幽霊一人旅

ケポリ星人

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2話

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 猛吹雪の霞《かす》む様な視界の中から、エスキモーの様な格好をした男二人が薄っすらと姿を現す。

 雪山の、遭難者の横であたふたしていた私は、「ここにいるよー‼︎」と思い切り手を振る。
 しかし、私の声と姿が見えていない様で、彼らはこちらを見向きもしない。
 本格的に「私は幽霊なんだな……」と途方にくれている私の前で、男二人が叫ぶ。

「ーーー! ーーー‼︎」

 私は、この二人が何を言っているのかわからなかった。自分が何を考えているのかを、言語で考える能力はある。だが、この人達の言っていることがわからないということは、使っている言語が違うのだろう。
 私は吹雪の中で、ボーッと歩く男二人を眺める。
 私の「たぶんそのうち、倒れている人に気付くだろう」という呑気な予想に反し、男達は倒れている男に気付かない。この吹雪のせいで、視界がとても悪いのだ。

「ちょっ‼︎ 待て! 待てって! どこ行くんだ!」

 おそらく探しているであろう怪我人の横を通り過ぎる男達に、必死に手を振る。だが全くと言っていい程反応がない。

「待て待て! ここにいるぞ! ……気付け‼︎」

 もうヤケクソだった。兎に角、思い切り叫んだ。
 するとどうだろう、二人が同時にこちらを向いた。男二人は、誰の声だろうと顔を見合わせる。

「そうだ‼︎ こっちだ! こっちに人がいる‼︎ 人が倒れているぞ‼︎」

 正直、その後の私の声に彼らが気付いていたのかはわからない。ただ彼らはこちらに向かって歩き周囲を見渡した。そして――

「ーーー‼︎ ーーーーーーーー‼︎」

 どうやら無事、倒れている男を見つけられた様だ。私は、ホッと息をついて、男達の様子を見る。男達二人は、倒れている男の傷の具合を確認し、肩を貸して歩き始めた。
 兎に角心配だったので、後をついて行こうと歩き始める私の脚を、何かがぐっと繋《つな》ぎ止めた。

「えっ?」

 私は振り帰る。私が自分の脚を見ると、地面の下から腕が一本すらりと生えて、私の脚を掴んでいた。

「腕?」

 腕である。なんとも名状《めいじょう》しがたい存り方をしているが、それは確かに腕である。
 私はギョッとする。完全にホラー映画に出てきそうなシュチュエーションであり、「もしかしたらこのまま引きずり込まれるのでは……」などという、薄ら寒い想像が頭を過ぎる。
 私は必死に腕を引き剥《は》がそうとする。しかしなかなか剥《は》がれない。

「っっ! 剥《は》がれろっ!」

 グイッと思い切り引っ張り、反動で尻餅《しりもち》を付く。しかし、おかげで腕が外れた。
 腕が、パタパタと周囲を弄《まさぐ》る。よくよく見れば、腕は地面から生えている訳ではない。腕だけ雪の上で動いているのだ。
 私の脚から離れた腕が、私の脚を探している。そう思えてならない私は、慌ててその場から後退《あとずさ》る。
 慌てて立ち上がり、エスキモーの格好をした男達が居た方向へ走り出す。
 彼らの姿はもう見えない。大分《だいぶ》歩いて先に行ってしまっている。
 走り去る途中で、ふと振り返る。すると腕がこちらを向いて固まっている。
 不思議と、寒気も悪寒もしなかった。
 腕が寂しそうにしている気がした。



「吹雪の中では方角が分からない」と聞くが、私は何とか無事に男達に追いつく事が出来た。男達は、時々コンパスを開きながら、少しづつ前に進んでいる。
 私はというと、幽霊なので寒さも風も関係ない。普通に歩けば男達を追い越す。とても気軽に付いていけた。
 しばらく男達と共にのんびり歩いていると、木製のロッジが見えて来た。
 男の一人が駆け寄って、ドアを叩く。怪我人を抱えているからだろう、とても必死な形相《ぎょうそう》だ。
 すると、ドアが開く。 中には同じ様な格好をした人達が何人か居て、男達は勢いよくドアの中に転がり込んだ。

「おやっ」

 当然だがこの吹雪の為、ドアは長くは開けて置けない。男達が転がり込むと同時に、勢いよく扉が閉まり、私は一人、外に締め出された。

 ポツンと一人取り残された私が、そっとドアに触れると、薄っすらとそこに物がある感触がした。それは立っている足の感触や、力を使っている感触が殆ど無いのと同じで、薄っすらとだ。
 私の「体がまるでそこに何もないかの様にすり抜けるのでは」という予想に反し、私の体は確かに、そこにある物を感知した。寄り掛かろうと思えば、ドアに寄りかかることが出来る。
 ただどうやってロッジの中に入ったらいいのか分からない。ここにいたところで行く所は他に無い。歩いた所で、この吹雪だ。道に迷ってしまう。何より、あの怪我人のことが気になった。
 ドアを強めに押してみる。
 するとどうだろう、腕がスルリとドアを抜た。
「おぉぉ」と息を飲む。思い切って顔を突っ込むと、そこはもうロッジの中だった。
 首から上だけが、ドアから突き抜けている。その姿はホラー映画さながら。なんてシュールなんだろう。
 そう思いつつも、自分を見えている人が居るのではと思い辺りを見回す。

 残念ながら、というよりも当たり前であるが、ロッジの中の人達の視線は、薪の前に寝かされた怪我人に集まっていた。
 怪我人には、既にある程度の応急処置がなされていた。私はホッと胸を撫で下ろすと、周囲の人々の異様さに首を傾げた。
 皆一様に、怪我人の前に手をかざし、何かぶつぶつと唱えている。残念ながら言語が違う為、なんと言ってるのかは分からない。だがその顔は必死である。
 男の枕元に立ち、「これはまぁまぁ不吉だなぁ」などと、不遜《ふそん》なことを考えていると、不思議な現象が起こった。
 呪文を唱えていた全員の手から、緑色の光が漏れ、呻《うめ》いている怪我人へと注ぎ込まれたのだ。
 するとどうだろう。男の傷がみるみる塞《ふさ》がり、男の血色が良くなった。
「ほぉぉ」と思わず感心する。
 寝ていた男が目を覚ます。

「ぎゃぁぁぁぁぁ‼︎」

 これは流石《さすが》に聞き取れた。
 数奇《すうき》な事に、奇妙な事に、この怪我人には私のことが見えるらしい。
 さっき寝ていた怪我人が、私を指差し叫んでいる。周りの人達が慌てて私の方を見るが、この男以外に私が見えている人はどうやらいない。
 傷口が開いても悪い。
 私は溜息を一つ吐くと、そっとロッジの外に出た。
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