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学園生活、1年目 ~後期・Ⅰ ~
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ざっくばらんに並べた料理。それを思い思いに摘む。
テーブルの上だけ見たら、フードフェスにでも来たみたいだ。でも視線を上げると、そこは私のよく知る世界ではなく、外国の街のようで日本語が通じる世界。…突き詰めると日本語でないと思うけど。
私の目の前には赤毛のエロメン…いやイケメン。
見つめる目には非難の色はなく、ただ純粋に私と会話を楽しもうとしている色だった。
「あんまり聞かれたくない事か?」
「私の事を話すには、まだエドの事知らないもの」
「それだけ信用はないってことだよな」
「女が秘密を話す、って気心知れた人だけよ?」
「なんか色っぽい台詞に聞こえるが、ちーと意味合い違うよな」
ぱくり、と春巻きをかじるエド。
遠慮なくどんどん食べるエドは見てて気持ちの良い食べっぷりだ。ガツガツと食べている様でも品がある。
貴族の人って、ちょっとした所作が綺麗なのよね。それは絶対私にはできない事だと思う。
ぐい、とエールを飲み干しておかわりを頼む。
うーん、私もおかわりしよっと。
「無理すんなよ?」
「え?これくらいじゃ酔い潰れないわよ」
「ならいいんだけどよ?送った俺がさっきの人に叱られそうじゃねえか」
うーむセバスさんか…たまにディナーの時にワイン飲んでるから、そこまでは怒られないと思うんだけど。
まぁすぐに帰ってもらえば被害はないはず。
お互い二杯目のエールを味わう。
うん、小籠包みたいなやつ美味しい。
「貴族ってのはよ、面倒なんだよ」
「ん?」
ぽろっと零す言葉。
エドを見ると、少しだけ潤んだような瞳。う、この人飲ませるとエロ度合いが上がるのでは…?
周りのお姉様の目が…ゴホンゴホン。
「俺は三男だからな、家を継ぐ事はねえ。…多分な」
「多分?」
「兄上達がこのままいてくれりゃ、な」
ん?なんだそりゃ。
でもエドはその話をやめてしまった。
代わりに、別の話を始める。
「俺が知ってる『タロットワーク』ってのはよ、得体の知れない影の権力って話さ」
「なにそれ?」
「俺はそういう風に聞いてるって事さ。謎の一族だな」
「ふぅん」
「ふぅん、じゃねえだろ?コズエもタロットワーク、なんだろ?」
「私は違うわよ?遠縁も遠縁、入っているうちになんて入らないわ」
全く、ただの一滴すらも入ってないのだが、基本設定は崩したらまずい。なので私は遠縁という薄い繋がりで預けられたという話だけした。
しかし平民だけならず、タロットワークって貴族の間でもきちんとした認識はされていないのでは。
…面倒くさいって言ってしてなさそうだな。
「遠縁、なぁ?」
「私だってよく知らないもの。普通の人達よ?」
「そーゆー事にしとくよ」
「そーゆー事にしておいて」
ごにょごにょ誤魔化すと、エドも笑って誤魔化されてくれた。説明…できないわよね?貴族の間でタロットワークがどういう位置付けなのかちょっと聞き込みしてみたい所だわ。エオリアさん…よりゲオルグさんの方が詳しいかな?
あらかた食事を終わらせ、私はデザートを買いに行く。
さっき杏仁豆腐的なやつを見かけたのよね。
エドは席を取っといてくれるみたいだから、私は近場の屋台巡りをした。
デザートを発見し、一人分でいいかなと思って戻ると、私達の席には美人なお姉様が。エドを口説きにかかっている模様。
…これは?成り行きを見守らねばならない…!
私はこそっと離れた席に座り、彼等を眺める。
エドは如才なく振る舞い、話し込んでいる様子。
目の前のお姉様がエドにしなだれかかり、とてもピンクなオーラが飛んでいます。うーむ、お持ち帰りィ!って声が頭の中を駆け巡ってしまう。
しかしまぁ、あんなに口説かれていてもオオカミさんにはならないのか…すごいなエド。
お姉様も困ってる気がしますよ?
あ、杏仁豆腐食べ終わっちゃった、残念。
やれやれと使い捨ての食器を捨てに行くと、ぐいっと肩を抱かれる感触が。
「っ、わ」
「ったく、どこまで行ってんだよ?」
「エド?」
じろりと覗き込んでくるのはエド。
軽口を叩いているが、目はジト目に…あ、これこっそり見てたのバレてるなぁ多分。
「ちょっと!どこ行くのよ?」
「悪いな、連れがいるんだ、またの機会にしてくれねえか」
後ろから苛立ったような女性の声がするが、エドは私の肩を抱いたままサッとその場を離れる。
路地を少しだけ急ぎ足で歩き、大通りの近くへと進んだあたりでようやく歩を緩めた。
「撒いたか?」
「ちょっと、エド、早い」
「悪いな我慢してくれ。元はと言えばコズエがちゃんと戻って来ねえからだろ?わかってんだぞ」
「見えてた?」
「当たり前だろ。コズエから目を離すなんて事はしねえよ」
聞き用によってはときめく台詞ですが、この場合危ない目に合わないようにって事だもんね。
馬車に乗るまで、エドは私の肩を抱いたまま歩いた。
********************
タロットワーク別邸の場所は知っている様で、サヴァン伯爵家の馬車はゆっくりと帰り道を進む。
向かいに座るエドはさっきの平民ぽさはなく、貴族の子息の顔になっていた。
目が合うと、琥珀の瞳は少しだけ険しい色。
「なんだ?」
「いいえ、何でもないわ」
「・・・コズエがタロットワークの後見を得てる、って事は黙っている方がいいんだな?」
難しい顔をしてるな、怒ってるのかなと思っていたら、エドが考えていることはそっちだったみたい。
私はひとつ深呼吸をして、エドに向き直る。
「できれば口外は控えてほしいかな」
「なんで平民として入ったんだ?タロットワーク一族ともなれば、アルゼイド王家に並ぶ高貴な血の持ち主だろう?貴族として入れば良かったんじゃねえのか」
「元々平民として生活していたんだもの、当たり前でしょう?私は貴族として生きるつもりは無いの」
「コズエは貴族に憧れたりしねえんだな」
「そんなにいいもの?貴族って」
「っ!?」
エドの目が見開かれる。
ゼクスさんのお父さんは身分制度の軋轢が嫌で、王権を委譲した。後継者であるゼクスさん本人もまた、それを望んだのだ。
私自身、一般市民としてずっと生きてきた。この世界に来たからといって、貴族に憧れないかと言われたら、全くないとはいえないだろう。
けれど、その対価に背負わなければならないものを考えると、私には到底無理な事だ。
「申し訳ないけど、私自身『貴族』になったとしても、その重責を背負うだけの覚悟もないもの」
「重責、か?」
「こちらではないのかしら。『高貴なる者に伴う義務』って言葉は」
「・・・悪い、不勉強だな。俺は聞いたことがねえ」
おや、言わない方が良かったかな?
でも私もさっきまでのエールで多少フワフワしてる。ちょっぴり口が滑ったとしてもエールのせいということにして誤魔化そうかな。
「まあわかりやすく言うと『貴族の義務』かしら。
身分の高いものはそれに応じて果たさなければならない社会的責任と義務があるって事よ」
驚いたような顔。こういうのって帝王学って事で教わらないのかしら?貴族の子息ならば知っているのが当たり前じゃないかと思うんだけど?
「エドも伯爵家の子息、ならそれなりに発生するでしょ?『サヴァン伯爵家』っていうブランドを背負っているんだもの、仕方ないわよね」
「そりゃ、そうだろうが・・・」
私は馬車の中から街並みを眺める。
独り言のように、呟く。彼に聞かせる訳ではなく。
「私はまだわからないけど、この国の貴族のどれだけが『持てる者』の意味を真実理解して『持たざる者』へ還元しているのかしらね。それを体現しているのはタロットワーク一族だけ、なのかしら」
「っ、コズエ、それは」
「彼等は王族という地位に固執する事なく、今でもその才を国へ捧げているのだと思うわ。確かに王権を委譲する、と比類なき行為に出た事は褒められる事ではないのかもしれないわね、王家としての役割を放り出したのだから」
エドは答えない。
私もエドに話すのではなく、これは独り言だ。
「それでも、身分という呼称に囚われる事なく、国に残り現王家を支えているのだから、それはとても凄いことだと思うわ。彼等の国を愛する想いは本物なんだもの」
ちょうどいい頃合にタロットワーク別邸だ。
私は馬車が止まると、戸をコツコツ、と叩く。
その音に反応して、御者さんが戸を開けてくれた。
エドは動かない。私はにっこり微笑む。
「今のは二人だけの秘密、ね?」
人差し指を私の唇に付ける。内緒よ?と仕草をしてみせればエドは瞬きを繰り返した。
そのまま私は指を彼の唇へ重ねる。
琥珀の瞳が見開かれ、驚きに染まった。
そっと指を離し、馬車を降りる。
門の入り口には、セバスさんが迎えに来ていてくれていた。私は振り返らずにお屋敷へ戻る。
後ろでは馬車の動き出す音がしていた。
********************
馬車が動き、伯爵家へと帰る。
俺は馬車の中で動けなかった。
彼女が最後にした事にも驚いたが、何よりそれまでに言った『言葉』に打ちのめされていた。
『高貴なる者に伴う義務』
その単語についちゃ聞き覚えはないが、内容としては繰り返し言われてくる事だ。
貴族として生まれたからには、義務が生じる。
だが、俺達が繰り返し言われるソレは『貴族の名を汚さぬ様に、家の利益を優先』という事が第一のソレだ。
コズエが言う『持たざる者への還元』という意味なんかじゃない。
少し毛色の変わった平民生徒。
気になるって意味ではあの『星姫』をしていたアリシア・マールもそうなんだが、な。
アリシアは守ってやりたいと思わせる、女としての魅力を感じているんだが。
コズエは少しそれとは違う。
また彼女と話がしてみたい、が。
俺ももう少し『貴族社会』について理解しなきゃならねえな。これまでは嫡男じゃないということであまり真面目にゃやってこなかったが。
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