そこは念頭にないロゼである。
そうやってしばらくの間羞恥に内心悶えていたが、ある考えに行き着いた瞬間、ぴたっと慌ただしい内心が静かになる。
―――そんな人に、…………好きだなんて。烏滸がましいにも程があるでしょうか。
ただでさえ子供のようにしか思われていないというのに、そんな遠い存在であるならば。
もう諦めろということではないか。
しかしそれで諦められるほど、この思いは軽くはない。ロゼはそれが自分でも分かっていた。
「…………知りたく、なかったな」
その小さく呟かれた言葉は誰の耳に届くこともなく、白い息とともに凍てついた空に消えていった。
入隊式は何事も無く終わりを迎え解散となり、それぞれの隊員は各隊での顔合わせ場所に移動する。
第一棟の中は、それぞれの隊の執務室と仮眠室、そして隊長室がある東側と、小さい書物室と隊員の部屋がある西側で分かれている。西側においては、各階にそれぞれの隊の部屋が与えられ、同じ隊の隊員の部屋はロビーで繋がっているという構造だ。
ロゼの所属する第一隊は一階に部屋を与えられており、今日顔合わせと親睦会が行われるのはその中心にあるロビーである。
「じゃあまず、新期生から挨拶といこうか」
隊の中ではまとめ役をこなしているのだろう、シュデルが前へと進み出て、爽やかな笑顔と共にそう述べる。
こうやって先輩らしく振舞っていると、成程、整った顔立ちの美青年である。
しかしゼルドといる時には何故ああも不憫さが出てしまうのか……ロゼはシュデルの言葉を真面目そうに聞きながらもそう思っていた。
……しかしながらロゼは誤解している。ゼルドとシュデルのやり取りが常にあんな感じな訳では勿論ない。ロゼのことに関して例外なだけでなのである。
そうとも知らず、最初にシュデルに指名されたロゼは挨拶を始めた。
「ロゼ=シュワルツェと申します。新人隊員の時は第二隊所属でした。……ぁえと、あとは……」
ロゼがシュワルツェの名前を出した途端、辺りは少しざわつく。
―――やっぱり、こんな反応になりますよね。……私がシュワルツェだなんて、自分でも分不相応に思うのに。
「ロゼちゃんの属性は?」
「あっ、風使いです!出身はアデライドで、家族構成は父と母と私です」
―――家族構成って普通言うのかな?え、言わない?もう何話せばいいのか……
「ごめん、ちょっと質問いい?」
頭が混乱するロゼへ、男の隊員から質問が飛んでくる。
「っはい」
「あいや、そんなに畏まらなくても大した質問じゃないって言うか…………シュワルツェって、あの有名なシュワルツェ商社の?」
「…………はい、そうです」
まず最初にシュワルツェの名前を聞いた時、大抵の人はこの反応をする。
最近では名乗ることも少なかったロゼは、この反応久しぶりだなと思いながらも、ふと疑問に思った。
―――そう言えば、ライツィヒ先輩、いえシュデル先輩は私の姓を聞いた時に驚いた様子はなかったですね。……それどころか、元から知っているような口ぶりでした。
粗方、何処かで自分の事を聞いたのだろう。しばしの間考えた後、ロゼはそう結論づけた。
ロゼの実家であるシュワルツェ家は祖父の代から商社を営んでおり、二代目、つまりロゼの父の代で分野問わず数々の成功を収めた為、シュワルツェ商会はアデライド国内だけではなく世界中に名が知れ渡る程に成長した。
言うなればロゼはその商家の一人娘であり、現在におけるただ一人の相続権保有者である。
まあ、両親がロゼの神殿行きを許した時点で、外から養子を取り後継者とすることは決まっている。なので現在のロゼにとってはあまり関係のない話ではあるのだが。
……だがしかし、実家についてだけ考えると、ゼルド程ではないにしてもロゼも一般人からはかなり遠く離れた立場にいるのだが……本人はそのような発想には至らないらしい。
ロゼ自身は体も小さく内気なため、まず商家のご令嬢には見えない。どちらかと言うと天敵に脅えているような小動物、といったところだ。
なのでロゼが自分の姓を名乗った時には殆どの人が驚き、しげしげと見てくるのだ。
「まあ大商家の一人娘と言っても、ロゼちゃんには継ぐ気はないし、養子も取るんでしょ?だからあんまり気にするべきことじゃないさ。…………あ、ごめんね。勝手に事情をぺらぺらと」
「いえ、それは大丈夫ですけど………………シュデル先輩、よくご存知ですね」
「っぇ!あ、あははははははは。いやほんと偶然小耳に挟んでさ。ホント偶然。それじゃあ次の紹介いこうか!」
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