魔女の記憶を巡る旅

あろまりん

文字の大きさ
79 / 85
第五章【灰】

灰の魔女の魔術

しおりを挟む


ことり、と目の前に茶が置かれる。
ティティが運んできてくれたようだ。



「シグムントさんも大変なのですねえ」

「まあ、そうかもな」

「大丈夫ですよ、生きていればいいことありますから~」

「そうかもな」

「ティティも、お師匠様に会えました。すごく幸せです。色々なことを見たり知ったり楽しいですよ」



ニッコリ、と太陽のような笑顔。
少し気分が晴れたような気がして、ティティの頭を撫でてやる。

えへへ、とはにかみ笑いをするティティ。
そんな俺とティティを見守っているチャコーレア。



「教えてくれ、『灰』の魔女。俺はどうしたらいい」



   ◻︎ ◼︎ ◻︎



鬱蒼と茂る、木々の中を進む。
横にはティティがぴょこぴょこ歩いている。

なんでも、食べるものを採りに行くとのこと。
果実や、サラダにして食べられる葉が生えているのだという。

この森…もう密林、という方がしっくりくるかもしれない。
これは全て、チャコーレアの魔術なのだという。

現在、旧ローリマ公国…ウルグスタ連合国全体で魔力密度が過多になっている。
その為、通常の人間や動物はこの環境に耐えられない。人間であれば気が狂い、命を落とす。動物であれば、魔力に適応して魔物化する。
それを解消しようというのが、この『灰』の魔女の魔術だ。

木々を茂らせ、魔力を吸収し、拡散させる。この植物達は、チャコーレアが作り上げた魔術の産物。魔力を糧として成長する。
本来ここまで育つことはないのだが、旧ローリマの環境がそこまで異常だ、ということなのだろう。
吸収した魔力は大気中に放たれる。その結果、その魔力が砂嵐として起こっているそうだ。

砂嵐が弱まってきた、という話をすると、以前より魔力が薄まってきているからでしょうね、と返された。
ちなみに、この密林は100年前からある状態なので、今後砂嵐がなくなるのは200年ほどかかるだろうとの事だ。



「200年、とはな。途方もない話だ」

「それくらいすぐなのですよ~」

「そりゃティティにとってはな。そういや、エルフの寿命はどのくらいなんだ?」

「どうでしょう~?人によると思いますけど、ティティはまだ成人してもいませんので~」

「・・・ちなみに、ずっとしないという事もあんのか?」

「う~ん?わかりませ~ん」

「だよな」



チャコーレアはこの密林で取れる植生の研究や、『魔女の果実黄金の林檎』の面倒を見ているらしい。
雛の深緑の森で取れる『魔女の香草ハーブ』もそうだが、魔力で栽培されるものだ。

ちなみに、黄金の林檎は雛の大好物なのだという。酒につけて林檎酒シードルにするのだそうだ。
黄金の林檎が市場に出ることがないのは、ほとんどが林檎酒シードルになって、雛達で分けるからだそうだ。

そして、兄上のことだ。
おそらく、だが、『砂嵐の主』と呼ばれる魔物がどうやら兄上らしい。



「どこにいるんでしょうねえ、おにいさん」

「・・・鉢合わせることはないだろう。密林の中はんだろ?」



チャコーレア曰く、この密林の中には魔物は入れない。
木々達はチャコーレアの結界でもあるからだ。もちろん、人間も入れない。出入りが可能なのがティティのみ。
俺はティティが連れてきた、からこうして動き回ることが許されている。

あの小さなオアシスに設置された魔法陣からでなければ、ここへ転移できないそうだ。
転移魔法陣を設置したのはティティ。転移に関する魔法は前から得意だったそうだ。今学んでいるのは、さっきも見た物を復元する魔法。



「お皿を割ったりしたときに便利です~」

「安全な魔法の使い方だな」

「魔法も、魔術も、元は『幸せになる為のもの』なのですよ?」

「エルフではそう伝わっているのか」

「・・・人間たちは忘れてしまっているのですね。お師匠様達のような『魔女』達もそうして魔法を広めていったのですよ。
争いに使うようになっていったのは、人間達なのです」

「そう言われると、耳が痛いな」

「お師匠様も、お師匠様のお師匠様も争いは好まないのですよ」

「雛、に会った事があるのか?」

「はいです。とっても綺麗な人です~」

「・・・綺麗な?人?」

「シグムントさんも会った事があるのですよね?
お師匠様とはまた違って、神秘的で、惹きつけられるような美しさです~」



うっとり、とでも表現するかのように言うティティ。
…神秘的?どこがだ?あれはお転婆娘としか言いようがないと思うが。

俺以外にはそう見えるのか?



「お師匠様のお師匠様もすごい力の持ち主なのです~
緋の御方の魔術も凄いですが、お師匠様のお師匠様は、町をまるごとしまうのですから~」

「は?」

「はい?」

「なんだ、その消し去る、って」

「なんて言ったらいいんですかね~?」



ティティが聞いた話では、ローリマの公都…スピルリナスは緋の魔術によって三日三晩の間、炎に包まれていたそうだ。
魔術の炎だから、大気中の魔力マナを触媒として燃える。いつまでも燃える炎は、雛…黒の魔女が消したという。

戻り、チャコーレアに事の真相を聞く。



「ああ、そのことですの」

「どういう事なんだ?ローリマは緋の魔女の魔術で滅んだんじゃないのか」

「大半はそうですわね。後は住む場所を追われて逃げだしたのではないかしら?
でも、緋の御方の魔術は人や建物、全てを対象として放たれていましたから、どうしようもありませんでしたのよ。
魔術だけでなく、を消し去る他なかったのです」

「・・・途方もない、な」

「ローリマにあった全ての町、村は雛様の魔術でほとんど風化しましたわ。人や獣の亡骸すらも全て。
あの方の魔術ですから、亡くなった人間や獣は全て輪廻の輪に戻したのでしょうね。
その余波で生じた魔力痕・・・残滓もありますから、こうして弟子の私が対処しているというわけですのよ」

「緋の系譜の魔女達は来ないのか?」

「来たとしても、あの系譜の魔女達は力任せに吹き飛ばす事しかできませんわよ?
それに、緋の系譜の高位魔女達は動けないのではないかしら」

「動けない?」

「あら、ご存知ありませんのね。今のは、緋の御方ですもの」



そういえば、そんな話を雛がしていたような?
あの話は本当だったのか。…『みんな起きてる』とも言っていたと思うが?

しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

いつか優しく終わらせてあげるために。

イチイ アキラ
恋愛
 初夜の最中。王子は死んだ。  犯人は誰なのか。  妃となった妹を虐げていた姉か。それとも……。  12話くらいからが本編です。そこに至るまでもじっくりお楽しみください。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

強い祝福が原因だった

恋愛
大魔法使いと呼ばれる父と前公爵夫人である母の不貞により生まれた令嬢エイレーネー。 父を憎む義父や義父に同調する使用人達から冷遇されながらも、エイレーネーにしか姿が見えないうさぎのイヴのお陰で孤独にはならずに済んでいた。 大魔法使いを王国に留めておきたい王家の思惑により、王弟を父に持つソレイユ公爵家の公子ラウルと婚約関係にある。しかし、彼が愛情に満ち、優しく笑い合うのは義父の娘ガブリエルで。 愛される未来がないのなら、全てを捨てて実父の許へ行くと決意した。 ※「殿下が好きなのは私だった」と同じ世界観となりますが此方の話を読まなくても大丈夫です。 ※なろうさんにも公開しています。

婚約破棄したら食べられました(物理)

かぜかおる
恋愛
人族のリサは竜種のアレンに出会った時からいい匂いがするから食べたいと言われ続けている。 婚約者もいるから無理と言い続けるも、アレンもしつこく食べたいと言ってくる。 そんな日々が日常と化していたある日 リサは婚約者から婚約破棄を突きつけられる グロは無し

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

【完結】瑠璃色の薬草師

シマセイ
恋愛
瑠璃色の瞳を持つ公爵夫人アリアドネは、信じていた夫と親友の裏切りによって全てを奪われ、雨の夜に屋敷を追放される。 絶望の淵で彼女が見出したのは、忘れかけていた薬草への深い知識と、薬師としての秘めたる才能だった。 持ち前の気丈さと聡明さで困難を乗り越え、新たな街で薬草師として人々の信頼を得ていくアリアドネ。 しかし、胸に刻まれた裏切りの傷と復讐の誓いは消えない。 これは、偽りの愛に裁きを下し、真実の幸福と自らの手で築き上げる未来を掴むため、一人の女性が力強く再生していく物語。

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

処理中です...