異世界に再び来たら、ヒロイン…かもしれない?

あろまりん

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獣人族編~時代の風~

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「・・・どうして『想定外!』って顔して見ているんですか?エンジュ様?」

「えっ、想定外でした」

「・・・(あんたね)」

「(いやいやホントに)」



嫌だわご冗談ばっかりうふふ、とばかりの笑顔を向けるキャズ。
ちゃんとよそ様向けにニコニコ笑顔で対応しているが、目が怒ってる。

いやだって『おとどけものでーす』感覚で送って来ただけで、私別にフェンイルさんのパトロンしに来たわけじゃないし。



「はっはっは。またご冗談も上手いですね。流石はレディの護衛です」

「まあそのような。光栄ですわ」

「とはいえ、他国ではそう取られる事もあるでしょうが、獣人連合アル・ミラジェではないでしょう。
この国では『魔術の頂点タロットワークの手出しは不文律』と暗黙の了解がありますからな」

「そう、なのですか?」

「おや、レディはまだご存知ではなかったか。
ですかもう1人の護衛ならばご存知でしょう」

「はい、心得ております」



そこにはいつの間にか来たのかオリアナが。
キャズもオリアナが来たことですっと一歩下がった。
ちなみに座ってるのは私だけで、キャズは横に立ちっぱなしでした。

向かいではオルドブラン閣下もフェンイルさんも座ってましたけどね。

オリアナはオルドブラン閣下に軽く礼をすると、私にすっとメモを手渡した。
私は手元で開き、さっと目を通す。
そこには、この国にいるのだろうタロットワークの血族からの簡潔な手紙だった。



「・・・そうであった、フェンイル。そなたレディに渡すものがある、のではなかったか?」

「は?」

「おお、そうそう。茶の用意を申し付けるのを忘れていました。
少々席を外させていただきますがよろしいかな?レディ」

「・・・ご配慮、感謝します」

「いやいやこちらの不調法ゆえ。
行くぞ、フェンイル。そなたも忘れ物を取りに行ってこい」

「いや俺は・・・っと。そうか忘れていたすまないレディ、席を外させていただく」



さらっとスマートに出ていこうとするオルドブラン閣下に比べ、若干棒読みのフェンイルさん。…気遣いは嬉しいのだけど、もう少し演技を磨かないといけないかしら。

パタン、と扉が閉まり、部屋の中には私、キャズ、オリアナ。



「さて、オリアナ?こちらの手紙は」

「遅れまして申し訳ございません、エンジュ様。
繋ぎを取るのに手間取りました。こちらは獣人連合アル・ミラジェが連合国家になる前よりこの地域に根を下ろした、タロットワークの血族達からの手紙です」

「そんなに前から?タロットワークってホントにどこにでもいるわね」

「そもそも初代が放浪していた所以ですね。
この土地へ本家が来る事も稀でありますので、あちらは好意的でした。簡単にここ数年の情勢をまとめて下さいましたが、いかがでしょうか」

「・・・少し補足してちょうだい。保守派の動きは?」

「今のところ、動きはないようですね。フェンイル・アルミラを国外へ出した事で、革新派からはかなりの追撃を受けた様子です。
オルドブラン元首も睨みを効かせていたようですし。
フェンイル・アルミラが戻った事で今後動くかもしれませんが、エンジュ様がこの国にいる間は動けないでしょう。こちらのタロットワークを敵に回す気はないようです」



完璧にフェンイルさんの庇護者、として見られている訳では無いようだが、私がいる事で牽制にはなっているようだった。

『何か起きる』となると多分流血沙汰?さすがに他国の貴族…魔術の頂点タロットワークの一族がいる状態では止めておこう、という事か。

オリアナによれば、この国に住むタロットワークの血族達は、魔法である程度気候を安定させているようだ。
この地域一帯はあまり生きるに適した土地ではないようで、魔法の力である程度均衡を保っているとの事。



「そんな魔法使って平気なの?」

「エンジュ様、こういった魔法に何か思い当たる事はございませんか?」

「え?私?」

「はい」

「・・・魔法、なのよね?」



そんな魔法に心当たり…ないですけど。
でも何か引っかかっている事はある、喉元に引っかかっていて出てこない、言葉にならない何か。

むしろそんな大掛かりな魔法…気候変動させるような魔法使って、ぶり返さないのかと心配な方なのだけど。

…、ぶり返す?



「・・・バタフライエフェクト」

「それがどのような事かわかりかねますが、エンジュ様が来られた時に、ゼクスレン様よりお話はありませんでしたでしょうか」

「っ、あ、あーーー?
もしかして、『精霊の祝福』ってやつ?」



ああ、そうか!
何か引っかかっていると思ったら。

私が初めてアースランドこちらへ来た時に説明されたやつ。
存在しているだけで、微力であるが精霊の祝福がある、と。

そうか、私だけでなくて伯父さん…『ネイサム・タロットワーク』もそうであったなら。
そしてそれを解析していたとしたら。
マデイン・タロットワーク始祖であれば、可能だったかもしれない。

大きな力を使った時の反動の事もわかっていたはずだ。
人は自然に対して無力である。人為的にせき止める事をすれば、それは何倍、何十倍にもなって返ってくる。それは魔法であったとしても、この世界で合っても同じ事だろう。
だからこそ、微力な効果を発揮する…この世界の人でも効力を得ることのできる魔法。範囲を限定化させ、血を引く血族であれば使用は可能だった…としたら。



「・・・そりゃあ、特別視されるはずね。
私なんかよりとんでもなく規格外じゃないの」

「何を他人事にしてるのかしらこの子」
「自覚がないのがエンジュ様ですから」

「えっ何、何か言った」

「「いえ何も」」



今なんかディスられたと思うんですが。
こういう時だけすごく息がピッタリ合うのよね。訓練してるの?タロットワークの影の教練にあるの??キャズも参加しているの???

獣が生きられる範囲と、人間が生きられる範囲は違う。
『獣種』では平気であっても『獣人種』では不都合がある地域もあるだろう。

そしてこの国は、今他国に並び立とうとして、『強さ』だけでなく『知識』を得ようとしている。
変わろうとしているのだ。内側から。
…けれど、それを良しとしない人達もいる。



「国の転換期、なのでしょうね」

「過去、幾度も同じような事があったのかと推察します。
ですが、今回のように条件が揃わなかったのでしょう」
「国家としてだけじゃなくて、ギルド方面からも変化は見えるわ。獣人族の冒険者も年々見かける数は増えているし」

「国のトップの方針、国民の意欲、時代の流れ。
様々な要因が重なり合っている結果が、『』なのね」

「「その様です」」



キャズの意見も、オリアナの意見も同じ方向を向いている。

キャズは『タロットワークの騎士』としてだけでなく『王都ギルドの職員』としてもこの国の変化を感じ取っている。
敢えて聞いたわけではないが、おそらくギルドマスターの指示も受けて来ているはずだ。それは彼女の仕事だし、悪いとは思わない。

むしろモフモフさんが増えるのはいい事です。
うさ耳の僧侶クレリックさんとか?犬耳の剣士さんとか!
モフモフパーティとかいいじゃない!これぞ異世界!



「あんたまた何か余計な事考えてないでしょうね」

「モフモフ最高!とか?」

「・・・さっきまで尊敬できる主って感じだったのにどこからそうなっちゃったのよ。お願いだから尊敬させたままでいさせてよ頼むから!」
「キャズ様、受け止める事こそタロットワークの影です」

「無理よ私この子のツッコミせずにはいられないもの!」



ああ、うん、キャズには無理だね。だってツッコミ体質だし。
このままずっとそのままでいてください。
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