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相羽─病院
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しおりを挟む色々な部屋を回りかき集めたカーテンを繋ぎ合わせ、ほどけたりしないようにチェックをする。問題なさそうなのでベランダの柵に結ぶ。またほどけないかチェック。恐らく問題ない。
──ここまでして、出ていかないといけないのか?
作業することによって熱が冷めていった理性がささやく。
──ここで大人しく医療関係者を待った方がいいのではないのか?
病院内どころか、眺めた病院外のことでさえ理解不能だ。慌てず騒がず落ち着いてここにいるべきじゃないのか。無意味に患者を放置するような病院が存在するはずがない。その認識で言うならば、放置されているわけではなくきちんと管理されているはずだ。そもそも相羽は今無手だ。外に出たところで何もできない。待っていれば人に会えるはずだ。
その考えは頭の中にある。あるが、彼には選択できない。
ロボット、見つからない人、使用できないエレベーター、入れない2階以下、内容のわからない点滴薬、繋がらない電話、見たことのない地元の町並、階段の臭気・・・。
──いや、逃げなければいけない。ここに居てはいけない。
自称神様がどこにいるのかわからない。下にいるのか別の病棟にいるのか遠くどこかから見ているのか。悪趣味なロボットのキャラクターなのかもしれない。学習型AIがかつての患者にいたずらで植えこまれたデータかもしれない。何せ俺が知っているロボットとは断然レベルが違う。そういうことを言われたとしても有り得ない話ではないとは思う。けれども、あの気持ち悪いほどの生々しさがどうしてもロボットの中から生まれたものという可能性を否定していた。
そういえばロボットは意外とこの行為を止めない。勝手にカーテンを引っぺがしてごそごそとやっているのに、一切お咎めなしで横で見ている。正直取り押さえられると思っていたのに、拍子抜けしたりしたものだった。備品をどう扱っても大丈夫なのか、あのタイプのロボットは備品管理の任務はないのだろうか。
さて、ある程度準備が整った現時点で最後にこれだけはやっておかなければならないことがある。知識がない俺にとっては恐らく大事なことだ。
「おいロボット」
『はい。』
「俺はもうこの点滴を拒否する。もうやらないし、いらない。いいな」
『投薬を、拒否されるということですか・・・』
この鬱陶しい点滴はどこかで外さないと邪魔で仕方ない。俺の知っている法律とは違う基準で動いているようだが、中身が間違っていた場合のリスクや入院費用を後日請求される点を考えると、投薬の内容に異議を申し立てても大丈夫なはずだ。力で敵わないロボットには適応ルール内でどうにかする方法をとっていくしかない。この方法が間違いだったとしても、ルールが見えないにせよ積極的に暴力に訴えないのなら何度でも試せばいい。リスクのないトライアンドエラーなら何度でもやるべきだ。
『わかりました。以降の投薬は別の薬品を使用します。』
通った──が、別の薬品を投与されても困る。点滴が邪魔なのだ。そもそも体に害があるのかないのかもわからないものを更に流し込まれても困る。
「違うよ、もう投薬するなってことだ。」
『わかりました。しかし、体調が変動するようでしたら強制的に投薬をさせていただきます。その際にはご協力をお願いします。』
「・・・え、じゃあ、これ外してもらっていいの?」
『はい。ただし、現在投薬中のものだけは全て使わせていただきます。』
──えー・・・。いや、いいんだけどさあ・・・。こんなにあっさりならさっきの交換前に言っておけば良かったじゃないか。
少し脱力してしまったが思った方向に進んだんだ、良しとしよう。どうせもうすぐ交換しないといけないだろう量だ。
最悪の場合点滴を付けたままどうにかしてカーテンロープを降りるつもりもあったが、針が折れたり中で動いたりして腕を傷つける可能性もあった。相羽としては、医療の知識がないために正しい点滴針の抜き方なども知らず、針を抜くときに勝手な抜き方をして後々嫌なことになったらと心配していただけだった。降りる際の危険などはあまり考えていない。
そして待つこと十数分。
針の替わりに腕に見えるのはガーゼ。念のため今日はお風呂に浸からないようにとのこと。今日中に部屋に帰られるのかなあ。
何はともあれベランダに出る。さあこの病院から出ようとベランダに置いていたカーテンロープを垂らすと、何故か喉元にチリチリするというか、気持ちが逸ってくる。もうすぐここを出られると思うと、早く早くと体が急かしている気がする。しかし、慌てて落ちたら危険だ。今の相羽は病院着、通常の服装以上に摩擦に弱いほぼ羽織っているだけに近い衣装だ。
スリッパを落としてから柵を越え、しっかりとカーテンロープを掴んでゆっくりとゆっくりと降りていく。どうしてこんなことになっているんだろう、などと一瞬意識が現実逃避したりするがぐっと我慢して自分を押さえつける。ゆっくりと、ゆっくりと、降りていく。
足裏に触れる真夏のアスファルトは熱かった。近くに落としておいたスリッパを履き歩き出す。
取り敢えずどこに行くか。自分の部屋に戻りたい。しかしこの服装で戻るのもひどい。
地元の友人を頼るか。行きたくはないが実家に戻るか。他に思いつかない。
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