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学園生活、1年目 ~後期・Ⅰ ~
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しおりを挟む文化祭の中、突然人気のない所でイケメンにハグされております。これが乙女ゲーの醍醐味なんですね!
「・・・って違ぁう!!!」
「何いきなり叫んでるの君は」
「いい加減離してよ!」
「君って抱きしめるのにいいサイズだよね」
「待って、それはなんか愛玩動物的な物を感じる」
「うん、そうだね」
あはは、と笑いながら抱擁を解いてくれた。
彼にしても純粋に『嬉しい』という気持ちを表すためのハグだったんだろう。
まあそれならば許そう、コホン。
近くにあったベンチに座り、話すことにした。
…ええ、手首ホールドは健在です。
「今日もいい演奏だった」
「私は素人だからわからないけど、すごくいい演奏だったと思うわよ」
「ありがとう。君の言うことは嘘がないってわかるから素直に嬉しいよ」
にこ、と穏やかな笑顔。ホントに気まぐれな猫みたいだ。
彼はふぅ、と大きく息をついてから髪の毛をかきあげた。日差しにキラキラと銀色の髪が光る。
それをじっと見ているのに気づいたのか、彼はちょっと冷めた目になった。
「・・・何、この髪の色が珍しいの」
「うん、あんまり見ないなって」
「そうかもね」
綺麗だなぁと思っていると、彼はさっきまでの態度が嘘のように冷たい印象になる。ん?何か気に触ったのかな。
「何か気に触った?」
「別に」
「いやそこまで不機嫌な声を出されると」
「君も同じなんだなって思っただけ」
「は?」
「僕の髪の色を見て、『不貞の子』って気づいたんでしょ」
…不貞の子?なんだそりゃ。
もしかして父親とも母親とも髪色違うとかそういう事?
私が全くわかっていないように見えたのか、彼は自虐的に自分の事を話し出した。
「君、僕の名前くらい知ってるでしょ?」
「知らないけど」
「は?」
「有名人なの貴方」
「・・・なるほどね、さすがは平民生徒」
はっ、と鼻で笑う。この態度から見るに、もしかして貴族の中では公然の秘密という奴なのだろうか。
という事はそれなりの爵位にある貴族の子息って事?
そう思っていると、どこからともなくライラが現れた。
「お待たせいたしました、コズエ様。お迎えに上がりました」
「えっ!?ライラ!?」
い、いつの間に!?そして何故ここへ!?
ていうか文化祭見に来たとかですか?
驚くのは私だけでなかったようで、隣の彼も驚いていた。
そんな彼にライラは綺麗にお辞儀をする。
「カーティス侯爵のご子息とお見受けいたします。我が家の客人をおもてなし下さりありがとうございました。
お迎えに上がりましたので、これでお暇申し上げます」
ライラは有無を言わさぬ感じ。
私をゆっくり促すと、ここから離れる。
私もなんだか申し訳ない気持ちになったので、軽く頭を下げてからライラに続いて歩き出す。
「ちょっと待って」
すると、後ろから彼の声がする。
足音が聞こえ、私の腕をそっと掴んだ。
力づくではなく、まるで子供が引き止めるかのような。
私が振り返ると、彼は捨てられた子犬のような目をしていた。申し訳なさそうに、言葉をかける。
「ゴメン、ちょっと勘違いしてた。許してくれる?」
「私は、構わないけど」
「うん、ゴメンね。また、ピアノ聞いてくれる?」
なんだか縋るような口調。
またあの素敵なピアノが聞けるなら、私にとっては嬉しい事だ。そう言うと、彼は嬉しそうに笑った。
「ステュー」
「え?」
「僕の名前。君は?」
「コズエ・ヤマグチよ」
「わかった、コズエだね。またね」
私が名前を教えると、彼はあっさりと手を振った。
ライラが少し先で待っていたので、私は彼女の元へ小走りで向かう。
あのピアノ、また聞かせてくれるんだ。
かなりの腕前だけど、プロを目指すのかな。
********************
文化祭もひと通り終わり、ライラは私を迎えに来てくれたそうだ。しかし見当たらないので学園内を探していたと。
ちなみにクラスの片付けは明日やるらしい。
ほとんどの生徒は帰り始めていたそうだ。
「ライラが迎えに来るなんて珍しい」
「本日お屋敷に旦那様の弟君がいらっしゃいます。コズエ様には帰ってからお支度をしてもらわないといけませんので、セバスさんが迎えにと」
「ああ、なるほどね」
「・・・先程の生徒ですが、お知り合いですか」
「ん?ううん、ホールでやってた演奏会で偶然知り合っただけの人よ」
「そうでしたか。何やらよろしくない空気を感じましたので、割って入らせていただいたのですが。申し訳ありませんでした」
「いや、あれはライラの機転に助けられたわ」
何が彼の気に触ったのかわからないけど。
彼にとっては触れられたくない所だったんだろう。
「ライラ、あの人は・・・」
「あの方は、カーティス侯爵家のステュアート様です。長男でいらっしゃいます」
「えっ、じゃあ『ステュー』って」
「愛称、ではないかと思われます」
あらっ?それってまずくない?
侯爵家ってなかなか身分上よね?
しかも彼って長男なの?嫡子ってことよね…
「ライラ、カーティス侯爵家に銀髪の方はいるのかしら」
「いえ、現在はステュアート様だけかと」
「・・・これって地雷案件?」
「まことしやかに囁かれる噂は限りなく」
あー!これはヤバい奴ぅー!
なるほど、いきなり銀髪の息子産まれちゃったの?
あれ、でもライラは『現在』って言ったな?
私がそれを聞こうとすると、ライラは先に私に告げた。
「私よりもこの件は旦那様にお聞きした方がよろしいですよ、コズエ様」
「じゃあそうするわ」
********************
お屋敷に戻り、支度を開始。
ゼクスさんの弟さんとはいえ、お客様だ。
私はここでお世話になっている身分だし、綺麗にしてお迎えせねば。さすがに制服や部屋着の訳にはいかない。
ゼクスさんの末の弟さん、ガルド・タロットワーク。今は国の財務長官をしている。
私は会ったことがなかったので、ご挨拶。
優しそうなオジサマだ。ゼクスさんよりもひと回り以上離れてるから、ゲオルグさんと同年代だそうだ。
気兼ねなく接してくれたので、私も楽に食事ができる。マナーはひと通り教えてもらったけど、さすがにこちらの貴族のお嬢様のようにはいかない。
学園での生活を聞かれたので、ちょうどいいと思い、今日の事を話した。すると、ゼクスさんもガルドさんもため息をこぼした。
「えっ、これ聞いちゃまずかったですか?」
「まぁそういう事じゃないから構わんが・・・」
「やはり噂が出回っているんですな・・・」
「え?噂?」
ゼクスさんは語り出す。
カーティス侯爵家。数多くの芸術家を生み出した貴族のひとつ。音楽や絵画などの芸術分野において秀でた才能を持つ方が多いそうだ。今でも国の芸術関係の仕事を請け負っているのだという。
才能ある芸術家を見出して保護していたり、援助したり。
国の文化遺産などを代々管理する家柄だそうだ。
カーティス侯爵家の現在の当主には本妻の息子であるステュアート。そして愛人が二人いて、その子供がいるらしい。こう聞くと普通のどこにでもいる貴族の話なのだが、ここからだ。
現在のカーティス侯爵家に銀髪の人間はただ一人。本妻の息子であるステュアートだけ。
その上の代にも居ないのだそうだ。
「しかしですな、カーティス侯爵家には時折銀髪の人間が産まれるのですよ」
「えっ、じゃあ別に問題ないのでは」
「それがですな・・・」
ステュアートが産まれる一年くらい前、カーティス侯爵家では外国から若い才能ある数人の芸術家を保護していたらしい。
その中に、一際見目の良い若者がいたらしく…
「その若者が銀髪の青年だったのですわ」
「っ、くあーーー!!!わかりやすぅい!」
「侯爵家に時折銀髪の人間が産まれる。それは貴族の中でも知られた事なのです。しかし、運悪くというか」
「タイミングの良いというかの、奥方もなかなか恋愛話の耐えない奔放な方でおられてのう」
ガルドさんもセバスさんもため息。
なるほど、うまいこと『不貞』が疑わしい条件が重なってしまったという訳だ。奥方は『ステュアートはカーティスの血です』とハッキリ言っているのでそれを疑うこともできず、カーティス侯爵はそれを認めたと。
しかし、噂好きな貴族の方々は今でもこの話の本当の事を知りたい、とヒソヒソしているんだそうだ。
それなら彼があんなにつっけんどんなのも理解出来るわ。
銀色の髪、自分でも嫌なんだろうな。
でも彼にはよく似合ってたし、私にとっては眼福でもあるんですが。またピアノ聞きたいなあ。
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