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獣人族編~時代の風~
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しおりを挟む「とっ、ともかく!
エドワード様とは繋ぎは取ったわ。ご本人からは『レディ自らの依頼とあらばどのような事でも喜んでお受け致しますよ』との事よ」
エッホン!と咳払いをして言うキャズ。
顔がまだ赤くていらっしゃる。意外とウブなのか。
うーむ、依頼をするのはいいのだけど…
それって『エドワード』としてなのか『サヴァン伯爵令息』としてなのか『サルドニクス商会会頭』としてなのか微妙よね。
一度招いて、顔を見て話さないといけないかもしれない。
黙った私に、オリアナが問いかける。
「探りますか?」
「・・・こちらへ呼びましょう。一度本音を聞きたいわ。
貴族として前王族に配慮して、なのか、サルドニクス商会会頭として商機と見ているのかによって違うから」
「承知いたしました。私が行きますか?それとも」
「・・・私が連絡役となりましょう。宜しいですか?エンジュ様」
「ええ、キャズに行ってもらうわ。明日の夜、こちらへいらして頂くように言ってくれる?」
「明日でいいの?」
「さすがに今日というのはね。今頃サルドニクス商会宛に、ガロン卿から要請が行っている訳だし、商会としてどうするのか作戦を練っている頃でしょう?
キャズがこれから私の用件を話せば、それも込みで明日何らかの答えを持ってくるでしょう」
「さすがね。じゃあ行ってくるわ」
クスッと笑って出ていくキャズ。
残されたオリアナに、私はそっと指示を。
オリアナもまた、『お任せくださいませ』と出ていった。
残るのは獣姿のフェルのみ。…子犬ちゃんとスライムは別室で昼寝中だ。
「・・・さすがというかなんというか。父の陣営も熟練の政治家ばかりだが、レディの周りも凄いな」
「そう?行き当たりばったりが多いわよ。そちらも大変ね、国の舵取りに、敵の選別、民のご機嫌取り」
「そう言われると頭が重いな」
「でも今日はそれはナシよ。さて、モフモフさん?黙って私にモフモフされてちょうだい」
「そうきたか。・・・わん」
手を広げて呼べば、モフっと飛びついてきた。
あー、これですよこれ。いいわよねモフモフ。無心になでなでしていたいわ。
暫し無言でモフモフしていると、フェルがもそもそ。
ソファに座っていた訳だが、のしっと乗っかってきたので押し倒される。
…と、いつの間にやら人型になっている。私の視界には、20代後半のイケメンが。真剣な銅色の瞳。
「・・・がっつかれる程、私欲求不満じゃないのだけど」
「だろうな。だが、こういう相手をするのも俺は嫌ではないくらいにはレディに好意はある」
「ええと、むしろ貴方が欲求不満、なのかしら?」
「・・・どうだかな」
もう少し私も若ければ、さっきも言ったが一晩くらいは…ゴニョゴニョ…ってなもんだが。
さすがにここでそうなろうとは思わない。むしろ、お相手は…
「意外とそういう経験が豊富、とお見受けするけれど、合っている?フェンイル」
「・・・まあ、そうだな」
「じゃあ悪いんだけど。キャズが誘ってその気になるようなら、お願いできない?」
「さっきの、か」
「ええ。本人が嫌であれば、そういう事を強要する訳ではないんだけど」
なんだろうか、さっきのキャズを見ていると『興味があるが、なんかプライドが邪魔して飛び込めない!』みたいな。
もしかしたらエドがその気にさせている、のかもしれないが。キャズも立派な女性だ。年齢的にも20歳前後。そういった事に興味があってもおかしくない歳頃である。
王都にいる時は、仕事仕事でそんなに機会が巡ってこなかったのかもしれないが、獣人連合はそこの所かなり開放的である。
男であれば娼館に通う事も勧めるが、女であるが故にそういう所へ行くのは抵抗があるだろう。私はある。オリアナはなさそうだが他で需要を満たしている。キャズはモヤモヤしてると思うんだよね。
「ちなみに?『女神の蜜壷』って、男が用を満たすだけなのかしら?
男女が行って満たされるような所もある?」
「ある、な」
「じゃあ追いかけてもらえないかしら?キャズが嫌がる様であれば、貴方が欲を満たしてくるといいわ。私で、となる前にね?」
「・・・承知した」
ニヤッと悪い顔で笑うフェンイルさん。
コドモじゃない大人の男、だものねえ?
馬車の中もそうだが、あんな話ばっかりしていて何も無いなんて枯れた事を言っているようでは、男が廃るってもんよ。
さっと離れた彼は、どこから調達したのか服を来て出ていった。
ちょっと危なかったかしら?なんて思いつつ、私は窓を開けて外を眺める。
…少しは息抜き、になるといいんだけどね。
…ただ、気にはなる。あの自制心の強いキャズが欲情に根負けするだろうか?本人しっかりしているし、そういう時は割り切って解消させると思うのだが。
「考えすぎ、なのかしら?」
********************
「・・・・・・との事よ」
「成程。・・・レディのお言葉、喜んでお受け致しましょう」
一瞬怖いくらい真剣な色をした瞳。
けれど次に私を見た時は、甘い琥珀色の瞳をしていた。
恋、とは違うけれど、ドクン、と体の奥から音がするようだ。
気を抜けば俯いてしまいたくなる衝動を堪え、笑む。
あの子の代わりとしてここにいるのだ、侮られるだなんて自分が許せなくなる。
「では、明日お待ちしています。サヴァン令息様」
「ああ。・・・で?もう用はなしなのか?キャズ嬢」
「えっ?ええ、でもあの方をおひとりにするのもできないから、もう戻るわ」
「忙しいな。少し茶でもしていかねえか?」
「嬉しいけど、止めておくわ。・・・ここ、落ち着かないし」
「ん?」
エドワード様は普通にしているけど、私はやっぱり少し戸惑う。
だってここ、そういう場所だもの。
経験がない訳では無い。獅子王様に抱かれてから、数人の人とそういう雰囲気になり、夜を過ごした事はある。
ただ、そういう事に溺れる事はできなくて、その時だけの関係。
私も女だ。たまに男の温もりが欲しいと思う夜もある。
かといって、周りの友人や職場の仲間のように、複数人での夜を過ごしたり、数日間溺れたり…なんていう事はした事がない。
「なんだなんだ、キャズ嬢らしくねえな?警戒してんのか?」
「なっ、だって、その、エドワード様も、・・・ですし」
「そうか、なるほどな?少し前から様子が変だと思えば。
俺としては喜ばしいとは思うが」
「なっ!何言うんですか!」
「だってそうだろ?キャズ嬢が俺を男として意識してくれているって事だ」
かあっ、と頬に朱が差す。
自分であえて言葉にしてこなかったのに、エドワード様に言われた。寄りによってエドワード様に!こんな事を思っていると思われたくなかった相手に!よりによって今!
「なっ、なっ、何を」
「わかったわかった、ちょっと落ち着け。
そんなキャズ嬢も可愛いな。・・・もっと虐めたくなるが、それは寝台の上でやりたいもんだ」
「っ、~~~!」
からかわれている、という事はわかる。
こんなやり取り、ギルド内でよく見ている。相手がエドワード様という訳ではないけど、こんな男女のやり取り、飽きる程見ていた。
その都度、私ならそんな弱みは見せないと思う反面、どこか羨ましいような変な気持ち。
ああ、どうしてしまったんだろう。
ここの所ずっとこんなモヤモヤしたままだ。エドワード様にだってこんな態度取りたくはないのに。
「・・・重症だな。あんま気は進────だが、仕方ねえか」
「──が、その先はこちらで────う」
「アンタは?・・・ああ、成程。よく見て──な。部屋は必要か?」
「良ければ、────貰えると助かる」
「いいぜ、────────、──な」
この声はエドワード様?相手は、誰?
********************
思っていたより、重症だった。
レディに言われて追いかけて来たが、こういうことだとは。
意に沿わない相手を甘やかす、のは奴隷であった時に散々してきたものだから、今更できないということも無い。
店に入り、レディの騎士の事を聞けば、奥の席で赤髪の男と話している所だった。近付けばまあ甘い会話を繰り広げている。邪魔をするのもなんだなと思い、側で待機していたら段々雲行きが怪しくなった。
…レディはこれを言っていたのか?と観察すると、どうもレディの騎士の様子がおかしい。
割って入り、相手の赤髪の男と話をしていると、くたりと力なくソファに沈んだ。
「・・・? キャズ嬢?」
「あん?なんかおかしいと思ってたんだが、・・・一服盛られでもしたのか?道理で潤んだ目で誘ってくると思ったが」
「・・・気づいていたのか?」
「まあ、な。こういう事がない訳でもねえしな。
友人の誼だ、嫌われもするかと思ったが、抜いてやろうかとも思ったんだが。
・・・それはアンタの役目なんだろ?」
「どうやらそういう事らしい。部屋を借りられるか?」
「構わねえよ。一番いい部屋を用意してやる。声が漏れないように、な?」
「・・・いい性格しているな、アンタ」
「ハハッ、よく言われるよ」
抱き上げて運べば、既にできあがっている様子だった。
寝台へ下ろせば、俺と認識しているのかいないのか、拙い仕草で誘ってくる。
こんな流れで相手をするのもなんだが、相手をしなければキャズ嬢がどんどん辛くなるだけ、だろう。
一度重なれば、二度、三度と求め合った。
こちらも久しぶりというのもあったが、キャズ嬢の体力もあったかもしれない。男の下で甘えるだけでなく、激しく上で強請る一面も。
…久しぶりに存分に『女』を味わった夜だった。
こんな夜も、悪くは無い。
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