夢見るディナータイム

あろまりん

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『・・・・・総悟か?』

「あれ。ハルさんじゃない、どうしたの」

『お前、今から出られるか?』



こんなお誘い、ハルさんがするなんて珍しい。
それに、今日はバーでバイトのはず。



「なにそれ。お誘い?」

『ん?・・・・・ああ、そうだ。無理か?』

「ううん、いいよ」



面倒、って思いはしたけれど。
ハルさんがわざわざ僕に連絡をくれるなんて、滅多にあることじゃない。

・・・・・知り合って一月くらいしか経っていないけど。
ハルさんは人との距離をはかるのが上手な人だ。
僕があまり人付き合いが好きな方ではない事をわかっていて、いつも仕事場では一定距離を保つ。

康太とかは何かと騒がしくウロチョロしてるけどね。



『悪いな。・・・・・メール送るから、それ見て店まで来てくんねえか?』

「店?店って・・・・・ハルさんが働いてるバー?」

『当たりだ。待ってるぜ?』



ぷつん。

軽い笑いの余韻を残して切れる電話。
程なく、メールが着信した音。

開いて見てみれば、バーのある位置が記されたURLのついた文面。



ま、たまには夜の語らいもいいかもね。
普段話せない事でも話してくれるのかな?



ジャケットを引っ掛けて、店へ向かう。

時間は20時を過ぎたあたり。
そんなに遅い時間でもないから、駅近辺は結構人が多い。

地図を頼りに歩いていれば、目を惹く看板が現れた。



少しカジュアルな店構え。
気軽にフラっと入れるようなところだ。

ハルさんらしいと言えば、らしいかもね。



ドアを開ければ、からん、とベルが鳴る。

カウンターの向こうに、目立つ赤毛のバーテンダー。
その前に座るのは・・・・・



「んだよ、総悟も呼んだのか?」

「・・・・・・・・・・・巽さんかぁ」



紫の瞳が印象的な、僕の天敵。



◼︎ ◻︎ ◼︎



「俺だって嬉しかねぇよ」

「それは僕もです。・・・・・なんで呼んだの?ハルさん」

「まあまあ・・・・・何呑む?総悟」

「お任せしますよ」



総悟らしい。なんでも呑めるから適当に作って、と言って座る。
・・・・・なぜか巽さんの隣を1つ空けて。



「なんで空けるんだ」

「そりゃ当たり前じゃない。巽さんの隣なんてヤダ」
「てめえ・・・・・」

「巽さんも落ち着けよ。ったく・・・・・」



ことん、とジンライムを置く。

総悟がライムを手に取って、ぎゅ、と絞って寄越した。
ディスポーサーにそのまま放り込む。



「で?」

「ん?」

「なんで、呼んだんです?まさか巽さんと仲良くしろなんて無理ですよ」
「俺もゴメンだ」

「・・・・・あのなぁ・・・・・。
まあいい。2人を呼んだのは、アレだ」




くい、と軽くしゃくって示した、奥のテーブル。
ちらり、と振り返って見る2人。

そのテーブルには、常連の女が2人。



「・・・・・」
「・・・・・ハルさん、僕ああいうの好みじゃないんだけど」

「そうじゃねえよ」

「・・・・・成程な。あの女か」

「当たり。さっき来たんでな。見せとこうと思ったわけだ」

「え?・・・・・もしかして、」

「そういうこと」



ぱちん、とウインク。
それで総悟は察したらしい。

そう、2人のうちの1人。
佐々木麻里子。響子の彼氏を取ったっていう、女だ。



つい30分前。
常連の客と一緒に現れた。

長居したいから、奥のテーブルいいですか?と来たもんだ。

こりゃ、あの2人に見せるチャンスじゃねえか?
巽さんは一度見た事あるだろうが、総悟はまだだ。
顔を拝ませておくのも悪かねえな、と思った。



「・・・・・ふうん。まあ、見た目だけはそこそこ?」

「総悟、お前ああいう女が好みか?」

「全然?あんなのただ煩いだけでしょ。ワガママそうだし」

「ま、そうかもな」

「でも、康太あたりなら好きそうじゃない?
見た目だけで、そこらの適当な男なら落とせるかもね」



全く興味なし、とばかりに見るのを辞めた総悟。

どうやら、ああいうイマドキの女にはさっぱり興味がないらしい。
こいつくらいの歳なら、ああいった女に食指を覚えると思ったんだがな・・・・・?



「何、ハルさん。その意外って顔」

「ん?お前くらいの歳の奴なら、ああいう女が好きなんじゃねえのか?
連れて歩くには持ってこいだろうが」

「中身はともかく、な」



巽さんも意外、という顔をして俺に同意する。
・・・・・この人も若い時はかなり女を連れてたクチだからな・・・・・。



「ええ?あんな中身のスカスカな馬鹿女、連れて歩いたら僕のレベルが疑われるでしょ」

「言うな・・・・・」
「そこまで言うか?」

「だってそうじゃない。あの子達、自分しか見えてないもん。
彼氏がいるのかいないのか知らないけど、きっと『自分に似合うかどうか』で見てるでしょ」



驚いた。
意外にも、女を見る目は肥えているようだ。

確かに、ああいう女は単に連れ歩くだけなら『アクセサリー』としていいだろうが。
それ以上は・・・・・求めるのが無理ってもんだ。
けど、若いうちは誰でも見目のいい女を連れたいもんだ。
他の男に差を付ける為・・・・・って言ったらアレだが。

自分が落ち着いてくれば、中から光るような女を連れて歩きたいが・・・・・



「僕は、響子さんみたいに中身がちゃんと光ってる人じゃないと嫌だよ」



がり、と氷を噛み砕く。
平然と、そんな事を言ってのけるあたりが・・・・・こいつらしいと言うべきか。



「フランスの女の子は、みんな中身があって自分を持ってた。
だから、どの子と話しても、すっごく勉強になるし、楽しいけど・・・・・
日本の女の子ってどうしてああも中身がスカスカなわけ?
『自分』がなくて、『みんなと同じ』の子ばっかりなんだもん。つまんないよね」



成程。こいつの場合、既に海外で女を見る目が養われてたって訳だ。

日本の女は、確かに群れる性質があるせいか、『みんなと同じ』ってのが多い。
1人個性的でいるよりも、みんなで同じってのがいいらしい。
それは、若い女ならなおさらだ。はみ出ないようにって気を使う。

だが、ある程度歳を重ねるとそうじゃない事に気付き始める。
自分の個性を生かして、魅力を出そうとするのだ。
それは個人差があるのかもしれねえが・・・・・。



「見直したぜ、総悟」

「なにそれ。そりゃ巽さんやハルさんは相当女遊び激しかったんでしょうけど」

「うるせぇな」

「あ、ホントなんだ。康太の情報も馬鹿にならないもんだね」

「・・・・・殺す、康太」
「まあまあ巽さん。遊んでたのは本当だろ?」

「てめえに言われたかねぇな、晴明。
3股、4股は当たり前だっただろうが、お前は」

「何言ってんだ。巽さんだってそれくらい普通だっただろうが」

「アレは『自称・彼女』って言ってる奴が多かったんだよ」

「そりゃ俺だってそうだって」

「はいはい、どっちでもいいですよ。2人とも非常にモテたんですね」

「「こいつがな」」



半ば同時にお互いを指差す。
・・・・・どっちもどっちでしょ、と呆れたようにため息を付く総悟。



そのとき。
くすくす、と笑う女の声。



「なんだか、仲良さそうですね、金子さん」
「本当、楽しそう」



常連の女と、佐々木。
どうやら、オーダーをしに来たみてえだが・・・・・

ちらちら、と巽さんと総悟を変わりばんこに見つめてる。
目には、賞賛の色。
そりゃそうだ、滅多にお目にかかれねえ上玉が2人もだからな。



「どんなお知り合いなんです?常連さんですか?」

「君に関係ないでしょ」



佐々木が甘えるように訊ねても、素っ気無い返しをする総悟。
全身から『向こう行きなよ、邪魔だから』とオーラを発散。

そんな総悟に怯むが、おかまいなしに喋りかけてきた。



「ええ~?冷たいですね?ちょっとお喋りしませんか?
私達、女2人でつまらないんですぅ」

「悪いが、間に合ってる」

「せっかく、2人同士なんですから!」

「・・・・・んじゃ、飲み物持ってきたらどうだ?
巽さんと総悟も、『ちょっとだけ話に付き合って』やれよ?」



何で僕が、と見る総悟と。
ふざけんなよ、と睨む巽さん。

おいおい、チャンスだろうが?



はーい!と返事をしてドリンクを取りにいく彼女達が離れてから、2人に話しかける。



「てめえ、晴明・・・・・」
「ハルさん?ちょっと表に出ようか?」

「落ち着け、2人とも。せっかく『獲物がかかった』んだぜ?
『釣り上げる』チャンスだろうが?」

「・・・・・」
「・・・・・あ、そういうこと」

「だろ?巽さん?」

「・・・・・はぁ。面倒だな・・・・・」

「じゃあ、巽さんは適当にしてればいいんじゃないですか?
僕は響子さんが心置きなくフリーになるためなら頑張りますけど?」

「・・・・・後でシメる、総悟」

「んじゃ、決まりだな?俺も話を振るから、頑張れよ?2人とも?」



2人を見れば、なんで俺が・・・・・と面倒臭がる巽さんに。
任しておいてよ?と悪戯っぽく笑う総悟。

ま、これを狙って2人を誘ったわけじゃねえんだが・・・・・。



この色男を前にして、あの女が放っておかねえだろうな、と打算が働いたのも事実。

女は、酒を飲ませりゃ色男には滅法弱い。
男にも通じる常識が、女にも通じねえ訳がねえ。



さて、どんな話が聞けるか・・・・・だな?
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