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獣人族編 〜失われた獣の歴史〜
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しおりを挟む『父上…!』
『息子よ…!』
的な再会を期待したのですが、
「ウオオオオオオン!!!」
「ガルルルルルルル!!!」
今目の前では、そこそこ大きな毛玉怪獣が2匹、取っ組み合いを繰り広げております。
「・・・これいつまで待てばいいのかしら」
「間に入るのは・・・まずいわよね」
「あっキャズ、その鞭でこうバチーンと」
「・・・さすがにもう少し発散させてからの方がいいんじゃない?」
「えっでもこれ、部屋壊れたりしない?」
********************
獣人連合の冒険者ギルドで、国家元首であるフェンイルさんの父親、オルドブラン・アルミラに面会許可を取ってもらった。
無論、タロットワークの名前を全面的に出す訳にはいかず、リリンゴートのギルドマスターの名前で取ってもらった。
内容は『行方知れずの息子について』。はっきり言って怪しすぎる申し出だと思うのだが、意外とあっさり許可が降りた。
もしかして父親として捜索願いでも出していたとか?と思って指定された場所…獣人連合の首都、ガルデリアへ向かう。
用意されたのは…馬車…、いや、竜車???
「・・・」
「何どうしたのよ」
「・・・馬車?いや、なに?」
「竜馬車よ」
「・・・ごめんなにそれ」
「まあ、あんたには見慣れないわよね。獣人連合では普通よ。
馬より早くて長距離に適してるの」
「お、お仲間・・・とかでは」
「ないわよ。こういう交配種なの」
キャズは驚かないな、と思ったが、彼女は何度か乗ったことがあるそうだ。獣人連合へ来たのは初めてだが、この【竜馬車】は別の所で乗ったことがあるらしい。
この【竜馬】は本当に竜種と馬の掛け合わせ。
竜といってもドラゴンじゃなくて、蜥蜴種の系統のようだ。
「レディはあまり好まれませんか?でしたらあちらでも可能ですが・・・」
あちら、と示されて見た厩舎には、どこかで見た事のある大型の鳥。
…いや待ていいのかそれは。
「・・・チョコボ?」
「ダチョワールです」
「はい?」
「あの鳥は、ダチョワールと言って、この国では荷馬車なんかを引くんです。【鳥馬車】と言われてますね」
鳥が引いても蜥蜴が引いても『馬』車って言うのね?
しかしこれ、感動だわー。幼き頃より画面の向こうで『クエッ』と鳴く彼(彼女?)を見ていたが、本物…に近いものに会えるとは。
「まああちらが1番早いんですが」
「ごめんなさい無理です」
『なっ!?何故だレディ!?私はノープロブレムだと言うのにっ!』
瞬時に却下した私の言葉に反応した生物の声。
つーかあれ喋れるのか。喋れなくても良かったのに。鬱陶しい。聞かないように見ないようにしているが、めっちゃうるさい。
私もね?だいぶ娯楽小説で耐性付いているとは思うわけ。だからこそこんな異世界に2回も来てても頑張っていられる訳よ、そうでしょ?
ああいうものにもお初ではないわけ。
最低限、耐性は付いていると思っていた、そう、さっきまでは。
ちらりと目をやると、ポージングしてバチーン☆とウインクを送ってくる半人半馬の生物。
はい、そうです。ケンタウロスさんです。
『私にかかれば、道中安全に!かつ!速く!』
「黙れこんちくしょう」
『あアッ!いいっ!その軽蔑する目線!堪らない!』
「もうやだもうやだもうやだ」
「あんたなんでアレと喋ってんのよ?」
「え」
「・・・さすがというかなんというか」
「待ってキャズ、もしかして聞こえ・・・てない?」
「難解すぎてわからないわよ、古語なんて」
読むだけならまだしも…と呆れた目を向けるキャズ。
マイガーーーー!!!
嘘でしょ、嘘だと言って!?
アイツの喋ってんの、古語なの!?日本語って事!?
えっ、やだやだじゃあアイツの『ハーイ、ボク〇ッチー王子だよ☆』みたいのを数十倍うっとおしくした喋り、私にしか聞こえてないの!?
ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙、と頭を抱えて蹲った目線の先、いつもの笑顔を浮かべたスライムが。
「・・・」
「どうしたのー?」
「うん、アレ、キミには聞こえてるよね」
「きこえるよー」
「・・・アレ、他の人にも聞こえるようには」
「うーん?えっとね、きゃずにならできるよー」
「頼んだ」
おっけー!とぴょんぴょん跳ねてキャズの足元へ行くスライム。
足元でプルプルプル、と震え始めた。
何あれ、電波受信中?ちょっと上に伸びつつ、プルップルしているスライム。キャズは気付いてないが、突然ビクン!と震えた。
お?聞こえたのか?
ちなみに?アレはまだなんか喋ってます。
キャズは顔色を悪くし、キョロキョロと辺りを見回す。
その目がぴたり、とケンタウロスで止まって見つめ合う。
あ、ケンタウロスがウインクした。ロックオンしたなアレ。
ぐるん!と私の方を向くと、物凄い勢いで寄ってきた。
「あ、あ、あ、あれ!あんたでしょ!」
「同じ目に合えばいい」
「ななな、何したのよ!何よアレ!気持ち悪い!ケンタウロスってあんな事喋ってんの!?」
「それが現実よキャズちゃん」
「な、なっ、なんでよ!なんで聞こえるように・・・っ、はっ!?」
バッ!と足元を見るキャズ。
そこにはぷるぷるりん、とスライム。やっぱり笑顔。
全てを悟ったキャズ。能面のような顔で私をゆっくり見た。
「・・・知らなくてもいい事って、世の中にたくさんあるわね」
「そうね」
「アレは最たる物だと思うんだけど」
「・・・アレね」
「絶対借りないでよ」
「ヤバいすっごいこっち見てるアイツ」
ギギギギギ、と壊れた人形のようにキャズが後ろを振り向く。
ケンタウロス、ポージングを決めてキャズをロックオン。
…うん、多分、あれのせいかな?
「すごいこっち見てるじゃないアイツ」
「多分、キャズを気に入ってる」
「なっ、なっ、なんで私なのよ!」
「・・・アイツの性癖から多分、ソレ」
「はァ!?」
恐らく、ヤツはMだ。
それもドMというやつだ、間違いない。
私に聞こえてる内容と、キャズに聞こえているアイツの言葉に相違が無ければ、だが。
これ同じ内容聞こえてるのよね?わからないけど。
『さあっ、頼むよハニー!その素晴らしい道具で私に喝を入れてくれたまえ!君という最高のパートナーに会えて私は運がいい!』
私はキャズの腰に吊られている鞭を指さす。
どう考えても奴の好きな物は、これだ。
後ろにいたオリアナが、そっと私に耳打ち。
「あの半人半馬族ですが、鑑定の能力があるようですね」
「魔法が使えるってことかしら?」
「いえ、ケンタウロスの中には元から特技として使用出来る個体がいます。その為、馬車を引く生物としては最高ランクです。
何しろ、人の言葉を理解し、危険を察知して避ける事ができますので」
あー、なるほど?
鑑定しつつ、危険回避してくれるのか。
あの個性溢れすぎる言語をこちらが理解しなくとも、アイツの方で理解して進んでくれると。
馬や竜馬、ダチョワールと馬車を引く生物はいくつかいるが、安全性(?)、速度からいくと半人半霊馬族が最高位だそうだ。…色んな事に目をつぶれば、だが。
「ただし、半人半馬族が乗り手を気に入らなければいけませんので、そこまで数は多くありません」
「あー・・・癖あるものね、アイツ」
「半人半馬族は走る事が好きですから、ああして馬車を引いてくれる個体も多くいます。
ですので今回キャズ様を気に入っていただけた事は好機ですね」
「どこがよ!どこがなのよ!」
「通常、半人半馬族を借りようとすると、とても難しいですし、それなりに手間賃も必要です」
「高いの?」
「他の生物の数十倍はしますね。ですが魔物が出たとしても半人半馬族は自分で排除しますし、道中の護衛等も必要ありません。ですので重宝されるんです」
『安心したまえ!レディ達を運ぶのに見返りはいらないさ!
時にそちらのハニー!君が私にその素晴らしい道具で愛をぶつけてくれたらさらにいい!!!』
「愛ってなんだよ」
『その素晴らしい道具で私を打ってくれたまえ!』
「やっぱり」
「嫌ァァァァァ」
『レディでもいいが、レディからはその軽蔑しきった眼差しと言葉だけで十分さ!』
「アカン真性のドM」
「こ、断ってよ!断りなさいよ!」
「いや無理だよこれ付いてくる気だもんアイツ」
だってすごいロックオンしてるもんアイツ。
馬車の貸し手も驚いたように、キラキラした目でこっち見てるし。
何?『ケンタウロスと話してる!』って事?そんなに嬉しいかこれ。
私とキャズがゴネてる間、さっさとオリアナが賃貸契約を結んでいました。
…スライムはオリアナにも言葉がわかるようにした様子。
キャズ、壊れないといいなあ。アハハ。
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