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第五章【灰】
技術都市コクーン
しおりを挟む技術都市コクーン。
東大陸の南方。砂漠地帯と荒野の境目に位置する都市。
昔の城塞跡を利用して作られた都市で、いかにも物々しい雰囲気を持っている。
しかし、内部は『技術都市』というだけあって近代的な機械が街の至る所に溢れかえっている。
他の場所では手動汲み取り式の井戸でも、ここでは街の井戸は全て機械で汲み取りができるものだ。
ここに住まう人間は皆、何らかの技術職の人間ばかり。
「よっと、到着だ。すまないなスカルディオ、助かった」
「いや、構わないさ。いつも爺さんにゃ世話になってるしな」
「そうだよな!ったくあれほど武器を大切にしろと言っているのにお前ときたら」
「待て待て待て、説教はこの荷物を退けてからにしてくれ」
王都グロウケテルから馬車で丸7日。
世話になっている鍛治職人の爺さんに付き、技術都市コクーンへ護衛依頼をこなしてきた。
この技術都市コクーンは様々な鉱石や鍛冶素材を産出する山脈…鉱山が近くにあり、年に数度、こうして直接買い付けに来る。
その度、手が空いている時は爺さんに護衛として雇われるようになった。
途中、山賊やらに襲われないとも限らない。
移動が長い旅路は魔物よりも人間の方が厄介な場合も多い。
とはいえ、この都市に住まう技術者に至っては、冒険者よりもさらに冒険者らしい体格の持ち主が多い。…サイボーグか?というくらいに機械と一体化している奴もいる。生体科学というのだそうだが、義手や義足といった補助具を専門に扱っている者も多い。
それ故に、ここには手足を戦いや事故で失った者が救いを求めてやってくる場所でもあった。魔法で治らないものは、技術で補えといったように。
「爺さん、荷物はこれで全部か?」
「おう、おう、すまなんだな。いやー、老骨には辛い」
「何言ってやがるんだ、クソ重い槌を振り回してるくせに」
「おー、いてててて、足が痛いのお」
絶対痛くなんかないだろ、ずっと馬車も俺が運転してたし、爺さんは後ろで酒瓶片手にイビキをかいていたんだから。
丸七日、ずっと寝ていた訳じゃないが、ほとんど御者は俺だったろうが。
睨んでみたものの、堪える気配などない。
幾つになるのか知らないが、地の民の爺さんには長い事世話になっている。この癖のある武器の手入れも、この爺さんにしかできないのだから。
「さて、俺はギルドに到着報告してくるぜ」
「すまんかったな、スカルディオ。いい鉱石手に入ったらまた装備にひと手間加えてやるからのう」
「そっちは楽しみにしてるよ。爺さん、コクーンにどれくらいいるつもりだ?」
「そうさな、ひと月はいるつもりだ。お前も好きにして構わんぞ。お前がいなければそこらの冒険者を雇ってグロウケテルへ戻るからの」
「・・・ま、ギルドに行ってから決めるさ。仕事がありゃ残ってもいいしな」
急ぐ旅ではない。この所はほとんど王都に詰めていたから、コクーンに来るのも数年ぶりだ。これまでは一定期間ごとに都市を色々と回る生活をしていた。
…そう、あの小さな『魔女』に会うまでは。
■ □ ■
コクーンのギルドは、他の都市に比べると小さい。
技術者だらけのこの都市は、あまり冒険者が居着かないからだ。とはいえ依頼がないということも無い。技術者では仕留めきれない魔物もいる。
「おやまあ、スカルディオじゃないのさ」
「まだ生きてたか、ゴドフリー」
「アタシの名前はジャネットだと何度言わせるのかしらぁ?」
「わかったわかったジャネット」
『そう、それでいいのよ』とむふんと笑うゴドフリー。いや、ジャネット。どう見てもマッチョの中年だが、心は乙女だそうだ。深く関わり合いになると痛い目を見るが、頼りになるギルド受付ではある。
酔っ払って暴れる冒険者も、ジャネットにかかれば子供同然。
…コイツは元冒険者で、拳闘士だった。ギルドの人間となっても鍛錬はかかしていないだろうから、未だ現役に近いだろう。このゴリゴリな筋肉を見ればわかる。
「顔を出すのは3年ぶり?」
「ああ、そんなになるか?」
「マウントロックスを退治してもらって以来じゃないかしら?」
「そんな事もあったな。あれはいい儲けになった。・・・もう出ないのか?」
「最近またちょいちょい出てくるわね。ここらにいる冒険者には荷が重いから、アタシが出ようと思ってたところよ。
どう?一緒にブチのめさない?」
「取り分は?」
「5:5って言ってあげたいんだけどねえ。マウントロックスの魔石が入用なのよ」
「・・・なら7:3で手を売ってやる。その代わり、宿を融通してくれ。長期で泊まれる所がいい」
「OK、手を打つわ。『水飲み鳥の嘴亭』はどう?」
「あの飯の美味いところか。空いてるのか?」
「アタシが空けさせるわ、Ꮪランク冒険者を泊める栄誉と引き換えなら向こうも喜ぶでしょうよ」
バッチン、と大男のウインク。
…まあ、宿が見つかったのだから文句は言うまい。
長期で泊まることにはしたが、ギルドの仕事に寄っては短期でも構わないからな。飯が美味いのは助かる。
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