強面さまの溺愛様

こんこん

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一章

無理です

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「よし、机は移動終わったよー。これで全部かな?」
「はい。ライツィヒ先輩、忙しい中、本当にありがとうございます」
「シュデルでいいって。新しく来た隊員の世話をするのは先輩の役目だからね、気にしないでじゃんじゃん俺を使ってよ」

新人棟から第一聖師団隊員の部屋が与えられる第一棟へのお引越しを終えたロゼは、運んできた荷袋を置いて、手伝ってくれた先輩の一人――シュデル=ライツィヒ――へと礼を述べる。


「ろ、ロードさんも、ありがとうございました」
「……………おい」
「……ろ、ロゼちゃん?さっきからなんでゼルドの方を見ないのかな?ちょっと俺、この雰囲気に耐えられないというか怖さでちびりそうというか」


ロゼはお引越しの手伝いをしてくれたもう一人の先輩、ゼルドにも礼を述べる――――ゼルドがいる方とは反対側の壁へ、顔を向けながら。
不自然な動かし方をしたせいで首が少し痛むのだが、そんなことよりもロゼには大事なことがあった。

そう、恥ずかしくてゼルドの顔を見れないのである。

―――あああああ、どうしましょう!今まで普通に顔を見て話せていたのに、すっすすす好きだなんて気付いたらもう!もうっ!顔なんて見れる訳ない!!

他の人にとってはある意味顔が見れないような、厳つくて眉間にシワの寄った、堀の深さが影を生みだして怖さを倍増させているような巨体の男が……ロゼにはとても素敵で男性に見えていた。

そんなロゼは恋する乙女全開で、心の内はぐるぐると色んな感情やら言葉やらが飛び交っており、大変面白い状態ではあるのだが…………ゼルドがそんなことを知るはずも無く。自分の方を向かずに喋るロゼを見て、先程から黒いオーラを部屋中に漂わせているという訳だ。

「これはその、くっ首が痛くてこっちにしか向けなくてですね」
「さっき俺の方見て話してたよね?それに痛いとしたら絶対今の首の角度のせいだよね?」

口が達者でないロゼは、ゼルドと最初会った時と同じ言い訳を使いながらもなんとか誤魔化そうとする。
その間にも、部屋の天井に頭をぶつけないように屈んでいる大男の機嫌は急降下し、部屋の温度も急激に下がってゆく。


「――ロゼ」


掠れるような低い声が部屋に響く。
選抜試験の直後から、ゼルドはこのようにロゼのことを名前で呼ぶようになった。そして名前で短く呼びかける時は、大抵何かの意味を含めているのだとロゼは気付いている。
今の呼び掛けは、こちらを見ろという事だ。

それでも壁から顔を逸らさないロゼへ、ゼルドが一歩、二歩と足を踏み出す。
新人隊員の時の相部屋と同じ位の大きさのこの部屋では、端と端に居たとしても、ゼルドの二歩でほぼゼロ距離まで詰められてしまう。

背後から伸びた手がロゼの正面にある壁におかれ、ロゼを壁の間に囲う。そしてもう片方の手で顎をとらえ、目線を上へとあげさせる。
そこには、表情の抜け落ちたようなゼルドの顔があった。

「俺が怖いか」
「っい、いいえ」


間近で顔を覗き込まれたロゼの心臓は限界まで高鳴り、もはや痛いほどであった。


「なら何故顔を見ない。……今更怖がろうが、もう遅い」
「…………?」

遅い、という言葉に首を傾げ………られないが、内心不思議に思ったロゼは、取り敢えず顔を見て話さなかったことは謝ろうと思い口を開いた。

「か、顔を見て話さなかったのは、失礼でした。……ごめんなさい」


―――いやだって無理無理無理無理!こんなにかっこいいのに、直視しながら話すとか無理!


ゼルドを知る人がこのロゼの心の声を聞けたとしたら、正気の沙汰を疑うだろう。

黒いオーラを放ちながら自分を覆うようにして囲い込んでくる男から、ふるふると震え、若干顔を赤くしながらも目を逸らす小さめの女の子。
べられる準備オッケーなご馳走の図である。


「あっ、あー!ほらっ、ゼルド!もうすぐ入隊式始まっちゃうよ!!ロゼちゃんも行かないと」
「ロゼちゃんだと?貴様まだ」
「そのくだりはもういいから!ほら、ロゼちゃんも早く」
「はっ、はい!」


急に大声を上げたシュデルの言葉にはっとしたロゼは、巨体の脇をすり抜けていそいそと準備を始める。

そんなロゼの様子を、ゼルドはただじっと見つめていた。







入隊式は、その年入隊する者がそれぞれ所属の決まった師団の訓練場に行き、隊長やその上層部、そしてその師団の先輩達の前で宣誓する形で行なわれる。
ただ宣誓と言っても代表者が一人前へ出てする形なので、ロゼは立っているだけで参加したことになる。

――こういう行事の時って、何で大抵背の順なんだろう…………まあ、見やすいからっていう理由は分かりますけど。

行事で整列する度に一番前に立つロゼは今日も例に漏れず先頭に立ち、背筋を伸ばして上官となる第一聖師団長の言葉を聞いていた。
聖師団長とは、ロゼの直属の上官となるリデナス隊長の更に上官、つまり幾つかの隊を持つ"聖師団”のトップに君臨する者のことを言う。

横に立つ補助の音使いが音声拡張術を使っているのだろう。第一聖師団長であるレライ=ノーヴァはそのテノールボイスを会場中に響かせ、聞いている団員、特に女性を虜にしていた。
日に照らされて輝く髪は漆黒、そして気だるげに垂らされた前髪から除く瞳は薄い黄色で、光の加減によって所々黄金に輝いている。
中性的な美貌に反して身体にはしっかりと筋肉が着いており、服の上からでもしなやかで強そうな肉体であることが分かる。
今年三十歳となるこの御仁は、異例の若さで昇進したことで有名だ。実力も確かで、本部に居る三人の聖師団長の中では最も強く、そして更にその上の、支部を含めた全ての御使いと神官の頂点に立つ”聖"に次ぐ力を持つとも言われている。
最近では次期聖師長であるとの噂も出回っている程だ。

今年の代表者が壇上に上がり、そこに立っているレライ=ノーヴァの前へと進み出る。


「――おい、聞いたかよ。今年の代表者、レライ=ノーヴァ様の弟なんだってよ」
「マジでか?まあノーヴァ家は御使いの輩出で有名だからな。しっかし身内同士で宣誓とは、不思議なもんだなぁ」


先程から欠伸を噛み殺して眠そうにしていた二人組が、ロゼの後ろに立ったままひそひそ声で話し始める。
その話を聞いたロゼは壇上を見上げた。


―――確かにどちらの方も、色彩が同じです。弟さん?はこちらに背を向けているので顔は分かりませんが…………きっとそっくりなのでしょうね。

今見て違うと分かるところと言えば、レライ=ノーヴァが胸元まであるかないかくらいの髪を後ろで一括りにしているのに対し、弟――レイ=ノーヴァと言うらしい――は短髪であることくらいだ。

兄弟で優秀とは凄いなぁと思いながら、これから上官と同僚になる二人をロゼは呑気に見ていた。
その間にも、怠惰な二人組の話は続いている。


「身内と言えばさ、もっとやばい人がいるよな」
「ああ……三年前に入隊した、ゼルド=ロード先輩だろ?」


―――ロードさんの、話?

ゼルドの話になった瞬間にぴくりと肩で反応し、じっと聞き耳をたて始めるロゼ。


「新人隊に上がったばっかりの時にさ、コネで御使いになったんじゃないかって一時期噂になったらしいぜ。まあほんと一瞬で消えたらしいけど」
「あの姿見てコネだなんて思えるか?完全に実力だって分かるだろ。…………まあ、身内があの方じゃあ疑われても仕方ない気がするけどな」


「ああ。なんたって、聖師長の孫だからな」









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