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一章

閑話"冬の帳が降りた頃"(私視点)

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 ※これは私が叔父の家に住み始めた頃の話…



(さて、叔父の家に住む事になったのは良いがただで居候というのもなんだか気がひけるんだよな~)

 私は現在叔父の怪我等々色々治しつつ、叔父に魔法を習ったり、医療技術を教えたりしながら二人暮らしをしている。

 そしてその際発生する生活費は叔父が昔貯めた財産からまかなっている。

(いや、4歳の女の子が普通自分で稼ぐ事を考えるか?いや、考えないだろう…いや待てよ、アフリカとかの5歳児は働いてるし、あとちょっとで5歳だし……というか叔父のお金っていうのがなぁ~、使いずらいんだよな~。)

 私の感覚は47歳の社会人であり他人のお金で生活するというのに若干の抵抗があるのだ。

 加えて買いたい物、買ってみたいものが沢山あり、気兼ねなく使えるお金が欲しいという風にも思っていた。

(何にせよまずは職探しだよなぁ~、ただ職っていってもなぁ~。)

 昔の私の職業(医者)をやるのは、変な輩に見つかる事を考えるとリスキーである。
 加えて患者にこの技術を見られたらどんな反応をされるか分かったものではない。

(まあ、なんか倒れてる人とか見つけたら助けには行きますけどね~。)

 そこは腐っても医者である。

(叔父から長時間離れられないっていうのがまたな~、なんかないかな~サクッとやってサックと帰って来れる系職業。)

 そんな都合の良い事を考えながらふらふら町を歩いていた時の事だった。

「そうかい、今年は魚がなかなか取れないのかい」
「ああ、今年は食料が少しばかり足りなくなるかもしれねぇ~、海に特大の魔物が出やがったせいで危なくって碌に漁ができねぇ~」

 八百屋のおばちゃんが、漁師のおっちゃんと話しこんでいた。
 海に、魔物。
 私はその言葉が気になった私は、二人の方へ歩いて行く。

「近場で漁をするとか、その海域を避けるとかできないのかい?」
「そうは言ってもよぉ、魚が魔物に食い荒らされっちまっててよぉ」
「ちょっとそのお話、俺にも聞かせてくれねぇか?」

 私は、うっかり本来のセスの姿の時の様な喋り方になりかける。

(いかん、普段みたいに「聞かせてくれませんか?」って言う所だった。)

「誰だてめぇ」

 漁師のおっちゃんが怪訝な顔で答える。

「あら、いつものお兄さん」

 八百屋のおばちゃんがいつもの様に話しかける。

「知ってんのか?」
「ええ、いつもの沢山お野菜買っていってくれるのよぉ~」
「いつもおばちゃんには色々教えて貰ってるし、痛みかけてるのとかは割引して貰ってるしな!」
「困った時は、お互い様よぉ~、なんでも最近ここら辺に引っ越して来たんですって」
「へぇ~、で、兄ちゃん何の話しが聞きてぇんだ?」

 漁師のおっちゃんが、探る様な怪訝な表情で尋ねる。

(余所者だから疑われているのかなぁ?この時代治安はそんなに良く無いし……おばちゃんが人当りが良いだけなのかも。)

「海に出る魔物の話、俺にも聞かせてくれねぇ?」

 私は至って普通に対応する。

「おめぇ、冒険者か何かか? やめとけってんだ、ありゃ大物だ、そう簡単にはたおせねぇぜ」

(おお! 心配してくれるのか、いいおっちゃんだな!)

「いや、ちょっと気になってよ、唯の野次馬根性って奴だ、聞かせてくれ」
「いいけどよぉ、海には出るんじゃねぇよ、ありゃぁ俺がやっと捕まえた魚の網を引いていた時だ……」

 ここからのおっちゃんの話しは熱が篭っていて、大変面白かった(棒読み)のだが、長いので割愛させて頂こう。(笑い)

 つまり、マグロが魔獣化してでっかくなったのが3匹ぐらいこの辺を泳ぎまわっているとの事だ。

(おおお! マグロ! お刺身にして頂こう!)

 もちろん、私はもう行く気満々であった。

 そして危険性も考えてはいたが、とりあえず行かないという選択肢はこの時頭になかった。

(一応叔父にこんな話があったんですよ~といって、情報は貰って、でも行くと言ったら止められそうだからこっそり行こう!)

 おっちゃんからの再三の制止を軽く受け流して、私はるんるん気分で家に帰った。

 頭の中はお刺身の事で一杯である。

(おっ刺身、おっ刺身~)

「ただいま帰りましたよ~レオン」

 私はルンルン気分で、ドアを開ける。

「お、どうしたの~? 激安で良いものでも手に入れた~?」

(叔父の中の私の人物像っていったい。それは兎も角……)

「いえいえ、別に対していい事があったあった訳では無いんですけどね~、面白い話を聞いたんですよ~。」
「面白い話?」
「ええ、海でマグロの魔物が出たっていう話でして……」
「で?」

 叔父の声がワントーン低くなる。

(やっばいこの先の話考えて無いべ。)

 冬なのに冷や汗が頬を伝う。
 つまり、私は危機的な状況に居る。

「えーっとそれでですね、漁師の人達が困ててですね~、それでですね、え~っと……」

 私は思いっきり目を逸らしている。

「へ~、それの何が面白いの?」

 叔父は首を傾げては居るが、鋭い視線でこっちをじっと見て居る。

「さ、魚も魔物になるんだな~って、あ、レオン、魔マグロについて何か知りません?」

 私は人様を立てて、にこっと若干引きつった笑みを浮かべ、尋ねる。

 一拍して叔父がゆっくりと言う。

「……セス、正直にいってみ」
「い、いや~、何のことでしょう?」

 こういう私は時若干のパニック状態に陥る。

(にゃーーー! 勘付かれとるーーー!!)

「……はぁ、どうせその魔マグロでもとってきて、今晩の夕飯にしようとか考えてるんでしょ」

(何故分かった!!)

 動揺し過ぎである。

「い、いや~、行っちゃダメですかねぇ~この辺りの海ですし」

 叔父がしばらくして、ため息を吐いて言った。

「あのねぇ、君は4歳の女の子だよ、危ないでしょ、それ位分かってるでしょ」

 叔父が言い聞かせる様に言う。

 私はむぅっとして答える。

「分かってるますよー、それ位! でも見て見たいでしょ初魔物ですよー! そしてマグロですよー美味しそうではないですか!!」
「美味しいそうって、美味しいけどさ、魔マグロって……」

(やったーーー!!)

「レオン! 行きたい! 行きたいです! 魔マグロ食べたいです! 行かせて下さい!!」

 私は思いっきり、叔父に頼み込む。

「でも君が怪我しない事の方が大事!」
「えーーー」

 私はあからさまにがっくりする。

「……って言ってもあんま聞きそうに無いから、いいよ行ってきて、その代わり!」
「おお!! やったーーーってその代わり?」
「その代わり……」

 結論、旧勇者が使っていたとされる次元魔法を使いこなせるようになり、魔マグロの倒し方についてレクチャーを聞きしっかりとした準備を整え、漁師さんの漁船に同乗させて貰う事を条件に許可を貰った。

 問題は最後の条件、漁師さんの漁船に同乗させて貰う事なのだが、これは当たって砕けろの要領で交渉しに行った。

「漁に同行? 構わねーが、最近の海は魔物のせいで危ねぇぞ、てめぇ漁の経験はあんのか?」
「少しならあるぜ!」

(幼稚園の時に行った池の魚のつかみ取りとかだけどな!!)

「へ~、兄ちゃんやるなぁ~おっし、その漁の経験してみたいっていういきやよし! 職業体験っつったか? 小難しい事は分からねえが、今日はよろしくな!」
「おう! 先輩、よろしくお願いします!」

 私は45度に勢いよくお辞儀をする。

(よっしゃ何とかなったー!)

「はっはっはっは、元気がいいなぁ、あんちゃん! 若いもんはこうじゃなくっちゃな!」



 こうして、私は漁師のおっちゃん達と漁船に乗り漁に出たのだが、そこは漁師の戦場だった。

「兄ちゃん! 波が荒い! そっちのロープ引っ張れやぁ!!」
「うっす!!」

 私は魔力を操作して腕力も使いながらロープを引っ張り、上から結び固定する。

(こりゃあ明日は筋肉痛だな!)

「船長!! 一人流されやした!!」
「てめぇーらしっかり捕まれ! 流されんじゃねえぞ!!」
「「「「うっす!!」」」」

(!!)

 私は急いで水魔法、風魔法を駆使して流された人を船に戻す。

「船長!! 流された人が戻ってきやした!」
「ついてらぁ!! でもてめぇら! 油断するんじゃねぇぞ!!」
「「「「うっす!!」」」」

(そういえば、忘れかけてたんだけど、私魔法使えるじゃん!!)

 私は、水魔法・風魔法で波と風を操作し、船を安定させる。

「風が、波が、ここの周りだけ安定した?!」
「どーなってやがる! 魔物か! 魔物がいるのか!」

(うわっ、しまった! 逆に混乱させた!!)

 船長がじっとこっちを見ている。

(あ~~~バレたかなぁ、うん、バレたな。)

「てめぇ、魔法が使えたのか……」

 船長がこっちに向かって歩いて来る。

 私はしっかりと答える。

「うっす」
「……」
「……」

 しばしの沈黙の後、船長がいきなり背中を思い切り叩く。

(‼︎)

「てっめーやるじゃぁねえか! てめぇら! 今日は魔法使いの兄ちゃんがついてる、魔マグロなんて怖かぁねぇ! 思いっきり漁をするぞ!!」
「「「「うっす!」」」」

(っっ!! あっぶな!!)

 この盛り上がってる雰囲気の中、何が危なかったのかご説明しよう。

 私は現在、幼児体型の体を光魔法・・・で大人のガタイの良い男性に見せているのだ。

 そう、船長が叩いたのは大人の男性の腰の位置、つまり私の頭より上の位置なのだ。

 そこには、腰なんてない、あるのは空気だけだ。
 そこで私は咄嗟に土魔法で腰を作り、魔力操作で強度を補強し、なんとか腰を叩いている様に感じさせる事に成功したのだ。

(これだけ咄嗟の行動が出来た私をどうか褒めてもらいたい、いや褒めてくれマリーーン!)

 しかし当然そこにマリンはいない、何言ってんだ私は。

 兎に角、漁は無事続行され、途中魚群探知機の様に音魔法を使い始めた事も功をそうし大量の魚を捕獲する事に成功した。

 叔父から貰った魔力をよく通す糸を槍の先に括りつけた武器で無事、魔マグロを三体仕留めることも出来たのだが。

「船長、今日の漁に同行させて貰ったお礼だ、皆で食ってくれや」

 私は一番大きい魔マグロを一本差し出す。

「い、いいのかてめぇ、今日世話んなったのは俺らの方だってのに、それにこりゃぁ……」

 そう、魔マグロは滅多に市場に出回らない高級品だ、お目にかかったとしても、そうそう手が出せる物では無い。

「いいんだ……いや、いいんす、船長。今日は船に乗って、色んな事を学んびました」
「……」
「正直言って俺は漁を舐めてやした、自分が魔法使えるから、こんくらい一人でも大丈夫だと思ってやした」

 船員達は静かに聞いている。

「でも今日漁に行って、実際に皆と一緒に漁をして、漁師が命懸けの仕事だって、何時も普通に食べている料理が、皆のおかげで普通に食べられてる物だって気づきやした」

 そう、医者とて大変な仕事だが、漁師とて命がけの職業なのだ、それを忘れかけていた。

「これはそのお礼です。今日1日、ありがとございやした!!」

 思いっきりお辞儀をする。
 45度ではない、90度だ。

 辺りは静まりかえり、徐々に船員や他の船員が私の周りに集まる。

 まず最初に船長が、思いっきり私の背中を叩いた。

「てっめぇ、いっぱしの事言いやがって! これで漁師の事分かったと思うんじゃねぇぞ!」

 船長の声は鼻声である。

「おお! そうでぇそうでぇ! おめぇなんかまだぺーぺーもいい所でぇ!」

 軽く笑い気味のヤジが飛ぶ。

「またいざっていう時はこいよ! 船ぇ乗せてやっからよぉ!」

 左前に居る船員が言い、すかさず船長が言う。

「てめぇの船じゃぁねぇっつうの!」
「「「はっはっはっはっは!」」」

 場が笑いに包まれる、自然と笑みが溢れる。

「しっかりしてんなぁ、若えのによぉ、まあ、あんま気張りすぎるんじゃあねえぞ」
「うっす!」
「家にいる病人に食わしてやるんだろ、きぃつけてな!」
「うっす、ありがとうございます!」
「おう、きいつけてな!」

 暖かい雰囲気の中、私は漁師達と別れ、家へ向かった。



 途中知り合いの商人に魔マグロを一本売って、生活費を確保し、家へと帰る。

 帰ってきた後、叔父は私の身に起こった事や私の心境の変化なんて予想していないかの様に、いつもと変わらない口調で言った。

「セス、漁はどうだった?」

 面食らって、一拍おいてから私は思う。

(……はぁぁぁ、ほんっとに、この人には敵わないな。)

 私は今日あった出来事を思い浮かべる。

「…………ええ、凄く」
「……凄く?」

 そして、この日一番の笑顔になって言った。

「凄く、楽しかったです」





 ……この後、漁師達に魔法を教える様になり彼らに旦那と呼ばれる様になったり、商人と友人になったり、魚が取れない時は私が漁をまた手伝ったり、商人から魔法をよく通す糸買って網作ったり、自分だけでも漁が出来る様になったり、町の人達と仲良くなったりと色々あったのだが、

                                         ……それはまた、別の話。
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