魔女の記憶を巡る旅

あろまりん

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第五章【灰】

キャンプ

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オアシスへと戻り、先程のリグノ爺さんのいる商隊キャラバンへと足を進める。
ティティは『焼き鳥~』と楽しげに歩いている。さっきのパーティの奴等のことは頭から追い出しているんだろう。俺としても今後関わる気は無い。



「おお、戻ったか」

「戻りましたのです~」
「ああ、戻った。悪いんだが、羽だけじゃなくて爪なんかも買い取らないか?」

「こちらとしては大歓迎さ」
「兄さん達、デザートイーグル倒したのかい?」
「おや、だったら肉は取れなかったのかい?持ってるんなら料理してあげるよ!」



リグノ爺さんの周りにいた商隊キャラバンの仲間達だろう。割腹のいい女性達が気さくに話しかけてくる。
デザートイーグルの肉は魔物の中でも割と美味い。料理してくれるというなら願ったりだ。



「すまんの、最近は冒険者が少ないと話したろう?我々では魔物を仕留めるのも一苦労だからな」

「いいさ、料理してくれるならこっちとしても有難い。アンタらの腹の足しにもしてくれ」

「いいのかい?悪いねえ」
「その代わり期待してておくれよ!ソテーにスープ、明日はサンドイッチにもしてあげるからね!」
「こらこらお前達、素材を持ってきてくれた冒険者に少し軽すぎやせんかね?・・・全く。」

「女が元気な商隊キャラバンは安泰だな」

「尻に敷かれているとも言わんかね?」



早く早く、と魔物の肉をせびる女性達。
俺はマジックバッグから出すふりをしながら、異空間倉庫インベントリから肉を取り出して渡す。

女達は嬉しそうに運んで、料理を開始している。
いつの間にかティティもそちらに入っているような。まあ料理はできる方だろうから、いいだろう。

用意された飯を食っていると、商隊キャラバンの周りには同じように飯を買って食う奴らや、商人達がひっきりなしに入れ替わる。
黙って自分の食事に舌鼓を売っていると、様々な情報が流れてくる。こういうのは助かるな。

砂漠へ出た先遣隊の話、冒険者達がそれに乗って多数砂漠の奥へ行った話、ボロボロになって帰ってきた冒険者の話…



「さて、若いの。色々と融通してくれてありがとうよ。感謝を言わねばならんな」

「こっちは仕事をしたまでだ。・・・旨い飯にもありつけたしな」



リグノ爺さんが向かいに腰を下ろし、ぷかりとパイプを銜える。
それに対し、俺は汁物の椀を少しあげて答える。確かに旨いスープだった。焼いた肉串も存分に出してくれたからな。取ってきたのは俺達だが、料理する腕はないので助かる。まぁティティが作っていたのかもしれないが。

ティティはリグノ爺さんの商隊キャラバン仲間の、女性陣に囲まれて賑やかにしている。本当にスカートでも作るんじゃないだろうな。



「思っていたよりも随分頑張ってくれたよ。
・・・そうだな、お前さんにゃ情報の方がよかろうて。
ウルグスタから調査隊が来る話をしたろう」

「ああ、前に聞いたな。もう着いたのか?」

「昨日、このオアシスを経由して奥へ行ったよ。今回はかなり力が入っていると見える。なんせここまで3日で来た」

「本当か?・・・そりゃかなりの力の入れようだな」



砂漠の入口の街から、俺の足でもこのオアシスへ来るなら2日か?いくつかのオアシスを経由しては来るが。

今回はティティがいたから手前のオアシスから『灰の魔女』のいる場所へ飛んだから日数が狂っているが、調査隊は俺達と違いもっと重装備かつ大人数のはずだ。
早くても5日はかかると踏んでいたが…腕利きの魔法使いでもいたか?



「いつもの調査隊よりは魔法使いが多くいたな。それも実戦経験のありそうな連中だ。ウルグスタはで砂漠の踏破でも目指すつもりかもしれん」

「それだけ砂嵐の威力が落ちているという事だな。
砂漠にも決まった交易路が出来れば爺さん達も楽になるだろう」

「ならばよいのだがな。の怒りを買わねばよいがな」

「・・・何か、思い当たるフシでも?」



頭によぎるのは『灰の魔女』の姿。
チャコーレア自らが手を出す…事はないだろうが、本人は目的のために砂嵐を起こす力の持ち主だ。その邪魔をするならば、相応の対価を貰いそうな所はある。
…弟子のエルフは向こうで頭に風切り羽差して踊ってるがな。何やってるんだあの娘は。



「この国は『紅蓮』だけでなく『宵闇』の軌跡がある場所という事くらいは、聞いた事もあるだろう?」

「そりゃ、御伽噺のひとつじゃないのか爺さん?俺も子供ガキじゃないんだぜ?」

「御伽噺、にして伝えておるのよ。真実であっても信じるものは少なかろう。ならば御伽噺のひとつにでもして、子供達に語り伝えるしかあるまい?それが『砂漠の民』の務めだからの」



砂漠を行き交う商隊キャラバン達の渾名のひとつが『砂漠の民』だ。元々ローリマ公国…ウルグスタの地元民の総称でもあるが。
ローリマは1度滅び、その後建国されたウルグスタは様々な国の人間が住み着いているから、昔からの住民は少ないとの話がある。この爺さんは地元民の1人なのだろう。心の奥底に湧くほろ苦い思いには蓋をして話を聞く。

爺さんから聞かされた話は、チャコーレアやティティから聞いた話とそう変わりはない。
『紅蓮』…『緋』の魔女と、『宵闇』…『黒』の魔女が関わり、終わりを迎えた国の話。俺自身は知らなかったが、時が経つにつれ人の中で流れた伝承なのだろう。もしかしたら魔女達が少しずつ真実を流したのかもしれない。

『砂漠の民』が伝える話は俺が聞いてもほろ苦く、懐かしさを覚えるような伝承もある。顔に出す程素人臭くは無いつもりだが、身の内には沸き起こる感情もあるものだ。…こんな気持ちになる日も来るとはな。

夜も更け、お開きとなる頃には多くの昔話と情報を得た。

次の日はまたティティと共に『灰』の魔女の元へ戻った。
そのまま『灰』の魔女の依頼を受ける前に、俺は一度コクーンへと戻る事にする。



「戻るのですか?」

「ああ、アイツらの報告も必要だろ。
お前を送り届けた、って報告もしなきゃならないしな。
・・・悪いが、そちらの依頼は少し時間をくれ。心の準備をしたい」

「そうねえ・・・」
「お師匠様?」



『わかったわ』と言うかと思えば、チャコーレアはうーん?と人差し指を顎に付けたポーズで固まった。そのまま時間が経つ。…おい、このままいつまで待たせる気なんだ?こちらから口を開こうとすると、ゆったり赤い唇が開く。



「────まあ、いいわよお」

「そ、そうか。ならすまないが戻るまで待ってくれ。砂嵐の先に行かないとならないんだろう?」

「そうねえ。此処に立ち寄らずとも、アレについては通れるようにしておいたわ。これを持っておいきなさいな」



チャラ、と差し出されたのはのタリスマン。
何処かで、見たような気がするような。



「私の魔力を込めているわ。これを持っていれば、アナタだけは砂嵐の影響を受けない」

「わかった、礼を言う」

「礼には及ばないわあ。用意していたものだもの。
いいこと?との戦いは他の人間は立ち入れない。アナタだけで成す必要がある」

「・・・理解、している」

「血の繋がりのあるアナタだけが、彼を還せる。健闘を祈るわ」
「健闘を祈るのです!」



柔らかに微笑む『灰』の魔女。
その横でふんす、とエールを送るティティ。

俺は苦笑いしながらも、魔女の庭を後にした。



「・・・これでよかったのです?お師匠様」

「いいのよお。にしか出来ない事だわ。私達は見守る事しかできない。は渡したわ。あとはその時を待つだけ」

「わかりました。ティティも用意しておきます。
シグムントさんのおにいさん、なんですよね」

「・・・ええ。因果なものね」


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