82 / 85
第五章【灰】
キャンプ
しおりを挟むオアシスへと戻り、先程のリグノ爺さんのいる商隊へと足を進める。
ティティは『焼き鳥~』と楽しげに歩いている。さっきのパーティの奴等のことは頭から追い出しているんだろう。俺としても今後関わる気は無い。
「おお、戻ったか」
「戻りましたのです~」
「ああ、戻った。悪いんだが、羽だけじゃなくて爪なんかも買い取らないか?」
「こちらとしては大歓迎さ」
「兄さん達、デザートイーグル倒したのかい?」
「おや、だったら肉は取れなかったのかい?持ってるんなら料理してあげるよ!」
リグノ爺さんの周りにいた商隊の仲間達だろう。割腹のいい女性達が気さくに話しかけてくる。
デザートイーグルの肉は魔物の中でも割と美味い。料理してくれるというなら願ったりだ。
「すまんの、最近は冒険者が少ないと話したろう?我々では魔物を仕留めるのも一苦労だからな」
「いいさ、料理してくれるならこっちとしても有難い。アンタらの腹の足しにもしてくれ」
「いいのかい?悪いねえ」
「その代わり期待してておくれよ!ソテーにスープ、明日はサンドイッチにもしてあげるからね!」
「こらこらお前達、素材を持ってきてくれた冒険者に少し軽すぎやせんかね?・・・全く。」
「女が元気な商隊は安泰だな」
「尻に敷かれているとも言わんかね?」
早く早く、と魔物の肉をせびる女性達。
俺はマジックバッグから出すふりをしながら、異空間倉庫から肉を取り出して渡す。
女達は嬉しそうに運んで、料理を開始している。
いつの間にかティティもそちらに入っているような。まあ料理はできる方だろうから、いいだろう。
用意された飯を食っていると、商隊の周りには同じように飯を買って食う奴らや、商人達がひっきりなしに入れ替わる。
黙って自分の食事に舌鼓を売っていると、様々な情報が流れてくる。こういうのは助かるな。
砂漠へ出た先遣隊の話、冒険者達がそれに乗って多数砂漠の奥へ行った話、ボロボロになって帰ってきた冒険者の話…
「さて、若いの。色々と融通してくれてありがとうよ。感謝を言わねばならんな」
「こっちは仕事をしたまでだ。・・・旨い飯にもありつけたしな」
リグノ爺さんが向かいに腰を下ろし、ぷかりとパイプを銜える。
それに対し、俺は汁物の椀を少しあげて答える。確かに旨いスープだった。焼いた肉串も存分に出してくれたからな。取ってきたのは俺達だが、料理する腕はないので助かる。まぁティティが作っていたのかもしれないが。
ティティはリグノ爺さんの商隊仲間の、女性陣に囲まれて賑やかにしている。本当にスカートでも作るんじゃないだろうな。
「思っていたよりも随分頑張ってくれたよ。
・・・そうだな、お前さんにゃ情報の方がよかろうて。
ウルグスタから調査隊が来る話をしたろう」
「ああ、前に聞いたな。もう着いたのか?」
「昨日、このオアシスを経由して奥へ行ったよ。今回はかなり力が入っていると見える。なんせここまで3日で来た」
「本当か?・・・そりゃかなりの力の入れようだな」
砂漠の入口の街から、俺の足でもこのオアシスへ来るなら2日か?いくつかのオアシスを経由しては来るが。
今回はティティがいたから手前のオアシスから『灰の魔女』のいる場所へ飛んだから日数が狂っているが、調査隊は俺達と違いもっと重装備かつ大人数のはずだ。
早くても5日はかかると踏んでいたが…腕利きの魔法使いでもいたか?
「いつもの調査隊よりは魔法使いが多くいたな。それも実戦経験のありそうな連中だ。ウルグスタは本気で砂漠の踏破でも目指すつもりかもしれん」
「それだけ砂嵐の威力が落ちているという事だな。
砂漠にも決まった交易路が出来れば爺さん達も楽になるだろう」
「ならばよいのだがな。魔女の怒りを買わねばよいがな」
「・・・何か、思い当たるフシでも?」
頭によぎるのは『灰の魔女』の姿。
チャコーレア自らが手を出す…事はないだろうが、本人は目的のために砂嵐を起こす力の持ち主だ。その邪魔をするならば、相応の対価を貰いそうな所はある。
…弟子のエルフは向こうで頭に風切り羽差して踊ってるがな。何やってるんだあの娘は。
「この国は『紅蓮』だけでなく『宵闇』の軌跡がある場所という事くらいは、聞いた事もあるだろう?」
「そりゃ、御伽噺のひとつじゃないのか爺さん?俺も子供じゃないんだぜ?」
「御伽噺、にして伝えておるのよ。真実であっても信じるものは少なかろう。ならば御伽噺のひとつにでもして、子供達に語り伝えるしかあるまい?それが『砂漠の民』の務めだからの」
砂漠を行き交う商隊達の渾名のひとつが『砂漠の民』だ。元々ローリマ公国…ウルグスタの地元民の総称でもあるが。
ローリマは1度滅び、その後建国されたウルグスタは様々な国の人間が住み着いているから、昔からの住民は少ないとの話がある。この爺さんは地元民の1人なのだろう。心の奥底に湧くほろ苦い思いには蓋をして話を聞く。
爺さんから聞かされた話は、チャコーレアやティティから聞いた話とそう変わりはない。
『紅蓮』…『緋』の魔女と、『宵闇』…『黒』の魔女が関わり、終わりを迎えた国の話。俺自身は知らなかったが、時が経つにつれ人の中で流れた伝承なのだろう。もしかしたら魔女達が少しずつ真実を流したのかもしれない。
『砂漠の民』が伝える話は俺が聞いてもほろ苦く、懐かしさを覚えるような伝承もある。顔に出す程素人臭くは無いつもりだが、身の内には沸き起こる感情もあるものだ。…こんな気持ちになる日も来るとはな。
夜も更け、お開きとなる頃には多くの昔話と情報を得た。
次の日はまたティティと共に『灰』の魔女の元へ戻った。
そのまま『灰』の魔女の依頼を受ける前に、俺は一度コクーンへと戻る事にする。
「戻るのですか?」
「ああ、アイツらの報告も必要だろ。
お前を送り届けた、って報告もしなきゃならないしな。
・・・悪いが、そちらの依頼は少し時間をくれ。心の準備をしたい」
「そうねえ・・・」
「お師匠様?」
『わかったわ』と言うかと思えば、チャコーレアはうーん?と人差し指を顎に付けたポーズで固まった。そのまま時間が経つ。…おい、このままいつまで待たせる気なんだ?こちらから口を開こうとすると、ゆったり赤い唇が開く。
「────まあ、いいわよお」
「そ、そうか。ならすまないが戻るまで待ってくれ。砂嵐の先に行かないとならないんだろう?」
「そうねえ。此処に立ち寄らずとも、アレについては通れるようにしておいたわ。これを持っておいきなさいな」
チャラ、と差し出されたのはスタールビーのタリスマン。
何処かで、見たような気がするような。
「私の魔力を込めているわ。これを持っていれば、アナタだけは砂嵐の影響を受けない」
「わかった、礼を言う」
「礼には及ばないわあ。必要だから用意していたものだもの。
いいこと?彼との戦いは他の人間は立ち入れない。アナタだけで成す必要がある」
「・・・理解、している」
「血の繋がりのあるアナタだけが、彼を還せる。健闘を祈るわ」
「健闘を祈るのです!」
柔らかに微笑む『灰』の魔女。
その横でふんす、とエールを送るティティ。
俺は苦笑いしながらも、魔女の庭を後にした。
「・・・これでよかったのです?お師匠様」
「いいのよお。彼にしか出来ない事だわ。私達は見守る事しかできない。託されたものは渡したわ。あとはその時を待つだけ」
「わかりました。ティティも用意しておきます。
シグムントさんのおにいさん、なんですよね」
「・・・ええ。因果なものね」
10
あなたにおすすめの小説
いつか優しく終わらせてあげるために。
イチイ アキラ
恋愛
初夜の最中。王子は死んだ。
犯人は誰なのか。
妃となった妹を虐げていた姉か。それとも……。
12話くらいからが本編です。そこに至るまでもじっくりお楽しみください。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
強い祝福が原因だった
棗
恋愛
大魔法使いと呼ばれる父と前公爵夫人である母の不貞により生まれた令嬢エイレーネー。
父を憎む義父や義父に同調する使用人達から冷遇されながらも、エイレーネーにしか姿が見えないうさぎのイヴのお陰で孤独にはならずに済んでいた。
大魔法使いを王国に留めておきたい王家の思惑により、王弟を父に持つソレイユ公爵家の公子ラウルと婚約関係にある。しかし、彼が愛情に満ち、優しく笑い合うのは義父の娘ガブリエルで。
愛される未来がないのなら、全てを捨てて実父の許へ行くと決意した。
※「殿下が好きなのは私だった」と同じ世界観となりますが此方の話を読まなくても大丈夫です。
※なろうさんにも公開しています。
婚約破棄したら食べられました(物理)
かぜかおる
恋愛
人族のリサは竜種のアレンに出会った時からいい匂いがするから食べたいと言われ続けている。
婚約者もいるから無理と言い続けるも、アレンもしつこく食べたいと言ってくる。
そんな日々が日常と化していたある日
リサは婚約者から婚約破棄を突きつけられる
グロは無し
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
【完結】瑠璃色の薬草師
シマセイ
恋愛
瑠璃色の瞳を持つ公爵夫人アリアドネは、信じていた夫と親友の裏切りによって全てを奪われ、雨の夜に屋敷を追放される。
絶望の淵で彼女が見出したのは、忘れかけていた薬草への深い知識と、薬師としての秘めたる才能だった。
持ち前の気丈さと聡明さで困難を乗り越え、新たな街で薬草師として人々の信頼を得ていくアリアドネ。
しかし、胸に刻まれた裏切りの傷と復讐の誓いは消えない。
これは、偽りの愛に裁きを下し、真実の幸福と自らの手で築き上げる未来を掴むため、一人の女性が力強く再生していく物語。
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる