異世界に来たからといってヒロインとは限らない

あろまりん

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異世界さん、こんにちは

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手を引かれ、歩く事数分。
連れてこられたのは、学園内にあるカフェだった。
この学園には、貴族専用と平民専用、それと両方が使用可能なカフェの3つがある。
ここは貴族も平民も使える所。そのチョイスは的確だ。貴族専用に連れていかれたらアウェイ感がひどすぎる。

…ちなみにですね、王子様とアリシアさんは貴族専用のカフェでお見かけする事もあるようです、ハイ。
だから色んな人たちの目についちゃうのよねえ。

そしてここでようやく冒頭のシーンへと戻るのである。



********************



奢ってくれるってんだから遠慮する事もないか…とはいえ自分の食べた分は払いますけどね。
そういう所で借りを作りたくないと考える中身アラフォー女なのです。これは譲れない。

どうやら騎士さんは既に頼む物を決めているのだろう。
私がメニューから顔を上げると、店員さんを手を挙げて呼んだ。イケメンのスキルなのか?



「いらっしゃいませ、お決まりですか」

「俺はビーフシチューを。食後に珈琲を頼む。君は何にする?」



自分の注文を済ませると、店員さんを私に促した。
見ると顔見知りの店員さん。



「何にする?」

「えーと、クラブハウスサンド。後はホットコーヒー…今日の日替わりは?」

「今日はコズエさんの好みの苦めだよ」

「じゃあそれ、いつものやつで」

「OK、少々お待ちください」



私には『OK』と軽く。騎士さんには丁寧に『少々お待ちください』と返し、メニューを持ってカウンターへ去っていった。
ふと目線を戻すと、騎士さんは少しだけ目を細める。



「随分、気心が知れているようだが」

「食事に利用する事が多いので」

「成程。珈琲の注文もいつも通りか」

「そうですね、ここのカフェは珈琲の豆も日替わりで変えてるので聞いてます」



学園に入っているカフェではあるが、きちんとしたお店である。珈琲はハンドドリップだし、紅茶もリーフティーをポットでサーブしてくれる。
しかしお値段は良心的。通わない理由がない。

住んでいるお邸のシェフさんが作るご飯や、出してくれるお茶ももちろん美味しいのだが、ここの珈琲や紅茶、ケーキもなかなか美味しい。
そこまでグルメな舌は持ち合わせていないけれど、勉強に疲れた頭にカフェインは必要なのだ。…仕事中にもかなりお世話になっていました、カフェイン。

当たり障りない会話をぽつりぽつりとしていれば、食事が運ばれてきた。本題を切り出さない所を見ると、話は食べてからということですね。
それはありがたいので、遠慮なく食事に集中。ここのクラブハウスサンドはボリュームたっぷり、パンも手作りの為美味しい。中に挟まっているハムもその時で違うので飽きない。満足。

騎士さんの方が食事を終えるのは早かったけれど、こちらを急かすでもなく待っていてくれた。
貴族の嗜み?それとも紳士の嗜みかな?こういうところはいいなぁと素直に思う。

私の食事も終わり、珈琲が運ばれてきた。
いつも通りスチームミルクのあわあわたっぷりの珈琲。
ス○バでいうカフェミスト。私はこれが1番好きだ。

ふと騎士さんが私の珈琲をガン見していた。
…あぁ、このミルクかな。



「その珈琲は・・・」

「ミルクを細かく泡立たせてるだけですよ」

「そんな風にしてある珈琲を見たことがない」

「そうかもしれませんねえ」



この学園に入り、珈琲を注文した時。なんとなく物足りなくて店員さんにゴリ推してやってもらったのだ。
こちらの世界ではこうやって珈琲を飲む事はなかったらしい。
ゼクスさんのお邸でもやってもらった。やり方自体は簡単だからね。
さすがにラテアートは私もできないので教えられないけど…スチームミルクの作り方くらいはわかった。
私のたどたどしい説明に理解力を発揮してくれてありがとうございます、皆さん。



「気になるのなら今度お願いしてみたらいいのではないですか。
でも貴族専用カフェだと無理だと思いますよ。さっきの店員さんがこちらのカフェにいる時に頼んでは?」

「・・・そうしよう」



さすがに貴族専用カフェにスチームミルクをやってくれる人はいないかもしれない。最初、平民専用カフェでも難を示されたし。もう普通にやってくれるけどね?
でも頼んでるの私だけかもしれないな。メニューとして出してないみたいだしね。



「・・・本題なのだが、構わないか」

「はい、どうぞ」

「先程中庭で君が言っていた『空気を読めばいいのに』とはどういう意味だったのだろうか」

「いやそのままの意味ですけど」

「・・・すまない、俺は気が付かなかった。おそらく殿下も同じだと思うのだが」



どっちから声を掛けたんだろう?
王子殿下も気が付いていないのであれば、声を掛けたのは王子殿下からなのだろうか。



「平民の女子生徒に最初に話しかけられたのは、王子殿下ですか?」

「そのように記憶している」

「では失敗でしたね」

「そこを詳しくいいだろうか」

「あのですね、あそこの中庭って貴族も平民も分け隔てなく利用ができるスペースじゃないですか」

「その通りだ。だからこそ殿下とアリシア殿が会話していた所で不自然ではないと思うのだが」

「不自然ではないかもしれませんけど、周りの人目を引くには充分だと思いませんでした?」

「・・・殿下はどこにいても衆目を集められる。あの中庭に限ってのことではない」

「そうですね、殿下でしたら人目を引いても気になさらないのかもしれませんね。
でもあそこであんな風にアリシアさんと仲良く話していれば、殿下の婚約者のお嬢様にもバッチリ目に入っちゃいますよね」

「それは・・・」

「こそこそしない、というのは美点ですけど、周りの人がどう思ってどう噂するかも考えた方がいいんじゃないかと思います。
学園って限定的な閉鎖空間ですから」



私としては、殿下が誰と仲良くしようと知ったことじゃないし、アリシアさんが誰と仲良くしようと知ったことじゃない。

だがしかし、私以外の人になるとそうはいかないだろう。
渦中の二人が『決まった相手のいない男女』ならまだ噂にもならないのだろうが、今回は『婚約者のいる異性』が相手だ。
そしてそれが身分の違うもの同士だと更に。その片割れが王族だっていうんだから尚更だ。
例えちょっとした事であっても、関係の無い人まで話題に振り回される事になる。
節度を持ってほしい、というのは私の我儘だろうか。

珈琲も飲み終わり、話すこともなくなったのでカフェを出る。騎士さんは私の分も払おうとしていたみたいだけど、すかさずお金を出した。
そんな私を見遣り、騎士さんは静かに告げる。



「今回は俺が付き合わせたのだから、こちらで払うから気にしないでくれ」

「すみません、私お付き合いしている殿方以外に奢らせないタイプなので」

「・・・」

「ですから、自分の分は自分で払わせてください」



そんなことを言った私が珍しかったのか、カチンと固まっていた。その隙に私はさっさと自分の分のお会計を済ませる。馴染みの店員さんは苦笑気味。
何か言われないうちに、さっとカフェを出て離れた所で出てくるのを待った。さすがに置いて先に帰るのも失礼だしね。

憮然として…いや大して表情変わってないから最初から無表情のままなんですけどね、あの人。
出てきた騎士さんは私を見つけると近寄ってきた。
先手必勝、と私はペコリと頭を下げた。



「それでは私はこれで失礼します」

「・・・あぁ、時間を取らせて申し訳なかった」

「いえお気になさらず」



頭を上げて踵を返す。
ランチは済ませたし、図書館に寄って帰ろう。

…そういえば、名前も聞かなかったし名乗らずにご飯食べたなぁ。まぁ向こうも聞いてこなかったからいいか。
さて、図書館に寄って帰ろうっと。



********************



カフェから学園内の図書館へ歩いて移動。
石畳の道を歩く事数分。学園内はキチンと道が舗装されていて散歩するのにも便利だ。
道の両側には木々が生え、花壇も設置されている。日本にいたのでは見慣れない花もちらほら。似ているものもあるけれど。

後者から少し離れた一角に、なかなか大きな建物が見えてくる。
大きさからいってもそれなりの市立図書館レベル。大学なんかだとこのくらいの規模の図書館も備えているわよね。

この学園の図書館は、私のお気に入りの場所のひとつ。
ここは素晴らしいくらいの蔵書量と、世界遺産といっても遜色ないくらいの内装を誇る。

国中どころではなく、他国からの本も揃えているのだと教師陣からも聞いた。

直線的な日光ではなく、間接的な日光を取り入れた建築。
柔らかな光が館内を染める。
本が痛まないように、本棚の位置も計算され尽くしているのだろう。ここを建てた人はスゴい。

この古い本の匂い。
私は昔から読書が好きだ。子供の頃は日曜になると電車に乗って図書館へと通っていた。それこそ朝から晩まで。昼ごはんは図書館近くのラーメン屋さんで食べたっけ。

本を読んだり、子供向けの映画の上映を楽しんだり。



「こんにちは」

「こんにちは、ヤマグチさん。今日も精が出ますね」



毎日のように通っていれば、図書館の司書さんとも顔なじみになる。
一言、二言と挨拶を交わして、静かな館内を奥へ。

私が日参している棚は、この国の歴史の本が並んだ場所。
まだこちらの世界に来て3ヶ月と少し。まだまだ知りたい事は多い。ゼクスさんのお邸にも書斎があり、歴史に関しての本はあるけど、どれも専門書といっていいレベルで難しい。私にはまだ早い。

専門書よりも簡単な読み物レベルの本を借りる手続きをして、お迎えの馬車が待つ所へ。
歩いて帰る事もできない距離ではないのだけど、ゼクスさんは毎日私用に馬車を出してくれていた。
確かに道に迷うこともあるだろうし、私はまだ自分の身を守れるだけの力もない。
そのうち魔法の力が身についたら、1人で出歩けるようになるだろうか。


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