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第五章【灰】
準備と、覚悟
しおりを挟むティティが作った移動魔法陣を出て、オアシスを経由してコクーンへと戻る。
途中のオアシスでも耳にしたが、ウルグスタから出た調査団の話でもちきりだった。追いかけるように通り過ぎる冒険者の集団もいた。
ギルドへ入れば、直ぐにも声が掛かる。
「シグムント!」
「ゴ・・・ジャネット、調査団の話は聞いているか」
「まあいいわ、その話ね?数日前に出たわよ。二陣も出ていて、今は第三陣の募集をかけているわ」
「もう三陣を出すのか?砂嵐でやられたか」
「砂嵐で二陣が散り散りになったようね。一陣は通り抜けた様だけど、半壊だそうよ?全く、一か八かにも程がある話だわ」
「『砂嵐の主』については?」
「それはまだみたいね。一陣の半壊はそれが原因の様だけどハッキリしないわ。なんせ、此処に戻ってきた奴等は大半が二陣の残りだから」
ジャネットによると、ギルドに戻ってきているのは二陣出発したものの、砂嵐の洗礼を受けて引き返して来た奴等だそうだ。
その中には一陣の人間もいるようで、護衛して帰ってきたのだとか。
『一陣半壊』の情報はそいつらからもたらされた情報の様だ。
砂嵐の向こうにいるのは、調査団の学者数名と冒険者数名。
早く補給をして戻らないと、干からびる恐れもあるとか。
現在ギルドでは調査団…というより半分は救援部隊になりそうな勢いだ。
「で?シグムントも加わるかしら?」
「いや、俺は止めておく」
「そう?加わるなら百人どころか万人力だと思うけど・・・アタシも止めておくのが無難だと思うわ。砂嵐を越える方法が賭けでしかないんじゃ仕方ないわよね。
そうそう、マウントロックスの報酬渡すわね。それとティティちゃんの護衛。送り届けて来たんでしょ?」
「ああ、頼む」
砂嵐を越える方法は知っている、なんて言うつもりはない。
三陣が向かう前に砂嵐を越えた方がいいか、それとも一陣の奴等を救援した後がいいか。…後者の方がいいのだが、三陣が成功するとは限らない所が微妙だな。
出された報酬を数え、異空間倉庫へとしまいながらどうするべきか、と思案する。
一度ゆっくり英気を養いたいし、『砂嵐の主』…兄上と対峙するなら心を決めておきたい。できればどんな状態なのかも知っておければさらに勝率は上がるが…
「ジャネット、『砂嵐の主』はどんな魔物なのか知らないか」
「あら?シグムント、討伐依頼を請けるの?」
「・・・そんなものが出ているのか?」
「ええ、一陣が半壊したでしょう?特定災害魔物指定されているわよ。
危険度込みで依頼レベルもちろん『DS』認定ね」
参った。流石は兄上…とでも言えばいいのか?
竜種ですら『S』認定なんだがな。まあ竜種に関しては種類や脅威度合で変わってきたりするが…
ジャネット曰く『正体不明、種族不明』ということからも『DS』…つまり超ド級に危険な相手、と認定されたようだ。
初めて観測された魔物については、大型生物ほど一時的に『DS』認定される事は少なくない。倒されてしまえばある程度他の魔物と比べ、脅威度は下がるものだ。しかし…今回については他の奴等を待つ訳にもいかないだろう。
「・・・本気で戦るつもりなの?シグムント?」
「どうだかな」
「はあ・・・アンタがそういう態度する時は大抵無理を通す時なのよねえ・・・」
呪われた体であることまでは話しちゃいないが、ゴドフリー…ジャネットとは幾度も同じ死線を潜ってきた仲だ。長い付き合いではなくても、濃い付き合いであるからこその読みか。
ここのギルドマスターはある程度俺の事情を知ってはいるが…
「・・・アンタの事は、ギルマスから聞いてるわ。ワケありって事だけだけどね」
「あまり突っ込んでほしくはないんだがな」
「仕方ないでしょ?アンタみたいなの相手は、そこらの受付嬢じゃ手に余るもの。何処の冒険者ギルドに行ってもアタシみたいな熟練者じゃないと相手できないわよん」
だからお前は『嬢』じゃないだろという言葉が喉元までせり上がってくるが堪える。確かに通常の受付嬢だとうっかり秘密を漏らす…ような浮ついた奴ばかりじゃないだろうが、秋波を送られてもそれはそれで面倒くさい。
やれやれ仕方ない、という風にため息を付くジャネット。
「・・・いくらアンタがS級とはいえ、単独で向かわせなくはないのよねえ。これだけの逸材を散らせるのは惜しいし。アタシが行ければいいんだけど」
「お前が来てくれれば頼りになる、のは分かってるんだが。
すまん、今回は一人で行かせてもらう」
「今回は?」
「・・・悪い、前もだったな」
「そうよ、それでボロボロになったアンタを引き摺って帰ってきたのはアタシ。思い出してもらえたかしら?」
以前、マウントロックスの大軍を相手した時の事だ。
余りの事に散り散りに退避したのはいいが、途中で別の冒険者パーティに出会って庇わざるを得なくなった。ジャネットは『見捨てろ』と言ったが、俺は最後の最後で見捨てられず、囮になって逃がした。…勝算はあったし、何より『どうせ死ねない』とタカを括っていたのもあった。
結果、勝つには勝てたが、マウントロックスの欠片やらに押し潰されて身動き取れずに苦戦してた所にジャネットが救援隊を引き連れて来た。…マウントロックスの攻殻を文字通り粉砕してくるコイツに一番恐怖したがな。
「・・・あの時は助かったよ」
「まーったく、あんな準備も覚悟もできてないヒヨコ冒険者共なんて放っておけばいいってのに。まあそこがアンタのいい所よね。・・・っと。これ持ってきなさい」
「何だこれ」
「救援信号用の信号弾よ。魔力で打ち上がるわ。ヤバくなったらそれで合図なさい。アタシがすぐさま駆けつけてあげるわ」
「ジャネット、お前」
「どうしても単独で動く必要があるんでしょ?なら、それが最大の譲歩よ。ヤバくなったら頼ること、良いわね?
シグムント、アンタみたいないい男をみすみす死なせちゃオンナが廃るってもんなのよ、いい加減判りなさい」
「・・・お前、本当に男前だな」
「バカ言いなさいよ、いいオンナってのはこういうモンなのよ。
どうせ明日にも向かう気なんでしょ?砂漠へ行く前に寄りなさい、少しは情報を集めておいてあげるわ」
俺はそれに答えず、片手を上げて踵を返す。
さて、宿で一眠りするか。
急ぎだと言ってはいないが、あまり時間をかけるのも良くないだろう。
魔物化しているとはいえ、人間を手にかけている兄上を見たいとは思わない。…もう遅いのかもしれないが、まだ交戦まではしていないと信じよう。
翌朝早く、ギルドへ立ち寄ればジャネットは受付で待っていた。
『感謝なさいよん』と小さく折った紙切れを手渡して来た。
「そんな情報でもないよりはマシ、だと思うわよ」
「悪い、恩に着る」
「当たり前じゃないの、精々恩に着る事ね?」
ぶわっちん、とウインク。
やめてくれマジで。気合いが下がる。
と、真剣な顔になる。
「急いだ方が良さそうよ、コクーンの開門と同時に三陣が向かうそうよ」
「・・・随分と早いな?もう人数が集まったってのか」
「途中のオアシスで屯っている冒険者達を拾い集めるみたいね。補給物資も同じくオアシスでかき集めるみたい。
ここから運ぶ手間を省こうって訳ね。オアシスに留まる商人達には迷惑な話だけれど」
「わかった、俺も出る」
「気をつけなさいよ」
さて、何処を通れば鉢合わせないか。
俺は急ぎつつも頭をフル回転させる。
時は、近い。
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