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学園生活、1年目 ~後期・Ⅰ ~
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しおりを挟む演奏会の続いているホール。
そんな中、今私はすごく肩身の狭い思いをしています。
「ちょ、しーっ!しっー!!!」
「あはははは、だって君がとんでもない事言うから、あは、あはははは、傑作」
「周りに迷惑だから!もう少し声を落として!」
「ホントに最高だね、そうだね確かに。よくもまあ彼等が足並みを揃えて『演奏』出来たもんだよ、ホントにさ」
目元を拭いながら、ようやく彼は笑いが収まったようだ。
さっきより数段機嫌が良くなり、険のある目付きで舞台を見ていた彼とは大違いだ。
「そう思うと、この演奏も聞く価値はあるかもしれないね。ホント、最初ひどかったんだよねこの人達さ。ミスするとすぐに人のせいにして」
「知り合いなの?」
「知り合い?・・・あんな奴等と知り合いとは言われたくないけど。ま、知らない仲ではないかもね」
皮肉気な返事。
知らない仲じゃないけど、仲良くはないよって所?
この人のクラスメイトかなんかかしら。
彼は私をじっと見下ろす。視線が気になるなぁ…と思っていたら、ぐいっと顎を持ち上げて視線を合わされた。
目の前に映るのは、綺麗な森の緑のような翡翠の瞳。
そこにはさっきまでの軽視する色ではなく、興味深いというような色があった。
「・・・ふぅん、見た目はまぁまぁかな」
「貴方に比べたら見劣りするだろうけど、女子に対して言っていい事じゃないと思うわよ」
「悪くない、って言ってるの」
「全然そうは聞こえないから今後使わないでね」
「わかった、君にはやめておくよ」
君にはってことは他の人には使うんですね?
何かを納得したのか、私の顎から指を離す。にこ、と何か悪戯を思いついたような子供の顔。
舞台の上では演奏が終わりを迎えていた。立ち上がり、礼をして引っ込んで行く。拍手喝采、とまではいかないが、会場の人は労いの拍手を送る。私も付き合い程度にパチパチと手を叩いた。
彼はそんな私を呆れたように見ていたけれど、壁に寄りかかっていた体を起こす。
「さてと。そろそろ行かないとね。面白いことも聞けたし」
「そりゃよかったわね」
「うん、面白い意見が聞けてよかったよ。君は音楽は好き?」
「? 好きよ?聞くだけだけどね」
「そうなんだ。どんなの聞くの」
「どんなの・・・と言われても。ピアノも聞くし、歌劇とかオーケストラも嫌いじゃないかな」
そう答えると、彼は嬉しそうに笑った。
子供のように無邪気な笑顔。さっきまであれだけ不満を漏らしていた不機嫌な生徒と同一人物とは思えないくらい。
翡翠の瞳を煌めかせ、彼は自信満々に言う。
「じゃあもう少しここにいるといいよ」
「ん?」
「きっと『来てよかった』っていう演奏が聞けるから。じゃ、またね」
そう言い残すと彼はひらりと手を振って行ってしまった。まるで気分屋の猫が散歩に行くみたいだ。
何だったんだあの人。変わり者の貴族もいるもんだ…いや、貴族の子息ってのは皆もしかしたらああなのか?
不思議に思っていたけど、次の演奏が始まったので私はそちらに意識を切り替えた。
********************
それは、その次の演奏者が出てきた時だった。
舞台上にはグランドピアノが一つだけ。
その前までは数人の弦楽器や管楽器奏者が出ていたけど、今回はピアノ演奏が始まるみたい。それまでもピアノ弾いてた人はいたけどね。これ、最後だっけ?
演奏者は男子生徒。彼が出てきた瞬間、女子生徒の黄色い声援が響く。何?もしかして人気のある人なの?
けれどその声援も彼が椅子に座ってピアノに向き合った瞬間、シン、とした静寂に取って代わられた。
誰もが息をすることを遠慮するような静寂。
そしてたった1音。
そこからホール全体の空気が変わったようだった。
「・・・素敵」
曲は私も知っている『英雄ポロネーズ』
彼のピアノの音は、それまでの他の演奏者とは段違いのものだった。聞いているだけで何かがこみ上げてくるような感覚。肌が総毛立つような。
それまでのピアノ演奏者が悪いという訳じゃない。
ただ、この演奏者だけが抜群に桁外れなのだ。
会場の皆もうっとりとピアノの音に聞き惚れているのだろう。それまで多少あった話し声や、物音が一切聞こえない。
聞こえるのはただ、ピアノの音だけだ。
最後の音が終わっても、シンと静まり返る。
そして、僅かなタイムラグの後に、割れんばかりの拍手が起こった。
演奏者の男子生徒も、前に出て優雅なお辞儀をする。
私も心から拍手を送った。
「ん?」
拍手しながら、演奏者をよーく見ると…
あれは…
「ウソでしょ・・・」
舞台の上でまるで別人?というくらいにこやかな笑みを浮かべるのは、さっきまで私の隣で不平不満を漏らしていた彼だった。
…なるほど、他の演奏者をボロクソにいう訳だ。
同じ舞台にも立ちたくないと思っていたのでは。
彼にとっては舞台に上がるのに『あの程度の腕』じゃ上がる権利すらない、とでも思っていたのかもね。
********************
ホールを出ていく人の波に続き、私も退場。
さて、皆を探すかな?と思っていると、ぐいっと手を引かれた。見上げると、先程の彼。
「見ーつけた」
「痛いんですけど」
「あ、ホント?ごめんね」
「悪いと思ってたら離そうね」
「うん、そうなんだけど、ここから移動したいから。手を離したら君帰りそうだからね」
にっこり、と悪魔の…ゲフンゲフン、天使の微笑みを浮かべる。私の手首をがっちりホールド。引っ張られた時のように力は入ってないけど『逃がさないよ?』というように掴まれていた。
人並みを掻き分けるように歩く。ひょいひょい、とまるで意に返さないかのように。うっ、付いていくのがやっと…
「遅いね、歩くの」
「あのね、身長差とか、足の長さがあるでしょ!」
「ゴメンね僕足長いから」
そうでしょうともよ!暗いホールじゃハッキリ見えてませんでしたけど、舞台上や今の明るい所で見ると、文句の付けようのないイケメンですよあなたは!
珍しい銀色の髪。長さは男性にしては長めの短髪。瞳の色は翡翠の色。ややもすると冷たい印象だけど、機嫌のよさそうな今は猫みたいだ。
「ゴメンね、あの人たちを撒きたいんだよね」
「あの人、達?」
チラッと視線を移せば、貴族生徒のお嬢様達が見えた。彼に近付きたいけど、人混みに流されて右往左往している。
「ファンの子?」
「ん?まぁそんな所かな。まとわりつかれて鬱陶しいんだよね」
「・・・苦労してそうね」
「そうだね、色々とね。僕の見てくれが好きなんじゃない?爵位もかもね。僕には鬱陶しいだけなんだけど」
「随分ハッキリ言うのね」
「女の子ってそういうもんでしょ?・・・ああそうだ、僕の演奏どうだった?」
「・・・素晴らしかったわ。ゴメンねそれしか言えない」
そう言うと、彼はピタっと止まった。すでに人の少ない裏庭のベンチの辺り。この辺りは文化祭の人も少なくて話はしやすい。
私に振り返り、屈んで視線を合わせてきた。
うっ、イケメンの真顔の至近距離は心臓に悪い!
「ホントに?」
「え、ええ。サブイボ立ったわ」
「・・・サブイボって何」
「えっ?感動するとこう肌がゾワゾワってするでしょ?」
「その事?」
「そ、そうだけど・・・」
あれっ、サブイボって言わない…?さすがに貴族には聞かないか…?と思っていると、彼は心底嬉しそうに笑って私を抱きしめた。
「えっ、ちょっと!」
「ありがとう」
「それほわかったから、離してよ!」
「君が嘘ついてないってわかるから、すごく嬉しい。みんな同じような事しか言わないし」
感謝のハグ…なら仕方ないのか?
とはいえ、こんなイケメンにぎゅっとされてなんとも思わないほど、女として枯れてないのよ!!!
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