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獣人族編 ~迷子の獣とお城の茶会~
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あれから数日、毎日獣さんに回復持続飴を与えるものの、一向に起きない。
トーニ君曰く、『回復はしてきているが、何分獣本体の自己治癒力頼みになる為に時間がかかるでしょう』とのことだ。
躾の為の魔法…それがこの獣さんの自己治癒力も低下させるほどに痛めつけたのだろうか。そんな魔法って意味があるの?
「どうですかねえ、魔獣を意のままにしようというのですから、それなりに有効だとは思いますが」
「でも、痛めつけて弱らせてたら意味がないのではない?」
「反撃をしてくる事が予想されるような獣であるなら、ある程度弱らせる事が必要だと思いますよ?エンジュ様。
そもそも魔獣を飼う、など魔物使いでなければ危ないのですから。魔物使いであれば、思念共有するようなスキルもあると言いますし」
「そうよね・・・」
「あっさり言葉を交わせるようになったエンジュ様も大概ですけどね」
「それは私にも予想外すぎたわ」
「まあ僕達にとっては『エンジュ様だし』ということで諦めも付きますけど」
「待って、何を諦めたの?」
何を今更、というように笑われる。
こっちも好きでトンデモ行動してる訳じゃないんです!結果?そういう事に?なってしまった?ということで。
全く起きない獣さんだが、当初よりはお腹のあたりが上下してるのが目視で確認できたりする。
ついついブラシなんて買ってきてみたり。そっとブラッシングしてます。おかげでふわふわ感を味わってます。早くハグしたい、モフりたい。
「・・・モフりたいわー」
「エンジュ様の熱意がすごいですよね」
「だってモフれる対象がいないんだもの」
「馬じゃダメですからね」
馬にモフれる場所なんてある?たてがみ?尻尾?
イヤよ一歩間違えたら馬キックされそうだもの。
大きなぬいぐるみで代用できる気もするが、目の前にあるモフモフには叶わない。ひとしきり撫で撫でしてから仕事。今はこれが毎日の日課である。
********************
そうこうしているうちにドレスが仕上がり、クレメンス邸にお呼ばれしてきた。ドレスは濃紺仕上げのワンピース風。キャロルさんお手製のご飯を味わって参りました。
スープはヴィシソワーズ。ジャガイモって比較的安値で手に入るし、下級貴族であったキャロルさんにとっては馴染みのある食材のようだ。
ソースはデミグラスソース。これもご家庭で少しアレンジがしてあるのだろう。私は一般人の為、ソースとケチャップ混ぜたやつとか好きなんですけど。家庭のハンバーグソースはこの味です。ソースはあれね、ブル○ッグです。
もちろんやりましたよ、タロットワーク別邸で。
混ぜ混ぜし始めた私にマートンドン引き。でもこれが美味しいんですう!と言い切ってハンバーグにドバー。今ではゼクスさんがこの味のトリコ。…この国きっての上級貴族のはずなのだが、こんなご家庭の味に染まっていいのだろうか。悩む。
とても和やかに食事してきました。
え?団長さんとシオン?いませんでした。
「あの方達はいなくとも」
「キャロルの手製の料理など勿体無い」
にっこりと微笑む2人の姿。
…いいのかこれで。団長さんには後から料理長が作ったものが振舞われたとか。
貴族の家で女主人自ら、当主に料理を振舞うものではないそうだ。…でもそれをやる為の私の投げかけだったのだが?どこで方向転換したのか。知ってます、アナスタシアです。
数度しか2人が揃っているところにはいないが、それでも丸わかり。キャロルさんて、ものすごくアナスタシアのこと好き。
これまでは遠慮があった仲のようだが、今ではその垣根が綺麗サッパリ取り払われ、仲良し。ラブラブ。アナスタシアもキャロルさんが可愛いのか、とても親身になっています。
…これは夫が置いて行かれている。口出ししちゃいけないわよね、これはクレメンス家の問題だものうん。
子供たち2人も、そんな母親達を見て嬉しそうでした。
おいとまする前に、執事さんより大きな箱のお土産。
団長さんが注文した私へのドレス。
お邸に戻って確認すると、それはもう『え?これ団長さんがおーだーしたの?本当に?(失礼)』と思うくらいのエレガントなドレスが入っていた。
上半身はすっきり、胸元は大きく開いてはいるがシフォンをあしらい清楚目に抑えつつ、腰から下は品よくレース模様を模したような柄の生地のスカート。所々キラキラと何やら石が縫い付けられているのだろうか、フレアスタイルに広がっている。Aラインに近いだろうか。
驚く私を尻目に、ライラがトルソーへドレスを着せる。
「素晴らしいですね、エンジュ様」
「・・・」
「エンジュ様?」
「どうしたエンジュ?気に入らなかったか?」
「いえ、そんなことないわ、凄く素敵。ただ・・・」
言い淀んだ私に対し、アナスタシアは笑う。
「そうだろう、フリードリヒからは想像付かないだろう?」
「そんなハッキリ言っちゃうのね!?」
口に出すのを迷った私だが、アナスタシアはあっさりと看破。そうよね、アナスタシアにしてみれば、こういったドレスを何枚も何十枚も贈られてきたのだろうし。
アナスタシアは立ち上がり、ドレスの前に立つ。
じっくりと眺めながら、私に笑いかけた。
「あの男はこういったことに驚く程目が利くんだ。こちらがデザインを頼んだ訳ではないんだが、しっくり来るものを寄越してくる」
「それ、昔から?」
「まあそうだな。最初のうちは私にはあまり合わないものを寄越していたんだが、1度突き返したら2度目からは良いものを寄越すようになった」
「えっ、なにその順応性、すごい」
「腐っても侯爵家の人間だということだな。元々の素養もあったんだろうが、あれを育てた教師も良かったのだろう」
侯爵家の教育、かあ。
いつもの感じだと忘れがちなのだけど、団長さんって立派に『侯爵様』なのよね。剣を振り回してる感が似合ってるからうっかりしがちなんだけど。
シオンの方がどことなく品がある所作をしているから、団長さんの所作か霞みがちになるけれど、粗野なようであって不快じゃないのよね、上手く言えないけど。
他の騎士さんを見ているとわかる。やはり幼少期から叩き込まれているものが如実に出てくるものなのだ。
…となるとですね、一般家庭で育った私はどう足掻いても付け焼き刃な訳ですよ。どうしようもないのよね。
そりゃ、ゴロっと寝転がってポテチぱくつきなからテレビ見てたような育ちですもん。
アナスタシアは団長さんに『観劇に行くからドレスを寄越せ』というなんとも男前なオーダーをしたらしい。
…それで『よしきた』とこんなドレスを寄越す団長さんも団長さんだと思うのだが?ちなみに製作料は『シオンが地団駄踏んで悔しがる様を想像できただけでいい』そうである。踏むか…?いい年した男が地団駄…?
と、セバスがもう一つトルソーを運んできた。
後ろからターニャが箱を持って来る。…ん?もしかしてもう1枚のドレスが出来上がったの?
「マダムより茶会用のドレスが出来上がったとの事です」
「せっかくですから、並べちゃいましょう!」
「は、早いわね・・・?」
「お針子が先程届けに参りました。なんでもマダムは不眠不休で作ったのだとか」
「そこまで!?」
「物作りにかけるマダムの熱意ですね」
明らかにオーバーワークだと思いますが。
好きなものに情熱かけすぎでは?休むって必要だと思うのよね。
茶会用のドレスは、白地に金の『どうだ!タロットワークだぞ!』と強調するかのようだ。
なんとか頼み込んだので、非常にシンプルにしてもらった。放っておいたら『それどこのセレブのウエディングドレス!?』となっただろう。
デザインはまんま、ウエディングドレスだ。
ドレスの生地はバストから。肩からデコルテ、袖はレースで作ってあるプリンセスラインのドレスとなった。…そこは譲ってもらえませんでした。
これ目立つんじゃないのかなあ…
やれやれ…
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