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森の人編 ~エルフの郷~
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しおりを挟むその後も一通り、エルフ2人と獅子王の話は続く。人数がある程度揃った事で、魔獣討伐については明日から始める事になった。
エルフ達はそれぞれパーティを組む。
獅子王はイヴァルさんと。後はその旅の音楽家さんに話をしてみて、行けそうなら3人パーティを組むという。
私はお留守番。
一応回復薬…おっと違う、回復役として集落に常駐して欲しいとの事だ。万が一の時は、集落全体に護りの結界を張るとの事で、その時はお手伝い頂きたいと。
もちろん集落に残り結界を張るのは、族長のディードさん。
「私は各部隊の報告を受けたり、指示をする必要がありますからね。戦えないエルフの女達にお願いして、戦士達の食事なんかを作ってもらわないといけませんし」
「なるほど、それなら私も少しくらいお手伝いできそうですね」
「いざという時は呼ぶからな、エンジュ」
「ええ、わかったわ。その時は守ってくれるんでしょう?」
「怪我させたらお前の所の執事に殺されるな」
あっ、えーっと、それはどうでしょう。
『大丈夫』とは言えない。だってどこから来てどう攻撃するのかわからないし。方法は知らないが、付いてきているオリアナは定期報告をするはずだし。
イヴァルさんは私達の泊まる場所を見に行ってくれた。
ディードさんはエルフの戦士達に、明日からの討伐作戦を話してきます、とで出ていった。
残されたのは、私と獅子王。
「心配だな」
「え?」
「お前だよ、エンジュ。明日から俺は外に討伐に出る。
お前をこのエルフの郷に置いていくが、イヴァル達以外の他のエルフも好意的とは限らねえしな」
「それは・・・まあ、そうでしょうけど」
でも族長と族長の血筋の人の知り合いに、表立って向かってくる人もいないと思う…いや、いないよな…?
でもよくある娯楽小説だと、敵意をむき出しにしてくる人がいてこその盛り上がりだったりするよなあ…
「なんだよ、心当たりあんのか?」
「あるわけないでしょう?・・・でも、アルマの言う通りだとは思うわ。イヴァルさんやディードさんはよくしてくれるけど、他の人達が同じように好意的に接してくれるとは限らないものね」
「ま、物理的になんかありゃ、お前の護衛が何とかするだろうがよ」
「・・・気付いてた?」
「まあな。『オリアナ・ノールズ』だったか?付いてきてんだろ?」
真上を見上げ、どことはなしに声を上げた。
すると、私の後ろにすっと現れるオリアナ。いつものメイド服ではなく、冒険者らしい皮鎧に碧と白の服装。Tシャツみたいな上衣にミニスカ…ありがとうございます…
「お気づきでしたか。さすがは獅子王殿」
「イヴァルも気付いてただろうよ」
「森の賢者殿も顔見知りですので」
「いざという時は護れよ。俺が言わなくてもそうするだろうがよ」
「もちろんです。奥の手もありますので」
その奥の手はまず間違いなく『セバス召喚』では?
「ああそういえば、昨日ギルマスさんに何か頼まれていなかった?」
「んあ?ああ、まあな」
「そちらの依頼を優先しなくて良かったの?」
「その依頼もここからなんだがよ。・・・どうもあんまり乗り気じゃなくてな」
「あら・・・珍しい。アルマなら指名依頼じゃないの?」
「いや、指名って程じゃねえよ。俺の他にも数名話がいってる・・・はずだ」
「魔獣討伐の参加をお願いされたの?」
「いや、『種付け』だ」
「・・・ハイ?」
「だから、『種付け』だよ、『種付け』。
分かりやすく言えば、エルフの女を抱いて子種を仕込んでやれ、って依頼だ」
は…?
はあああああ!?
まさかの!?『種付け』ってそっちの!?
あまりの破廉恥加減に思考停止していれば、イヴァルさんが戻ってきた。私を見て、獅子王へどうしたのか聞いている。
話を聞いたイヴァルさんは、ああなるほど、とこちらを向いた。
「あまり人間の間ではこんな依頼もありませんよね。昔はたまに、子供が出来ない村から要請があったものですよ」
「そっ、そうなんですか!?」
「ええ、災害や魔獣被害で、男手を失った村などから。女は生き残っていても、女だけでは子供を産めませんからね。どこの誰の子種でも構わないから、種付けしてほしいと」
「俺も何度かあるがな。・・・まあ、割り切った冒険者達でも腰が引ける依頼だよ。要請してくる奴等にしてみたら、それこそ死活問題だったりするからな」
まあ…そうかもしれない。
この世界では、『死』というものが身近だ。
自分の身を守れないならば、命を落とす危険が多い。
私のように、夜一人歩きをしても命の危険なんてまるでないような世界に住んでいたという訳では無いのだ。
村レベルの規模だと、隣の村が歩いて数日だとかは珍しくもない。それこそイヴァルさんが言ったように、自然災害や魔獣被害などで男手が失われてしまうこともあるだろう。
それでも残っていればいい、残っていなければ?残されたのが女だけならば?…子を産み、増やしていくならばどうしても『男』は必要だ。
エルフも例外ではない。この郷では男性エルフがいない訳では無いが、あまり同種族間だけで子作りをしていくと、不妊であったり、血の濃さから問題が起きる。
だからこそ、異種族間交配をしている…と聞いたばかりだ。
だからこそ『獅子王』か。
確かに『1度寝た女とは寝ない』とか『女殺し』とか言われちゃうくらいだし、こういう依頼にはもってこい…
「頑張ってねアルマ」
「おい・・・そこで言う言葉がそれかよ」
「だってそれ以外に何を言えば・・・?」
「お前以外に抱きたい女なんていねえよ」
「えっでも、毎日はちょっと」
「だから俺をなんだと思ってんだよ」
確かに、獅子王は魅力的だ。
再会してなお、彼に惹き付けられるものはある。
…シオンにあれだけ口説かれて何を言っているのかと思うだろうが、『エンジュ』として惹かれているのは獅子王なのだ。大人の自分…として求めている何かがあるのかもしれないが。
随分都合のいい事をしているな、と自分で自分を嫌悪する。
私の気持ちはいったいどこにあるんだろうか。
「ま、この依頼は『気が向いたら』って事にしているからな、本当に受けるかどうかは討伐の後だな」
「それで構いませんよ、先程郷の中を見たら、他にもパーティがひとつ来ていました。彼等も同じ依頼を受けて来た冒険者のようでしたからね」
「ほお?どいつだ」
「『青の均衡』ですよ」
「アイツらか。・・・パーティ内に女がいなかったか?揉めたりしねえだろうな」
ん?『青の均衡』って、前にキャズを口説きに来ていた青髪くんのチームでは?
あのいけすかない男の魔術師も確かそうじゃなかったっけ?
…あれから、彼の魔法の腕は上がったのかしら?
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