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第五章【灰】
砂嵐の先に
しおりを挟む足早に砂漠を進む。
第1のオアシスを目指しつつ、ジャネットが調べた情報を頭に入れる。
流石はコクーンギルド一の情報通だ。
三陣が通るであろう経路、そして一陣と二陣が通った経路までも把握している。いずれもほとんど同一のルートを通っている。恐らく砂嵐が薄い箇所、というのは決まっている様だ。
だからこそ、向こうの先を取れる。
チャコーレア…『灰』の魔女から渡されたタリスマン。スタールビーの輝きがチカリ、と太陽光を反射する。
『砂嵐の近くへ行けば、魔法壁が展開されて通れるようになるわん。何処を通ろうとも、ね』
『灰』の魔女手製の魔法道具だ。効かない、という事もないだろう。そもそも砂嵐を創り出しているのは『灰』の魔女が織り成す魔術の断片。
俺はオアシスを経由し、一番砂嵐が酷い辺りへ向かう。
一瞬、風が強まり吹き飛ばされそうになるが、タリスマンから仄かな燐光が立ち上った瞬間、風を受けなくなった。
…いや、俺の周りに防壁が展開されているのだろう。周りを見渡しても砂しか見えない。1歩先、1歩後ろすら何も見えない。ただ、前へ進むだけだ。
どれだけ、歩いただろうか。
突如、フッと風が止んだ。
目の前には、砂嵐に突入する前と同じく、砂の海が広がっている。
「・・・・・抜けた、のか」
振り返れば、砂嵐の壁が遠くに見える。
方向を間違っていなければ、砂嵐の中のはずだ。
周りを見渡せば、遠くに何か瓦礫のような物が乱立しているように見える。蜃気楼で無ければ、だが。
「とりあえず、あそこを目指───っ!」
足を向けた瞬間。
大地を揺るがす振動。
そして轟音。
咄嗟にしゃがみ、耳を塞ぐ。
前方から突風と砂の洗礼が起きた。
なんだ、何が起きた!?魔物か!?
片腕で顔を覆い、隙間から前を確認。
瓦礫が乱立している辺りから、立ち上る煙。
どうやら、あれは蜃気楼ではないらしい。そしてそこからこの振動と轟音が発生しているようだ。
「くそ、もう、かよ・・・っ!」
違うかもしれない。ただの崩落かもしれない。
だが、そんな小さな期待が叶ったことなど未だ1度もありはしない。
落胆と憤りを噛み締めつつ、急ぎ瓦礫の崩れた辺りへ向かう。
畜生、と呟きつつも頭は冷静に戦闘態勢へと切り替える。
そう、戦うしかない。相手が何であっても。
◇ ◆ ◇
「───た、たす、助け」
「離せ、化け物!」
「っわぁぁぁぁ、こっちへ来るな!」
「@m'tgdwagw!!!」
「やめろ、おい、ロジャー!」
「ああ、貴重な壁画が、」
「早く止めろ!」
魔物と思しき声、そしてパニックになっている人々のざわめき。
たどり着いた先に見えたのは、人型に近い大型生物に捕らわれた人間。
瞬時に飛び込み、腕を切り落とす。
そのまま宙に落ちた男の襟元を引っ付かみ、ぶん投げた。
まごまごと喚いている集団に突っ込んで行ったが、俺はそちらを見ずに腕を切りつけた獣人へと向き直る。
「うわぁぁぁぁ!」
「痛ってえ!!!」
「何だ!?何が起きた!?」
「・・・失せろ」
「はっ!?えっ!?援軍!?」
「ってか一人!?他の冒険者はどうした!」
「待てよ、あの男・・・嘘だろ?『閃光』?」
「引き受ける、早く去れ」
「っちょ、待てよこっちだって」
「おいやめろ、『閃光』に任せとけ」
「撤収!撤収!」
なんだか嫌な通り名を聞いたが、最早そこに突っ込んでられない。
腕を切り落とした獣人…おそらくこれが『砂嵐の主』、だろう。
切り落とされた腕を掴み、切り口を合わせている。
少し後ろがギャアギャア行っていたが、撤収してくれそうだ。
周りに、数名分の腕や足が転がっているが、もうそこに触れようとする奴もいない。
「悪い、引かせてもらう」
「構わない。・・・こっちも余裕がない。さっさと行ってくれ」
「恩に着る、『閃光』。また会えたら酒を奢らせてくれ」
「早く行け。三陣が来ているはずだ。
合流したらオアシスへ戻れ。こちらに加わろうとするなよ」
「分かっている、コイツは俺達で何とかなるような奴じゃない。・・・健闘を祈るぜ」
声に恐怖が灯る。
相当酷くやられた、のだろう。
周りに数名分の手足が落ちているが、それも先行しているはずの人数からしたらかなり少ない。
どういう事があったのかまでは、考えたくないがな。
周りから俺と『砂嵐の主』以外の気配が消えるまでそうかからなかった。その間に起きた事といえば、目の前の獣人…兄上の腕が繋がった事。
「・・・・・おいどうなってんだよあの体」
「japw?mwtjtjt'g!」
「喜んでる、とは思いたくねえんだけどなあ・・・」
こちらを見て、ニヤリと笑う。
大きな猿の様な体躯、獣を思わせる牙、巨人の腕。そして竜種のようなギョロリとした虹彩…。物語に出てきそうな混合種のようだ。
唯一、『紅蓮の貴婦人』を思わせるような緋色の瞳…
「・・・・・いやはや、参るね全く」
何が悲しくて、こんな道を歩まねばならないのか。
「どうにかならなかったのか!なあ!!!兄上!!!」
「UHOOOOOOOO!!!!!」
「ああ、ああ!そうだ!!!そうだよな!!!」
『くそ、畜生、何でだ』『どうにかならないのか』そんな思いが無い混ぜになり、押し込めてきた衝動に突き動かされる。
何も考えたくない。目の前の獣人へと挑む。
斬り付け、殴り掛かられ、蹴り飛ばされ…
昔、遠い遠い昔。小さな頃、そうやって兄上に剣術の手解きを受けた記憶が蘇る。霞んだ記憶、幸せだった頃。
───あの夜。
何もわからずに追い立てられて逃げた夜。
たくさんの人がいた。泣いてすがる人もいた。
『早く』
『お逃げ下さい』
『ここは我等が』
『いや待て!殿下がいなくなれば!』
『そうだ!我等の悲願が』
味方と思っていた人は、味方ではなかった。
守ってくれていた腕は、守るためではなく捕えるための物だった。
疎んでいた人の腕は、背中を押してくれた腕だった。
全てを、捨ててきた。
手に残るものなどなかった。
残ったのは、この命ひとつと、呪われた体。
「・・・この為に生きてきたのか。命を繋いできたのか。半分とはいえ血が繋がった家族を手にかける為だけに!なあ!!!」
吐き捨てるように、叫ぶ。
心に詰まる塊が、取れない。
相棒ともいえる愛剣を染める赤い雫。
目の前には、かつて兄だったものが転がり、虫の息だ。
どうやって倒したのか、覚えていない。
こちらも片腕は動かない。思いっきり握られて骨が砕けたような覚えがある。引きちぎられなかっただけ運がいい。
途中、動かない腕に痺れを切らし、回復薬をぶっ掛けてなんとか動かせるまでにしたが…反動か痺れて動かない。
片目も霞む。額を切ったから血が入ったか…。
腕や脚を切り落としても拾ってくっつけようとするので、遠くに蹴り飛ばすか火炎瓶で燃やしてきた。…二度ほどそれでくっつけられて長引いたな。
魔法を乱発されなかっただけ、斑の相手よりはマシだったか…
倒れ込みたい衝動を抑え、目の前の獣人を───兄上であったものを見る。周りの出血量から考えて動かないだろうとは思うが…一向に気配が薄くならない。
「・・・・・くそ、どうしろってんだよ」
「─────twj、jtmc@aca」
「わかんねえよ、ったく・・・」
呻くような声がするが、一向にわかる気がしない。
さすがにそろそろ俺もキツい。回復薬で抑えてはいるが、回復魔法は使えない。さて、どうするか…
その時、聞き覚えのある声が届く。
「流石ねえ、倒すとは」
「この人が、シグムントさんのおにいさん、ですか?お師匠様」
「っ、アンタら」
「ティルティリカティムティオ」
「はい」
名前を呼ばれたティティがトコトコ進み出る。
危ない、と思いつつも『灰』の魔女がティティの長ったらしい名前を言えたのか、という驚きも少なからずあった。
ティティは俺の前まで来て、回復魔法を展開する。
ふわり、と暖かい風が包む。
「こんなものでしょうか?」
「・・・悪い、助かる」
「いえいえ、これも準備のうちですし」
「準備?」
何をするつもりだ?
そう聞こうとしたが、ティティはいつものような笑顔ではなく、それこそ年相応の───何もかもわかったような微笑みを見せた。
困惑する感情と同時に、『ああ、こいつもやはり魔女の弟子なのだな』と理解した。
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