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目の前は白。
全面の白、打ち付ける白、流れる白。
「吹雪だ」
朝目を覚まし、カーテンを開けて、今日はいい天気だなぁと呟く様に、なんとなく口に出した自分の言葉は、けれども明らかな違和感を放っていた。
私は何をしてたんだ? ここ何処だ?
呟いた一言をきっかけに、氷が溶ける様に徐々に意識がはっきりし始める。
何故こんなところに? ここは一体? ……おかしい。思い出せない。何も思い出せない。ちょっと前の記憶。昔の記憶。自分の名前。何も出てこない。
視点が高い。感覚があった。立っている感覚だった。
けれどそれはとても薄ぼんやりしていて、立っているにしても、地面に足が付いている感触はない。冷たいと感じない。靴を履いている感覚もなく、足に力を使っている感覚は酷く薄い。
全く寒くないので、目の前に巨大な硝子の窓でもあるのかと、目を凝らしてみるが、雪と自分を遮る大きなガラスなんて物は、何処を探しても見当たらなかった。
んん? そんな。まさか……
極寒の地で凍死する前に一度だけ深い眠りから目覚めるという、とても危険な体験をしているのではないかと思い、慌てて周りを見る。
見渡せば他に何か周りにヒントになる物があるのではないかという淡い期待に反して、周囲は同じ様な一面の猛吹雪だった。
私は吹雪の中に一人ポツンと立っている。
全く、何の違和感もなく、唯《ただ》そうするのが当たり前であるかの如く自然に。
吹雪の中に一人、立ち尽くしている。
寒いという感覚は全く無い。
これは凍傷になっているのではないか。
そう思って、自分の両手を見遣った。
あれ?
雪が、自分の体の中に溶けていく。
積もる事もなく。
自分の手の中に吸い込まれる。
両手を前に出す。
唖然としてた。
突き出した両手の中に、するすると雪が溶けて行く。
手を振ったりして、回したりしてもそれは変わらない。
暫く、その異様な光景を眺めていた。
そして自分が幽霊だという事が分かるまで、更にもう暫く掛かった。
『ズズズ』
ひゅぅひゅぅと打ち付ける吹雪の音に混じって、何かを引きずる様な音がする。
厚い雲に空が覆われている為か暗く、吹雪で遮られ視界が悪い。
けれど、よく目を凝らして見ると、白い雪の中に赤黒い血溜まりが出来ているのが分かった。
誰か倒れている。
近くに寄ってよく見てみると、男が一人倒れていた。
半分雪に埋もれている。
これは死んでいるだろう。
私ももう死んでいるんだろう。
成る程、これは私だろう。
登山か何かで死んだんだろう。
はは。
死んでしまった物は仕方が無い。そう何かを誤魔化しながら、私はしゃがみ込んだ。
うつ伏せになっていて、顔が見えない。
前世で私はどんな顔をしていたんだろうか。そんな事が気になった。
うつ伏せの死体に自分の顔を近づけた。
「う"っ」
死体が呻き声を上げる。どうやらこの死体、まだ生きている様だ。
これはもしや残念ながら、私が死にかけているのか、それとも別人なのか……それどころじゃないっ!
「大丈夫ですか‼︎ 聞こえますか‼︎」
慌てて声を掛ける。
しかし、返事は無い。
揺すろうとしても、触れられない。
腕がすり抜けてしまう。
ちょ、どうすれば……
慌てて周りを見るが、吹雪以外に何も無い。
私はパニックになった。
「し、止血? 止血だ!」
止まっている血を止めようとする。
虚しくも、腕は相手の体を通り抜ける。
頭を抱える。
相手の体が積もっていく雪で殆ど見えなくなり始める。
「もうだめだ」と、諦め掛けたその時。
遠くから声が聞こえた。
「ーーー‼︎ ーーー‼︎」
救世主‼︎
全面の白、打ち付ける白、流れる白。
「吹雪だ」
朝目を覚まし、カーテンを開けて、今日はいい天気だなぁと呟く様に、なんとなく口に出した自分の言葉は、けれども明らかな違和感を放っていた。
私は何をしてたんだ? ここ何処だ?
呟いた一言をきっかけに、氷が溶ける様に徐々に意識がはっきりし始める。
何故こんなところに? ここは一体? ……おかしい。思い出せない。何も思い出せない。ちょっと前の記憶。昔の記憶。自分の名前。何も出てこない。
視点が高い。感覚があった。立っている感覚だった。
けれどそれはとても薄ぼんやりしていて、立っているにしても、地面に足が付いている感触はない。冷たいと感じない。靴を履いている感覚もなく、足に力を使っている感覚は酷く薄い。
全く寒くないので、目の前に巨大な硝子の窓でもあるのかと、目を凝らしてみるが、雪と自分を遮る大きなガラスなんて物は、何処を探しても見当たらなかった。
んん? そんな。まさか……
極寒の地で凍死する前に一度だけ深い眠りから目覚めるという、とても危険な体験をしているのではないかと思い、慌てて周りを見る。
見渡せば他に何か周りにヒントになる物があるのではないかという淡い期待に反して、周囲は同じ様な一面の猛吹雪だった。
私は吹雪の中に一人ポツンと立っている。
全く、何の違和感もなく、唯《ただ》そうするのが当たり前であるかの如く自然に。
吹雪の中に一人、立ち尽くしている。
寒いという感覚は全く無い。
これは凍傷になっているのではないか。
そう思って、自分の両手を見遣った。
あれ?
雪が、自分の体の中に溶けていく。
積もる事もなく。
自分の手の中に吸い込まれる。
両手を前に出す。
唖然としてた。
突き出した両手の中に、するすると雪が溶けて行く。
手を振ったりして、回したりしてもそれは変わらない。
暫く、その異様な光景を眺めていた。
そして自分が幽霊だという事が分かるまで、更にもう暫く掛かった。
『ズズズ』
ひゅぅひゅぅと打ち付ける吹雪の音に混じって、何かを引きずる様な音がする。
厚い雲に空が覆われている為か暗く、吹雪で遮られ視界が悪い。
けれど、よく目を凝らして見ると、白い雪の中に赤黒い血溜まりが出来ているのが分かった。
誰か倒れている。
近くに寄ってよく見てみると、男が一人倒れていた。
半分雪に埋もれている。
これは死んでいるだろう。
私ももう死んでいるんだろう。
成る程、これは私だろう。
登山か何かで死んだんだろう。
はは。
死んでしまった物は仕方が無い。そう何かを誤魔化しながら、私はしゃがみ込んだ。
うつ伏せになっていて、顔が見えない。
前世で私はどんな顔をしていたんだろうか。そんな事が気になった。
うつ伏せの死体に自分の顔を近づけた。
「う"っ」
死体が呻き声を上げる。どうやらこの死体、まだ生きている様だ。
これはもしや残念ながら、私が死にかけているのか、それとも別人なのか……それどころじゃないっ!
「大丈夫ですか‼︎ 聞こえますか‼︎」
慌てて声を掛ける。
しかし、返事は無い。
揺すろうとしても、触れられない。
腕がすり抜けてしまう。
ちょ、どうすれば……
慌てて周りを見るが、吹雪以外に何も無い。
私はパニックになった。
「し、止血? 止血だ!」
止まっている血を止めようとする。
虚しくも、腕は相手の体を通り抜ける。
頭を抱える。
相手の体が積もっていく雪で殆ど見えなくなり始める。
「もうだめだ」と、諦め掛けたその時。
遠くから声が聞こえた。
「ーーー‼︎ ーーー‼︎」
救世主‼︎
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