3 / 158
異世界さん、こんにちは
2
しおりを挟む手を引かれ、歩く事数分。
連れてこられたのは、学園内にあるカフェだった。
この学園には、貴族専用と平民専用、それと両方が使用可能なカフェの3つがある。
ここは貴族も平民も使える所。そのチョイスは的確だ。貴族専用に連れていかれたらアウェイ感がひどすぎる。
…ちなみにですね、王子様とアリシアさんは貴族専用のカフェでお見かけする事もあるようです、ハイ。
だから色んな人たちの目についちゃうのよねえ。
そしてここでようやく冒頭のシーンへと戻るのである。
********************
奢ってくれるってんだから遠慮する事もないか…とはいえ自分の食べた分は払いますけどね。
そういう所で借りを作りたくないと考える中身アラフォー女なのです。これは譲れない。
どうやら騎士さんは既に頼む物を決めているのだろう。
私がメニューから顔を上げると、店員さんを手を挙げて呼んだ。イケメンのスキルなのか?
「いらっしゃいませ、お決まりですか」
「俺はビーフシチューを。食後に珈琲を頼む。君は何にする?」
自分の注文を済ませると、店員さんを私に促した。
見ると顔見知りの店員さん。
「何にする?」
「えーと、クラブハウスサンド。後はホットコーヒー…今日の日替わりは?」
「今日はコズエさんの好みの苦めだよ」
「じゃあそれ、いつものやつで」
「OK、少々お待ちください」
私には『OK』と軽く。騎士さんには丁寧に『少々お待ちください』と返し、メニューを持ってカウンターへ去っていった。
ふと目線を戻すと、騎士さんは少しだけ目を細める。
「随分、気心が知れているようだが」
「食事に利用する事が多いので」
「成程。珈琲の注文もいつも通りか」
「そうですね、ここのカフェは珈琲の豆も日替わりで変えてるので聞いてます」
学園に入っているカフェではあるが、きちんとしたお店である。珈琲はハンドドリップだし、紅茶もリーフティーをポットでサーブしてくれる。
しかしお値段は良心的。通わない理由がない。
住んでいるお邸のシェフさんが作るご飯や、出してくれるお茶ももちろん美味しいのだが、ここの珈琲や紅茶、ケーキもなかなか美味しい。
そこまでグルメな舌は持ち合わせていないけれど、勉強に疲れた頭にカフェインは必要なのだ。…仕事中にもかなりお世話になっていました、カフェイン。
当たり障りない会話をぽつりぽつりとしていれば、食事が運ばれてきた。本題を切り出さない所を見ると、話は食べてからということですね。
それはありがたいので、遠慮なく食事に集中。ここのクラブハウスサンドはボリュームたっぷり、パンも手作りの為美味しい。中に挟まっているハムもその時で違うので飽きない。満足。
騎士さんの方が食事を終えるのは早かったけれど、こちらを急かすでもなく待っていてくれた。
貴族の嗜み?それとも紳士の嗜みかな?こういうところはいいなぁと素直に思う。
私の食事も終わり、珈琲が運ばれてきた。
いつも通りスチームミルクのあわあわたっぷりの珈琲。
ス○バでいうカフェミスト。私はこれが1番好きだ。
ふと騎士さんが私の珈琲をガン見していた。
…あぁ、このミルクかな。
「その珈琲は・・・」
「ミルクを細かく泡立たせてるだけですよ」
「そんな風にしてある珈琲を見たことがない」
「そうかもしれませんねえ」
この学園に入り、珈琲を注文した時。なんとなく物足りなくて店員さんにゴリ推してやってもらったのだ。
こちらの世界ではこうやって珈琲を飲む事はなかったらしい。
ゼクスさんのお邸でもやってもらった。やり方自体は簡単だからね。
さすがにラテアートは私もできないので教えられないけど…スチームミルクの作り方くらいはわかった。
私のたどたどしい説明に理解力を発揮してくれてありがとうございます、皆さん。
「気になるのなら今度お願いしてみたらいいのではないですか。
でも貴族専用カフェだと無理だと思いますよ。さっきの店員さんがこちらのカフェにいる時に頼んでは?」
「・・・そうしよう」
さすがに貴族専用カフェにスチームミルクをやってくれる人はいないかもしれない。最初、平民専用カフェでも難を示されたし。もう普通にやってくれるけどね?
でも頼んでるの私だけかもしれないな。メニューとして出してないみたいだしね。
「・・・本題なのだが、構わないか」
「はい、どうぞ」
「先程中庭で君が言っていた『空気を読めばいいのに』とはどういう意味だったのだろうか」
「いやそのままの意味ですけど」
「・・・すまない、俺は気が付かなかった。おそらく殿下も同じだと思うのだが」
どっちから声を掛けたんだろう?
王子殿下も気が付いていないのであれば、声を掛けたのは王子殿下からなのだろうか。
「平民の女子生徒に最初に話しかけられたのは、王子殿下ですか?」
「そのように記憶している」
「では失敗でしたね」
「そこを詳しくいいだろうか」
「あのですね、あそこの中庭って貴族も平民も分け隔てなく利用ができるスペースじゃないですか」
「その通りだ。だからこそ殿下とアリシア殿が会話していた所で不自然ではないと思うのだが」
「不自然ではないかもしれませんけど、周りの人目を引くには充分だと思いませんでした?」
「・・・殿下はどこにいても衆目を集められる。あの中庭に限ってのことではない」
「そうですね、殿下でしたら人目を引いても気になさらないのかもしれませんね。
でもあそこであんな風にアリシアさんと仲良く話していれば、殿下の婚約者のお嬢様にもバッチリ目に入っちゃいますよね」
「それは・・・」
「こそこそしない、というのは美点ですけど、周りの人がどう思ってどう噂するかも考えた方がいいんじゃないかと思います。
学園って限定的な閉鎖空間ですから」
私としては、殿下が誰と仲良くしようと知ったことじゃないし、アリシアさんが誰と仲良くしようと知ったことじゃない。
だがしかし、私以外の人になるとそうはいかないだろう。
渦中の二人が『決まった相手のいない男女』ならまだ噂にもならないのだろうが、今回は『婚約者のいる異性』が相手だ。
そしてそれが身分の違うもの同士だと更に。その片割れが王族だっていうんだから尚更だ。
例えちょっとした事であっても、関係の無い人まで話題に振り回される事になる。
節度を持ってほしい、というのは私の我儘だろうか。
珈琲も飲み終わり、話すこともなくなったのでカフェを出る。騎士さんは私の分も払おうとしていたみたいだけど、すかさずお金を出した。
そんな私を見遣り、騎士さんは静かに告げる。
「今回は俺が付き合わせたのだから、こちらで払うから気にしないでくれ」
「すみません、私お付き合いしている殿方以外に奢らせないタイプなので」
「・・・」
「ですから、自分の分は自分で払わせてください」
そんなことを言った私が珍しかったのか、カチンと固まっていた。その隙に私はさっさと自分の分のお会計を済ませる。馴染みの店員さんは苦笑気味。
何か言われないうちに、さっとカフェを出て離れた所で出てくるのを待った。さすがに置いて先に帰るのも失礼だしね。
憮然として…いや大して表情変わってないから最初から無表情のままなんですけどね、あの人。
出てきた騎士さんは私を見つけると近寄ってきた。
先手必勝、と私はペコリと頭を下げた。
「それでは私はこれで失礼します」
「・・・あぁ、時間を取らせて申し訳なかった」
「いえお気になさらず」
頭を上げて踵を返す。
ランチは済ませたし、図書館に寄って帰ろう。
…そういえば、名前も聞かなかったし名乗らずにご飯食べたなぁ。まぁ向こうも聞いてこなかったからいいか。
さて、図書館に寄って帰ろうっと。
********************
カフェから学園内の図書館へ歩いて移動。
石畳の道を歩く事数分。学園内はキチンと道が舗装されていて散歩するのにも便利だ。
道の両側には木々が生え、花壇も設置されている。日本にいたのでは見慣れない花もちらほら。似ているものもあるけれど。
後者から少し離れた一角に、なかなか大きな建物が見えてくる。
大きさからいってもそれなりの市立図書館レベル。大学なんかだとこのくらいの規模の図書館も備えているわよね。
この学園の図書館は、私のお気に入りの場所のひとつ。
ここは素晴らしいくらいの蔵書量と、世界遺産といっても遜色ないくらいの内装を誇る。
国中どころではなく、他国からの本も揃えているのだと教師陣からも聞いた。
直線的な日光ではなく、間接的な日光を取り入れた建築。
柔らかな光が館内を染める。
本が痛まないように、本棚の位置も計算され尽くしているのだろう。ここを建てた人はスゴい。
この古い本の匂い。
私は昔から読書が好きだ。子供の頃は日曜になると電車に乗って図書館へと通っていた。それこそ朝から晩まで。昼ごはんは図書館近くのラーメン屋さんで食べたっけ。
本を読んだり、子供向けの映画の上映を楽しんだり。
「こんにちは」
「こんにちは、ヤマグチさん。今日も精が出ますね」
毎日のように通っていれば、図書館の司書さんとも顔なじみになる。
一言、二言と挨拶を交わして、静かな館内を奥へ。
私が日参している棚は、この国の歴史の本が並んだ場所。
まだこちらの世界に来て3ヶ月と少し。まだまだ知りたい事は多い。ゼクスさんのお邸にも書斎があり、歴史に関しての本はあるけど、どれも専門書といっていいレベルで難しい。私にはまだ早い。
専門書よりも簡単な読み物レベルの本を借りる手続きをして、お迎えの馬車が待つ所へ。
歩いて帰る事もできない距離ではないのだけど、ゼクスさんは毎日私用に馬車を出してくれていた。
確かに道に迷うこともあるだろうし、私はまだ自分の身を守れるだけの力もない。
そのうち魔法の力が身についたら、1人で出歩けるようになるだろうか。
595
あなたにおすすめの小説
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
魔物が棲む森に捨てられた私を拾ったのは、私を捨てた王子がいる国の騎士様だった件について。
imu
ファンタジー
病院の帰り道、歩くのもやっとな状態の私、花宮 凛羽 21歳。
今にも倒れそうな体に鞭を打ち、家まで15分の道を歩いていた。
あぁ、タクシーにすればよかったと、後悔し始めた時。
「—っ⁉︎」
私の体は、眩い光に包まれた。
次に目覚めた時、そこは、
「どこ…、ここ……。」
何故かずぶ濡れな私と、きらびやかな人達がいる世界でした。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
【コミカライズ決定】愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
【コミカライズ決定の情報が解禁されました】
※レーベル名、漫画家様はのちほどお知らせいたします。
※配信後は引き下げとなりますので、ご注意くださいませ。
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる