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学園生活、1年目 ~冬季休暇~
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しおりを挟む学園も新年を迎えるに辺り、休みに入る。
キャズやディーナは故郷の領へと戻る。やっぱり家族と一緒に過ごしたいものね。
お土産を買ってくるわ、と言って帰省した。
ドロシーやメグは王都在住の為、いつもと変わりはないが、互いに家の手伝いに奔走するようだ。
特にメグ。
生家の商会では新年の売り出しに相当な気合を入れている。『福袋』の話をしたら乗り気になってしまった…
でも売れ残っているものや、話題のものを上手くミックスして、お得感を出すんだよとアドバイスしておいたし、変なものが売られる事は無いはずだ。…多分?
ドロシーは寒くなってきたから、風邪になる患者さんも多いようで、薬の調合に余念がない。
毎年患者も増える季節なので、毎年年越しギリギリまで店を開けているのだとか。
私は年末の『祈願祭』に向けて毎日魔術研究所へ行き、ひたすらランタンを作る。
大方の材料は研究所の所員たちが、素材から作っているものだ。魔力量の少ない人でも扱えるように。私はそれをただひたすら組み立てるだけ。
単純作業だけど、量を作るのはつらーい!
しかしこれを今まで作り続けた所員たち、すごいよ…
『祈願祭』の前日には全ての王都に住む人に届けられ、旅行者にも配られるそうだ。
く、苦行に近いよこの作業…!マジ尊敬するわ!
********************
今年も年末になり『祈願祭』、そして新年の挨拶がある。
王族である俺は全てに出席だ。貴族だけでなく、平民も『祈願祭』には王城前の広場に集まる。
王族はテラスに立ち、ランタンが立ちのぼるのを見守り、眼下の国民に手を振り続ける。
毎年の事とはいえ、飽きもするものだ。
平民にとっては『祈願祭』でしか王族を目の当たりにする事はない。行事毎に姿を見せてはいるが、貴族と平民分け隔てなく姿を見られるのはこれくらいだ。
「カーク様、ご準備は整っておられますか?」
侍従が声を掛けてくる。
衣装のチェックは自分達でする事になっている。
『祈願祭』と新年の挨拶。同じ衣装で出る訳にもいかないので、前日からどれを着るのかきちんとチェックしないとならない。
「タイピンはなさらないのですか?」
「タイピンは、新年の挨拶だけでいいんじゃないか?」
「広場にはエリザベス嬢も来るかも知れませんよ?付けておいた方が喜ばれるのでは」
ああそうか、そういう所にも気を使わないとならないのだな。記憶の中の兄上も、公式行事にはタイピンを付けていた気がする。
「となると、衣装も考え直すか・・・」
「そうですね、お色を揃えた方がよいかと。とはいえカーク様は寒色系の衣装が多いですからな。来年は少し揃えた方がいいですね」
そこまで気が回らなかったな。兄上は自然とそういった所に気を配っていたのだと思うと、参る。
あの女に言われた『高貴なる者に伴う義務』についてもまだ自分の答えが見つからないままだというのに。
あれから幾度となくあいつを見かけた。だが、今の俺にはあいつにかける言葉は見つからない。
アリシアと話す機会が自然と増え、彼女の素朴な温もりに癒される日が多かった。もちろんエリザベス嬢を邪険に扱った覚えはないが、何度かナルに釘を刺された。
その都度、ナルやエドワードに頼み、アリシアに伝言を届けて貰うこともあったが…そのせいか、周りから『彼女とドラン様は親しいのですか?』などと聞かれることも増えた。
アリシアは孤立している訳ではなさそうだが、『聖』属性を持つ生徒と知られているからなのか遠巻きにされる事もあるようだ。クラスに女友達はいるが、男子生徒は話しかけて来ないので、と。
つまらないだろう、と思って俺もナルもエドワードも気がついた時は声をかけるようにはしていたのだが。
心が安堵するのと同時に、あいつに言われた事を思い返す事もあった。
『自分がどう見られているのかわかってる?』
王族である事、婚約者がいる身である事。
身分の差を考えれば、ナルやエドワードがアリシアに構うのはあまり良くないのかもしれないが…今更どうしたらいいのかも見当がつかないのも事実だ。
あいつに助言を求めれば、何か教えてくれるのだろうが。
エリザベス嬢を泣かせるような真似はしたくない。
だが、アリシアの笑顔を守りたいと思うのも、事実だ。
そう思い悩んでいる間にも、日は巡る。
『祈願祭』の当日になれば、王城内も慌ただしくなっている。上から下まで、使用人もバタバタだ。
衣装に着替え、祭礼が始まるのを茶を飲んで待っていれば、兄上も待合の部屋へと入ってこられた。
例年の衣装とはまた違う、大人びた礼装。
白と青を基調とした、ゴールドの飾りも鮮やかな。
今までに比べれば飾りは減っているが、それがさらに兄上が大人になったという雰囲気を醸し出していた。
「やあカーク、新しい衣装も似合っているよ」
「何を言っているんです、兄上こそ」
「そうかな?今年からは少し控えめにしたんだが」
そんな話をしていると、父上と母上も入ってくる。
寒さ対策として、皆、白の毛皮のコートを羽織る。
長い時間、テラスに出ていないとならないからな。
すると、ゼクスレン殿を筆頭とした魔術師達が挨拶に来た。
「お揃いですな、皆様」
「ゼクスレン殿、今年もよろしく頼みます」
「こんなジジイをこき使うなんぞ、お主も酷い男だのう」
「そう言わんでください、貴方以上に『奉納の儀』を任せる事の出来る魔術師などいないのだから」
「途中で顔を出せよ、お主も」
「そうさせてもらいます」
ゼクスレン殿以外は揃いのローブを来て、目深にフードを被り、顔の上半分を仮面で隠していた。
大きな魔石の付いた魔道杖を持ち、男なのか女なのかすら分からない。
毎年この『祈願祭』における『奉納の儀』はゼクスレン殿が率いる精鋭の魔術師が執り行っている。
数人の魔術師が入れ替わり、儀式を行うのだそうだ。
「父上、今年は私にも少し手伝いをさせてもらえませんか」
兄上が父上にお伺いを立てた。
父上は驚いたように兄上を見て、静かに頷く。
そんな兄上を母上は目を細めて見守っていた。
「兄上、『奉納の儀』に興味があるのですか?」
「ん?そうか、カークは見た事がないんだったね。
それはとても荘厳な儀式だよ。カークも見てみるといい。王都広場全体からゆっくりとランタンの光が昇る様はとても言葉では言い表せない美しさだよ」
「そうなのですか?」
「ああ。去年までは見るだけだったんだけど、今年は奉納もさせてもらえないかと思ってね。先程ゼクスレン殿にもお伺いを立てたんだけど、父上の許しがあれば構わないと言われたんだ」
「奉納・・・も、ですか?」
王城の上に鎮座している『祈りの鐘』に魔力を注ぐ儀式。この儀式は魔力の扱いが難しいようで、決まった魔術師以外は参加出来ない。
兄上はそれを自分でもやってみたい、という事か。
「魔力の扱いが難しいから、少しの間しか許されないけれどね。・・・そうだ、カークもどうだい?」
「私もですか?いや、それは・・・」
「そうかい?まあ、考えておくといい。上に行って気が変わることもあると思うしね」
奉納の儀、か。確かに経験としてはいいかもしれないが。
俺は兄上から言われた事に悩みながら、テラスへと足を進めた。
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