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第五章【灰】
鉱山の魔物退治
しおりを挟む「ジャネット、行ったぞ!」
「はあい、任しといてぇん!ウォラァ!!!」
ガツ、グシャ。
大男が繰り出すマッスルパンチによって、硬さが売りの魔物もいともたやすくひしゃげていく。…魔力で強化された拳なら、それも容易いか。
鉱山の魔物は、基本的に硬い。
ただ殴ったり、斬ったりしていても倒せない。下手すれば剣が刃こぼれをする。
これが、技術都市コクーンに冒険者が居着かない理由の一つでもある。コクーンの周辺は荒野と砂漠。そして鉱山だ。
出現する魔物は、鉱山にいる防御力の高いモンスター。
荒野で群れを成す獣達。そして砂漠地帯の蜥蜴や鳥類だ。
どれも一筋縄ではいかない魔物ばかり。そして単体ではなく、群れを作って出てくる。
…魔物からしても、この辺は生きにくい土地なのだろう。
「やっぱりスカルディオくらいになると違うわねえ!他の子達だと斬りつける事も出来やしないもの」
「魔力操作さえ出来ていれば、斬れない事もないと思うが。しかし耐久力が高い奴等が多いから、多勢に無勢となるだろうな。それなりに火力のあるパーティじゃないと」
「その点、アタシ達は段違いよね!」
・・・火力、という点ではお前一人で充分だろ。という言葉は飲み込む。さすがにここで口に出す事は愚かな行為だと知っている。
平手で魔物をすっ飛ばせる奴はそういないからな。
お目当てのマウントロックスは、デカい鼠のような魔物。
表皮が硬く、その上鉱石を身体に貼りつけて守る、という重装甲の魔物である。ただし、見返りもデカい。
キラキラするものを好むので、身体の周りにつける鉱石は、輝石の原石だったりもするからだ。しかも鉱石を主食とする為、体内に生成する魔石は一際高い価値がある。
宝飾品としては売れないが、素材としては価値がある。
だからこそ、このコクーン界隈で一番多く取引されるのが、マウントロックスというわけだ。だが狩りにくい魔物であるため、希少価値も高くなる。
「どんどんいらっしゃあ~い!」
「・・・マウントロックスが不憫になってきたな」
「あぁ~ら、言うじゃなぁ~い?・・・ッシャァァァ!!!」
話すときはシナを作るのだが、いかんせん戦いとなると本性が出る。しかしこいつは男だけが好きな訳ではなく、女も好きである。つまり、両刀。
だが、この外見で近づいてくる女はいない。
いるとするとかなりの変わり者か、ジャネットの中身で判断した強者だろう。
「・・・これで全部か?」
「そうみたいねえ。ちょっと待ってね、回収しちゃうから」
ジャネットが素材を回収していく。
ギルドからマジックバッグを持参してきていた。今回はこのマジックバッグがいっぱいになるまで、との事。
どれだけかき集めるのか、と思うが、何に使うのかを知れば納得もした。
「そろそろ外壁の補強時期なのよねえ」
「そうだったな、素材としてマウントロックスの魔石は都合がいいだろうな」
「そうなのよねえ、だから量が必要なんだけど、最近このあたりの冒険者はみんな砂漠地帯へ行ってて」
「あそこに、何かあったか?」
「ええ、見かけない大物がいるらしいわよ?砂嵐も弱くなっているみたいで、これまで行けなかった場所が探索できるからって、一攫千金狙った冒険者がね」
技術都市コクーンから、海岸地帯までは砂漠が広がる荒涼地帯。
もちろん、東大陸…今俺がいる大陸から、西大陸へ渡るための港町がある辺りへ出るには、コクーンからだと砂漠を越える必要がある。
もちろん、砂漠といっても途中にオアシスが数箇所点在している。そこを中継しつつ、海岸地帯へと抜けられるルートも確立され、その警備に当たる奴等も一定数存在する。
コクーンに常駐している冒険者は、多数がその砂漠越えの護衛任務を主に担当する奴等だ。その奴等が食いつく砂漠地帯の異変。
「あら?スカルディオも気になる?」
「・・・まあな。気にならないといえば嘘になる。これまでずっと砂嵐が酷くて抜けられない地域があったろう」
「ああ、かつて大きな国があったという辺りね。草木の一本も生えず、未だに魔力濃度が酷くて近寄れないという話よ。
それも、もしかしたら変化が見られるかもしれないわね、あの砂嵐が弱まれば、調査隊が出てもおかしくないもの」
「調査隊が出る話があるのか?」
「そうね、噂程度だけど」
「お前の噂はだいたい本当に起こる事だからな」
「うふふ、そうでないとギルドの受付嬢なんてやってられないわよん」
誰が嬢なんだ?
俺と話しながらも、せっせと魔石や外装の原石を拾うジャネット。ま、あそこから俺への報酬も出るんだが。
何故、俺が回収に参加しないかというと、周囲の警戒に当たるからだ。ジャネットより俺の方が索敵能力は高い。お互い納得の上での役割分担である。
その後もいくつかの群れを退治して戻る。
それなりの収穫を得たようで、ジャネットから引き上げの合図を出してきた。
「もう、いいのか?」
「ええ、こんなに収穫あればとりあえずはね。むしろ、こんなに回収できると思っていなかったわ!さすがスカルディオね。報酬はうんと弾ませてもらうわ」
「そりゃ有り難いね」
「そうよお!他の冒険者の時は、回収中に襲われるなんてザラだったもの。全く、索敵すら満足にできないなんて、冒険者の質も下がっているわね」
「・・・そういう時どうするんだ?」
「もったいないんだけど、外装をぶん投げるわ。意外といいダメージになるから」
…お前の腕力で硬度抜群の外装を投げられたら、いかに魔物だろうと無事じゃすまないだろうよ。
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