【番外編】異世界に来たからといってヒロインとは限らない

あろまりん

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ローザリア公爵家の確執【全4話】

2話

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「エリザベス、ルシアンナとメイリィを止めたと言うのは本当か?」

「ええ、本当ですわ。何かおかしな点がありまして?」


カチン、と優雅にティーソーサーにカップを戻す娘。
その仕草は見ていたくなるほどに優雅。


「なぜ、お前が彼女達を止めるのだ?」

「なぜ、とおかしな事を言いますのね、お父様?ルシアンナ様もメイリィ様もいてくださらなくては困りますわ?
わたくしはまだ12歳ですのよ?この先夜会があったとしても、公爵家の女主人として夜会に出る訳には参りませんもの。
その点、ルシアンナ様はお母様が臥せっていらした時にも代わりを務めて下さいましたし、メイリィ様に至ってはお腹に子供がいますのよ?安静にして頂かなくては」

「それはそうだが・・・」

「屋敷の事はわたくしが見ていますからどうとでもなりますけれど、さすがにお父様のパートナーにはなれませんわ」


はっきりと話すエリザベス。ルシアンナやメイリィと交流があるというのか?これまではメルティーナが彼女達の世話をしていたと思うが。

すると、家令のアルベルトが口を挟む。


「僭越ながら旦那様、お嬢様は奥方様が臥せっている時より、愛人のご婦人方の身の回りのお世話を采配していらっしゃいます」

「な・・・?」


エリザベスを見ると、当たり前のように微笑む。


「公爵家の娘として当然ではなくて?お母様が臥せっておられて手が回らないのであれば、長女である私が邸内の事を采配するのは当然の事ですわ?
ジルお兄様や、アランお兄様はそういった所に気が回らないようですし」


殿方というのは幾つになっても同じですのね、と呆れたように呟く娘。その姿が亡き妻と重なる。


「既にお屋敷の使用人はすべて、エリザベスお嬢様を女主人としております。そのお嬢様が必要だ、と仰られる愛人の方々に良くするのは当たり前のことかと」

「ルシアンナ様も、メイリィ様も、お母様が亡くなられてからちゃんと私にご挨拶に来てくださったのよ?そんな方達を追い出すだなんて、ローザリア公爵家の名が泣きますわ。お母様も生きていらしたらそうしたはずですわ」


エリザベスは立ち上がり、私の前に立った。
見上げるピンクトルマリンの瞳に、親愛の色。


「お父様、私が他家に輿入れする迄の間、きちんと邸の女主人としての役目は果たします。それはお母様にもお約束いたしましたの。けれど外の集まりには私は出られません。ですから、ルシアンナ様、オーレリア伯爵夫人にお願いしてくださいませ」

「ああ、わかった。すまないな、エリザベス」

「いいえ。それとメイリィ様は身重ですの。たまに顔を見せて差し上げて?家名を名乗ることはなくとも、お父様の子であることには違いないのですから」


よくできた娘であったが、エリザベスもナキアの事には一切触れようとしなかった。私もそれでいいと思い、口にする事はなかった。
───それがこんな結末となろうとは。



     * * *



「エリザベス、私は彼女を正妻に迎えようと思う」

「・・・ご冗談でしょう?お父様?」

「いや、本気だ。既にキルスナー伯爵に頼み、養女としてもらった。伯爵令嬢としてならば、後妻として迎える事もできる」

「私が言っているのはそういうことではありませんわ」

「すみません、お嬢様!私が旦那様を愛してしまったのです!」


パチリ、と扇を閉じる音。
ここで初めてエリザベスは、ナキアに目を向けた。
その目は冷ややかにして、目障りな物を見る瞳。


「───貴方、黙っていらして?わたくしは貴方に発言を許した覚えはなくてよ」

「も、申し訳ございません!」


ナキアは震え上がり、下を向く。
私はそんなナキアを庇ってやりたいが、娘はそれを許さないだろう。


「───お父様、もう一度伺いますわ?
誰を、どこの正妻に迎えたいのですって?」

「ナキアを、私の正妻に迎えたい」

「本気で、そんな世迷言を口にしてらっしゃるのね?」

「ああ、本気だ」

「そうですの。それで周りの方々からは何と?」

「・・・周りの人の意見は関係ない」

「皆様、お止めになった事でしょうね。アルベルト?貴方、お父様の近くにいながら、どうして諌めませんでしたの?」

「申し訳ございません、お嬢様。私の不徳の致す所でございます」
「アルベルトは関係なかろう」

「関係ない、ですって?アルベルトはお父様のお父様、先代のローザリア公爵からの家令でしてよ?それをよくもそんな言い方ができたものですわね!」

「娘といえど、それ以上は許さんぞエリザベス」

「娘だから申し上げているのですわ!お母様亡き今、お父様にこうしてご忠告申し上げる人が他にいますの!?」


シン、と静まり返る室内。
確かに、アルベルトを除けば、私に意見できる者はこの屋敷にエリザベスしかいないだろう。
息子であるジルとアランは今、ローザリア公爵家の領地にいて仕事をしている。この王都の本家にいるのは、私とエリザベスだけなのだから。

永遠にも続くような静寂の中、パチン、パチンとエリザベスが扇を開いたり閉じたりする音だけが響く。
ナキアは青い顔をして立ち竦んでいるだけ。エリザベスの剣幕に怯えきっていた。


「───考え直す気はありませんのね、お父様」

「ああ。随分長いこと考えてきた。私はナキアを愛している」
「旦那様・・・」

「───わかりましたわ」

「エリザベス!」

「ただし、条件がございます。それを飲めないのであれば、私は全力で婚家に嫁いだ後もこのローザリア公爵家を潰しにかかります」

「どういう事だ?」
「エ、エリザベス様?」

「まずひとつ。公爵家の後継者はジルお兄様である事。例えこの先そこの方に子供が産まれたとしても、ローザリア公爵家の家名を名乗ることは許しませんわ」

「・・・わかった」

「ルシアンナ様の子も、メイリィ様の子も名乗らせる事のないローザリア公爵家の名を、そちらの方の子に名乗らせる訳には参りませんもの。
それとふたつめ、この本邸の女主人の座は、私が守ります。私が嫁いだ後は、ジルお兄様の奥様に譲ります。異論はありませんわね?」

「わかった。それも、飲もう」
「だ、旦那様?」

「そしてみっつめ。今後速やかにジルお兄様へ家督をお譲りくださいませ。当主の座を降りたお父様ならば、そちらの方を娶るに相応しいと思いますし」

「それは・・・」

「私、そちらの方に『公爵夫人』を名乗る程の器量があるとは思いませんの。だって、そちらの方、これまで一度も私に会いに来た事もありませんのよ?愛人であれば、一度くらいは、邸の女主人たる娘の私に顔を見せに挨拶に来るのは当然ではありませんの?」

「え、私、そんな事知らなくて、あの」

「こんな貴族の作法も知らない方に、ローザリア公爵家の名を名乗って頂きたくありませんわ」


目を合わせる事無く、ナキアを否定するエリザベス。
エリザベスにしてみれば、ナキアがメルティーナの死を早めたと思うのは当然のこと。ナキアを迎えてからのメルティーナは精神を病んでしまっていたのだから。

つい、とエリザベスはナキアに向かって扇を向けた。


「ナキア様、でしたかしら?私、貴方に望むことは何一つありませんの。貴方がすべき事はただ一つです。『男』のお父様を迎え、で喜ばせてあげてくだされば、それで充分。
公爵家の事は全て私と、ジルお兄様の奥様とでしますから、貴方は何もしないでいてくださる?」

「な、そんな!」

「それとも『公爵夫人』として社交界で認められたいのかしら?・・・そうですわね、一度夜会へ出てみれば如何?貴方がどういう歓迎を受けるのか、私には手に取るようにわかりますけれど、私は貴方のフォローは致しませんし、味方にもなりませんわ。
貴方も覚悟をしてお父様の正妻になる事を承知したのでしょう?」

「わ、私、絶対皆さんに認められるように頑張ります!ですから、私と旦那様の仲を認めてください、お願いします!」


ナキアが大きな声でエリザベスへ許しを乞う。
そんなナキアの姿を愛しく思うが、エリザベスは冷ややかに見下ろすだけだった。

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