幽霊一人旅

ケポリ星人

文字の大きさ
1 / 5

1話

しおりを挟む
 目の前は白。

 全面の白、打ち付ける白、流れる白。

「吹雪だ」

 朝目を覚まし、カーテンを開けて、今日はいい天気だなぁと呟く様に、なんとなく口に出した自分の言葉は、けれども明らかな違和感を放っていた。

 私は何をしてたんだ? ここ何処だ?

 呟いた一言をきっかけに、氷が溶ける様に徐々に意識がはっきりし始める。

 何故こんなところに? ここは一体? ……おかしい。思い出せない。何も思い出せない。ちょっと前の記憶。昔の記憶。自分の名前。何も出てこない。

 視点が高い。感覚があった。立っている感覚だった。
 けれどそれはとても薄ぼんやりしていて、立っているにしても、地面に足が付いている感触はない。冷たいと感じない。靴を履いている感覚もなく、足に力を使っている感覚は酷く薄い。
 全く寒くないので、目の前に巨大な硝子の窓でもあるのかと、目を凝らしてみるが、雪と自分をさえぎる大きなガラスなんて物は、何処を探しても見当たらなかった。

 んん? そんな。まさか……

 極寒の地で凍死する前に一度だけ深い眠りから目覚めるという、とても危険な体験をしているのではないかと思い、慌てて周りを見る。
 見渡せば他に何か周りにヒントになる物があるのではないかという淡い期待に反して、周囲は同じ様な一面の猛吹雪だった。

 私は吹雪の中に一人ポツンと立っている。
 全く、何の違和感もなく、唯《ただ》そうするのが当たり前であるかのごとく自然に。
 吹雪の中に一人、立ち尽くしている。
 寒いという感覚は全く無い。

 これは凍傷になっているのではないか。
 そう思って、自分の両手を見遣みやった。

 あれ?

 雪が、自分の体の中に溶けていく。
 積もる事もなく。
 自分の手の中に吸い込まれる。

 両手を前に出す。
 唖然としてた。
 突き出した両手の中に、するすると雪が溶けて行く。
 手を振ったりして、回したりしてもそれは変わらない。

 暫く、その異様な光景を眺めていた。
 そして自分が幽霊だという事が分かるまで、更にもう暫く掛かった。



『ズズズ』

 ひゅぅひゅぅと打ち付ける吹雪の音に混じって、何かを引きずる様な音がする。
 厚い雲に空が覆われている為か暗く、吹雪で遮られ視界が悪い。
 けれど、よく目を凝らして見ると、白い雪の中に赤黒い血溜まりが出来ているのが分かった。

 誰か倒れている。

 近くに寄ってよく見てみると、男が一人倒れていた。
 半分雪に埋もれている。

 これは死んでいるだろう。
 私ももう死んでいるんだろう。
 成る程、これは私だろう。
 登山か何かで死んだんだろう。

 はは。

 死んでしまった物は仕方が無い。そう何かを誤魔化しながら、私はしゃがみ込んだ。

 うつ伏せになっていて、顔が見えない。

 前世で私はどんな顔をしていたんだろうか。そんな事が気になった。
 うつ伏せの死体に自分の顔を近づけた。

「う"っ」

 死体がうめき声を上げる。どうやらこの死体、まだ生きている様だ。

 これはもしや残念ながら、私が死にかけているのか、それとも別人なのか……それどころじゃないっ!

「大丈夫ですか‼︎ 聞こえますか‼︎」

 慌てて声を掛ける。
 しかし、返事は無い。

 揺すろうとしても、触れられない。
 腕がすり抜けてしまう。

 ちょ、どうすれば……

 慌てて周りを見るが、吹雪以外に何も無い。
 私はパニックになった。

「し、止血? 止血だ!」

 止まっている血を止めようとする。
 虚しくも、腕は相手の体を通り抜ける。
 頭を抱える。
 相手の体が積もっていく雪で殆ど見えなくなり始める。
「もうだめだ」と、諦め掛けたその時。
 遠くから声が聞こえた。

「ーーー‼︎ ーーー‼︎」

 救世主‼︎

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

この離婚は契約違反です【一話完結】

鏑木 うりこ
恋愛
突然離婚を言い渡されたディーネは静かに消えるのでした。

ねえ、テレジア。君も愛人を囲って構わない。

夏目
恋愛
愛している王子が愛人を連れてきた。私も愛人をつくっていいと言われた。私は、あなたが好きなのに。 (小説家になろう様にも投稿しています)

乙女ゲームは始まらない

まる
ファンタジー
きっとターゲットが王族、高位貴族なら物語ははじまらないのではないのかなと。 基本的にヒロインの子が心の中の独り言を垂れ流してるかんじで言葉使いは乱れていますのでご注意ください。 世界観もなにもふんわりふわふわですのである程度はそういうものとして軽く流しながら読んでいただければ良いなと。 ちょっとだめだなと感じたらそっと閉じてくださいませm(_ _)m

聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~

白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。 王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。 彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。 #表紙絵は、もふ様に描いていただきました。 #エブリスタにて連載しました。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

道化たちの末路

希臘楽園
ファンタジー
母亡き後、継承権もない父と愛人母娘が公爵家を狙い始めた。でも私には王太子という切り札がいる。半年間、道化たちが踊るのを、私たちは静かに楽しんで見ていた。AIに書かせてみた第3弾。今回も3000文字程度のお気楽な作品です。

処理中です...