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一章

〈空の兵隊〉(3)

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 結局、女騎士への対策が立たないまま騎士達の宴会へ潜り込むことになってしまった。

(今までも相当行き当たりばったりだったし、考える時間もあんまりなかったし、まぁ仕方ないよね☆)

 私は結構色々な所が適当なのだ☆

 宿屋へ向かう途中の酒場が賑わっている、凱旋(?)した兵士達が酒盛りをしているようだ。

(宿屋での酒盛りからあぶれた(人数が多い為)人達がこっちで酒盛りをしているのか、丁度いい、女騎士に会う前に情報収集をしておこう。)

 酒場に入る。

 もちろん、周りの人には、私がガタイの良い男性に見えるよう光魔法を使っていて、普段はアベルと名乗っている。

(幼女一人でこんな所に来たらなにされるかわかったものじゃない。せめて格好だけでも変えていかないとな……)

 ちょっとだけ身震いしてから、気を取り直して、近くのテーブルに座っている兵士に話しかける。

「俺も混ざって良いか、一杯奢るからよぉ!」

 勢い良く椅子に座る。
 同じテーブルの兵士三人の顔は赤い、もう随分酔いがまわっているようだ。

「おぉ、良いぜ! テメーなんてなめーなんだ?」

 向かって右端の兵士が尋ねる。

「俺はアベルってんだ、まあ、ここら辺じゃちょっと有名な漁師だぜ」

 そう、私はこの町で一応漁師をしている。

 魔法で海面すれすれを飛び、音魔法で海に向かってエコーを出しす。
 魚群探知機の様に魚の群れを捉え、網と魔力操作によって魚を捉える。
 次元魔法で魚の群れを収納し、村に卸(おろ)して収入も得ている。

 もちろん、次元座標は叔父に教わったもので、古代勇者が使用していたとされる次元座標らしいのだが……

(なんか叔父が言うとちょっと胡散臭く感じるんだよな……)

「んー? 見慣れねぇ顔だな~、ここの漁師にこんな奴いたかぁ?」

 左端の兵士に図星な事を言われ、一瞬ギクリとするが、そこは大丈夫。
 この町の人々に話している私の言い訳がちゃ~んとある。

「ちょっと元いた所で色々あってな、一年半くらい前に越してきたんだ」
「あ~人生色々あるよな、いいぜいいぜ、とにかく飲もうぜ!」

 真ん中の兵士が明るくエール(外国版ビール)の入ったグラスを上に向かって振る。

 エールが後ろに溢れる。

「がははははは、バカやってんの!」
「一杯と言わず二杯奢ってくれてもいいんだぜ!」

 陽気なおっさん達の笑いにつられて、私の気分も陽気になる。

「いいぜ、今日の飲み代は俺の奢りだ!」

 突然、酒場中から歓声が上がり口笛が吹かれる。

(しまった……)

「おおいおめーら! 今日はアベルの旦那が奢ってくれるってぇよ!」

 店員が、勢い良く店の客に声をかける。

「すいやせ~んアベルの旦那、今日は飲ませて頂きやす」

 常連のおっちゃんが、持っていたエールの酒瓶を持ち上げる。

「太っ腹~、俺も飲ませてもらいやすぜ~」

 漁でお世話になっている船長も、酒を煽る。

「後で返せってぇ言われても返さねえからな~」

 八百屋のおっちゃんも、遠慮無く注文を始める。

(裏切り者ーーーーっっ!!)

 町の住民は、私がかなり稼いでいるのを知っていて、いたって飄々としているからいいものの、戦場から帰って来たばかりの兵士達は、困惑している。

(なんということでしょう…………が、こうなってしまったら仕方がない、大酒飲みのバルドはきていないし……ここで断ったら男が廃れるぜ!)

「おっし、おめぇら! 今日は町の為、国の為に身体ぁ張ってきてくれた奴らの為に、俺が全員分奢ってやる! 好きなだけ飲みやがれぇぇぇ!!」

 さっきよりさらに大きな歓声が上がる。

「ヒューーーーー!」
「さっすが旦那、痺れるぜ!」
「旦那、一生ついていきやすぜ!!」
「グビッグビッグビッ」

 注:私は今も昔も女性である。

(あぁーー……なんかちょっと頭痛くなってきた!!)

「い、いいんですかい、旦那、そんな奢って貰っちまって。」

 同じテーブルの兵士が、少し驚き気味に私に話しかける。

「俺が奢るっつてんだから気にすんな! 飲めるだけ飲みやがれぇ!」
「旦那ぁ!」
「頂きやす!」
「ごっつぁんです!」

(なんだかんだ言ってこの町の住人だな、ノリがそっくりだ。)

 高い酒をここぞとばかりに頼み始める人、沢山のエールを頼み始める人、酔い潰れて顔を真っ赤にして眠っている人、そんな人の流れを眺めながら、私は店員がこっそり持ってきてくれた林檎ジュースを飲む。

 ここの店員とは知り合いで、私が酷いゲコであると伝えてあるのだ。

(この歳でまさかお酒を飲むわけにもいけないし…ガルムには本当感謝です。)

 ガルムは、最初なかなか村に馴染めない私を酒場に誘ってくれた私の友人で、生粋の商人だ。
 普段は、バーテンダーをやっているが、幅広く色んな商売に手を出していて、よく珍しい物を紹介してくれる。

(あいつはどっからか珍しいもの持ってくるんだよな~。)

 最初にこの町に来た時に買った魔石も、彼の売り物だ。

(色々予定は狂ってしまったが、明日また女騎士の事は調べ……)

「ほう、今日は貴殿の奢りなのか……」

 後ろから急にした女性の低い声に、慌てて振り返る。

(ぼーっとしてて気づかなかった!!)

 真っ赤な髪、銀色に輝く鎧、すっとした背筋に、少しきつそうだが、しっかりした意思の宿った青い瞳。

 アガット・セリーヌ、件(くだん)の女騎士の登場である。
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