異世界に来たからといってヒロインとは限らない

あろまりん

文字の大きさ
73 / 158
学園生活、2年目 ~前期~

96

しおりを挟む


今だけは、対等な相手。
これから先どうなるかわからないが、このひと時はきっと俺にとって『大事なもの』になる。

認められたい、ただそれだけ。


「祈願祭で、想いが受け取れない話を父上から聞いて、俺はすごく悔しかった」

「悔しい?」

「ああ。お前にできて、どうして俺に、俺達にはできないのかって。でも考えてみれば当たり前だったのかもな。民の想いを受け取れるだけの器が、俺にはまだないんだから」


彼女の目が変わる。興味深い物を見つめる瞳。
きっと、俺がどう変わるのかを見ているんだろうと思った。

祈願祭を終えて、新年を迎え。俺には新しく家庭教師が付いた。父上ではなく、兄上が手配した教師達だった。

『きっとカークに必要になるから』

兄上はそう言って、数名の教師を俺に付けた。
そしてその日から今までとは違う『教育』が始まった。これまでも王族の義務として帝王学を学んできた。
学園で学ぶような知識ではなく、王族の一員として、国を導いて行くための思想と知識。
だが、始まったのは国を支えていくために必要な思想と知識の勉強。

視界が開けていくようだった。同じ題材の授業にしても、これまでとは違った考え方をする授業。
国王としての考えからが『こう』ならば、臣下として示す考え方は『ああ』なるのかと。

面白いように知識は自分の中に蓄積され、それと同時に今までの事が全然別の見え方をしてきた。
そして今までの自分の行動、言動がいかに『王族』として足りないものだったのかという事を。

兄上に話をすれば、兄上自身も同じ経験をしたと話してくれた。兄上の時はゼクスレン殿が教師を連れてきたらしい。

兄上に臣下としての考え方を学ぶ事が必要なのかと問えば、兄上は上から見ただけでは物事の在り方は見えてこない。そう教えて貰ったんだよ、と笑った。
そして兄上は俺に同じように、考え方の多様性を示してくれた。ありがたい事に。


「・・・確かに、貴方はシリス殿下が国王となった時に片腕として国を支えていかないといけないものね。
もしシリス殿下が何らかの事情で国を継がなくなった時は、貴方が国王にならないといけないし」

「兄上が王にならない事などないだろう」

「わからないでしょ?もしかしたら他国の王に迎えられる事が絶対にない、と言えるの?
もしかしたら、貴方がその立場になるかもしれないのよ?」

「・・・俺?」

「そりゃそうでしょ、今後どこぞの第一王女に見初められて婿に入るって事もないとは言えないんだし。その時は王族の務めとして国と国との架け橋になるのでしょ?」

「確かに、その可能性もないとはいえないか」

「私、あと聞きたいことあるんだけど」

「なんだ?」


彼女から俺に?何かあっただろうか。
また何かからかう内容なんじゃないだろうな?

しかし彼女は真剣な顔で、俺に質問をする。


「カーク、貴方エリザベスの話を聞いてどう感じたの?」




********************




その瞬間、さっきまで凛々しく語っていた顔が、年相応の男の子になった。あらやだかわいい。

カチン、と固まったかと思うと思いの外動揺し、お茶を飲もうとして焦っている。純粋か!


「何動揺してんのよ」

「なっ、ど、動揺なんてしてない」

「してるでしょ、わかりやすいのよ貴方」

「─────驚いたさ」


ごくごくっ、と紅茶を飲み干し、もう一杯お茶を注ぐ。
湯気の立ち上るカップをじっと眺めて、そうぽつりと呟いたカーク。そこにいたのは普通の男の子だった。


「エリザベスが、あんな風に考えているとは思わなかった。いや、思いもしなかった」

「カーク、エリザベスの事好き?」

「っ、な、当たり前だろう」

「本当に?」

「本当だ」

「それって、『女』としての好き?それとも『家族』としての好き?」


彼は目を見開いた。確かに、カークはエリザベスを好き、なんだろう。でもそれは『どういう』好きなのか考えた事はあるのだろうか。


「エリーの話、全部聞いていたのよね」

「ああ」

「エリーの言う事、どう思ったの?」

「どう、って」

「貴方がアリシアさんを好きなら、エリーは身を引くって聞いて。貴方、その時エリーの事を思った?それともアリシアさん?」

「───っ、」


その顔を見て、私はやっぱりね、と思った。

カークの中で育つ恋は、まだまだ小さな蕾。
自分で自覚すらする事のできない、不完全なもの。
それがどちらに向けられてのものなのか、私には推し量る事ができないんだけど。


「カークはまだまだ子供ねぇ。初恋もまだなんでしょ?」

「なっ、ちがっ」

「私の初恋は、10歳くらいだったかなあ。学校・・・学園みたいなところね、そこで同じクラスの男の子に」

「お前の世界ではそんな子供の頃から学校に行っていたのか」

「何言ってるの?こっちの世界では、皆6歳の頃から学校に通うのよ」

「っ、はぁ!?庶民が、か?」

「あのね、私の世界では『王族』はいないのよ。似たような高い地位にいる人達がいるけど、国を動かすのは一般市民・・・こちらで言う平民で、それも皆で選ぶのよ?」

「国を動かす代表を選ぶ、ということか?」

「ええ、そうよ。皆でその代表者がどんな国にしたいかって事を聞いて、自分達の代表にするならこの人、って選ぶの。
で、国民は皆、6歳になったら学校に通って勉強するのよ。それこそ15歳までね。希望すれば22歳くらいまで高等教育を受けられる」

「じゃあ、お前はどれだけ勉強したんだ」

「私?私は20までね。そこからは働いてたから」

「・・・その割にはあんまり頭がよくないのか?いつもテストでは上位にはいないだろ」

「バカね、学生生活16年目をなめるんじゃないわよ?そんなの狙って点数落としてるに決まってるでしょ?私みたいな普通の人がトップ取って目立ってどうするのよ?」

「は?わざと間違えてるのか?何のために?」

「そんなの王子様にトップを譲る為に決まってるじゃない。私が本気で点数取りに行ったらトップ3に入っちゃうわよ?そんな事してどうするのよ?アリシアさんとか特待生なのに上位に入れなかったらかわいそうじゃない」

「なら一度くらい全力でやってみたらどうなんだ?」

「それで何かいい事あるの?あのくらいの点数取っておけば、そこそこ教師からのウケも良くてちょうどいいのよ」

「・・・腹黒いな」

「そもそも私が学園に行ってるのは無理なく魔法を学ぶ為であって、学力トップになりたい!とかコネを作りたい!って訳じゃないんだからいいのよアレで」


そう、そういう事はやりたい人に譲っておけばいいのだ。私は自分の目的の為に学園に行っているのであって、自分の優秀性をひけらかす為ではない。


「で?カークは初恋いつなの?まだなの?」

「子どもの頃、メイドを追いかけていたことなら」

「バカね、そんなんじゃないわよ。その人の事を思うと、胸が苦しくなって。その人の事ばかり目で追いかけて。声が聞けるだけで嬉しくなって。あの人の隣に行けたら、って思うようになるの。そんな事ない?」

「・・・それが、恋、か」

「そうよ。コントロールなんてできない。どうしてこの人なのかなんてわからない。でも、惹き付けられるのよ」

「・・・・・・」


黙り込むカーク。そう、彼にはまだ訪れていないのかも。それとも、意識していないだけ?貴方はアリシアさんを目で追いかけている事に気付いていない。
けれど、エリーの事も大切に想っているはずだ。でなければあの時、話を聞いていた貴方の顔はあんなに迷った顔をしていなかったはず。カフェの階段で佇んでいた君は、アリシアさんの所に行くのを躊躇してたんじゃなくて、エリーを追いかけようと迷っていたんだよね?

どちらに転ぶのかまだわからない。だってほんの少しのきっかけで、君はどちらかの少女に恋をするはずだ。

今はまだ、自分の事でいっぱいで、踏み出せずにいる。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

魔物が棲む森に捨てられた私を拾ったのは、私を捨てた王子がいる国の騎士様だった件について。

imu
ファンタジー
病院の帰り道、歩くのもやっとな状態の私、花宮 凛羽 21歳。 今にも倒れそうな体に鞭を打ち、家まで15分の道を歩いていた。 あぁ、タクシーにすればよかったと、後悔し始めた時。 「—っ⁉︎」 私の体は、眩い光に包まれた。 次に目覚めた時、そこは、 「どこ…、ここ……。」 何故かずぶ濡れな私と、きらびやかな人達がいる世界でした。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

【コミカライズ決定】愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
【コミカライズ決定の情報が解禁されました】 ※レーベル名、漫画家様はのちほどお知らせいたします。 ※配信後は引き下げとなりますので、ご注意くださいませ。 愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

処理中です...