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森の人編 ~魔渦乱舞~
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採れてしまった花だが、とっても瑞々しい。元に戻したらまたくっ付いたりは…しませんよね、さすがに。もう何でもありかなって思ってしまった。
「あっはっは、面白い事を考えるねレディ」
「いやもう何でもありかと・・・
そういえば、アーリィさんというんですね、お名前」
「ああ、そういえば言ってなかったかね?私はアーリィ、あそこにいるのが妹達で、レナスとシルメリア」
「・・・」
「どうかしたかい?」
「いえ、ベツニ。もしかして御三方とも、剣と弓の両刀使いだったりします?」
「おや、よくわかったね。討伐の手が足りなかったら私らも参戦しようかと思っていたよ」
いました、三姉妹。本物の戦乙女ではないでしょうが、名前が似通っているのはなぜでしょうね?
郷の周りを蛇が囲んでいるせいで、前線に食事を届けるのも至難の業だ。それでも運ばないという事は無い。ある程度は蓄えがあるだろうが、やはり温かいものを食べたいだろう。
シチューやパン、それに燻製肉を用意する。
今回も選抜された女性陣がお出かけ。それと入れ替わりに、前に出発した人達が戻ってきてもいいのだが、さすがに突破するのに難儀している様子。
私?近くには寄りません。
だってアナコンダ近くで見たいと思う?結界の外側這ってるのだって嫌なのに。よくまあ皆平気な顔してるわよね、ホント。
ふと、郷の出入口近くが騒がしくなった。
さっきの女性陣が出たのかな?と思って、そちらを見ていると、見慣れた顔が戻ってきた。
「・・・ステュー?」
「ああいた、大丈夫?」
「ええ、私はね。そっちこそどうしたの?離れていいの」
「彼女達を郷に戻さないといけなかったしね」
くい、と指した方向を見れば、一昨日蛇達が押し寄せる前に出発した女性達が。なるほど、護衛してきてくれたわけか。さすがにあの蛇包囲網を突破するには厳しいわよね。
ステューは興味深そうに燻製肉を見ている。
おばちゃんエルフ達が頬を染めながら、試食を薦めていた。やっぱりときめきって大切よね、うん。
「・・・美味しいねこれ。向こうでもウケそう。戦ってる間のオヤツになるね」
「そんな余裕あるの?」
「というよりも、食べてる時間が惜しいかな。だから腹持ちのいいものとか、簡単に食べられるものが助かる。・・・もちろん、温かいシチューは休憩のご馳走だけどね?」
「そんなに、キツいのね」
「うーん、というより装甲が硬いかな。獣種なんだけど、毛皮の耐久度が高い。僕や獅子王サン、あの冒険者君はさほど問題にしてないけど、エルフがね。元々そんなに膂力ないしさ」
僕らはスキルで何とかなるけどさ、とステュー。
そうか、もしかして斬属性とか殴属性が有効?刺属性とか突属性は効かないのかな。そうなると、メインウェポンが弓や槍のエルフにはちょっと荷が重いかも。斧槍持ってた人もいた気がするけど、少数だものね。
「それと、魔法防壁が強い」
「えっ?」
「多分、統率者がいると思う、球状の蛇の中に。獅子王サンや、賢者サンも同じ意見。
僕の瞳に見える魔力波も、禍々しい感じ。早めに潰して引きずり出したいんだけど、そこまで行くには獣種が邪魔」
「・・・エルフの魔術師の広範囲魔法でなんとかならないの?」
「多分いけると思う。これから僕が戻ってから総攻撃をかけるつもり。ただ、ひとつ心配があるんだ」
「何?」
ステューの瞳。魔力の流れ…光の粒子が見えると言っていた。
ディードさんに聞いたが、それは妖精眼という森の人に伝わる魔眼のひとつらしい。
これは珍しいスキルで、今はこの郷でも、族長のディードさん、イヴァルさん、あと数名らしい。どうやらリーファラウラさんにも微弱ながらそのスキルがあるそうだ。だからあんなに自信満々なのね。わかるわかる。
そのステューが『心配』。
フラグと言わずなんて言うんですか?
「あの球状の蛇、生半可な攻撃じゃ通らないと思うんだよね」
「・・・そのパターンですか、そうですか」
「えっ、何?」
「いえなんでもないのです」
「最悪、君の護衛に力を借りるかも」
「オリアナ?まあ本人がOKすればいいわよ」
「わかった、伝えとく。君の了解がないと話も通せないしね。もっと最悪は、君の出番だと思ってね」
「・・・エルフの魔術師が総出でできないことを私が出来ると思う?」
すると、ステューはまるで子供のように無邪気に笑う。
そんな顔にドキっとした。邪気のない笑顔、って心臓にヘビー級パンチよね。ヘビだけに。
すっと綺麗な指が私の向こうを指した。
「この精霊の森において、世界樹の枝から苗木を育てちゃう君にできない事ってあると思う?」
「あ、あるわよ?」
「へえ?一体何かな?」
意地悪そうに笑う翡翠の瞳。
さっきまでは天使のようだったのに、もう悪魔が降臨。
ホントに猫みたいなんだから、この気まぐれ王子!
「あの蛇間近で見ろって言われても無理よ!」
「あ、あはははは!確かに!グロいよね、小さいのならともかくあのサイズはキツいよ僕も」
やっぱりそうなのね、普通の顔してるエルフさん達のメンタルが凄いわ、慣れなのかしら?
「だからついイラッとして切り刻んじゃうんだけど」
「そ、そう・・・」
「さて、戻らないとね。少し先に出た子達も拾ってかないと」
なるほど、回収してくのね。ステュー1人ならきっと戻りはもっと早いのだろう。でも食料持ってるしね、あの子たち。
途中でオリアナの所にも寄っていくとの事。
…オリアナって、爬虫類大丈夫なのかしら?
********************
「おう、戻ったか音楽家」
「往復もそこそこ疲れるね。はいこれ、お土産の燻製肉。結構イケるよ」
「すまねえな、ん、・・・意外と美味いな」
「ふむふむ、これがそうですか。日持ちもしそうですし、助かりますね」
「それと、彼女も」
「あまり気は進まないのですが」
「お前も来たか、碧の死蝶」
「我が主の許しがありましたので。ですがあちらが危険なようならすぐに離れます。申し訳ありませんが」
「構わねえよ、お前の本来の仕事だろ。全うしろ」
「そのつもりです」
「まあまあ。ですが貴方が来てくれたことでかなり勝率が上がります。索敵に気を遣わなくとも済みますから」
「確かにな。獣共を蹴散らすのはエルフの魔術師に任せるが、そのあとのアレを突破するには、イヴァルとディードの2人に集中してもらう必要があるからな」
二陣に行っていたディードも一陣へ呼んだ。
さすがに統率者がいるだろう球状の蛇は、他の者よりも威圧感を感じる。
恐らく物理攻撃だけでは無理だ。同時に魔力を纏わせて攻撃する事でダメージが通る、と思う。
魔眼持ちの音楽家も同意見だ。
共に偵察に出た碧の死蝶の見立ても、そう変わらない意見。
「やっぱりお前もか」
「他にどなたが?・・・ああ、先程のカーティス侯爵ですか」
「ん?あいつ、侯爵なのか」
「まだ正式に継いではいないようですが、次代の侯爵様ですね。魔眼持ちとは久しぶりでしょう」
「さすがに『情報持ち』だな」
「・・・このような場である事と、貴方だから漏らしたのですよ」
「借りが増えたな」
「いずれ支払っていただきますのであしからず」
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