魔女の記憶を巡る旅

あろまりん

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第一章【黒】

子供の手伝い

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 着替えを済まし、階下へ降りる。すでに朝食の時間は過ぎている。ランチにも早いか。起きる時間も遅かったし、それから手紙を読むのに集中しちまったからな。

 調理場の向こうから、カウンター越しにダグが挨拶をしてきた。


「おう、兄ちゃん。今日は随分と遅い目覚めだな」

「あー、すまん。寝過ごした」

「まぁいいってことよ。悪いが朝飯は終わっちまったよ。珈琲でも飲むか?」

「もらうよ」


 指定席になった場所に腰掛ける。香り高い珈琲の匂いが満ちて、少し頭が冴えてきた感じがしてくる。デカいマグカップになみなみと注がれた珈琲が置かれた。


「ほらよ」

「おう、サンキュー・・・」


 ちらりと調理場を見ると、コーヒーミルがある。豆から挽いてんのか、この珈琲。さすがに旨い。マジで店出せるぞこりゃ。


「なぁ、ダグはなんでこの村にいるんだ?あんたの腕なら王都でもどこでも腕を振るえるだろう」

「まぁそうだな、そう思っていた時もあったな」

「・・・ワケありか」

「そういうこった」


 元冒険者、のニオイがするダグ。こんな辺境に引っ込んでいる事と関係があるのだろう。料理は趣味で覚えたと話してくれたから、料理云々でこちらへ来た理由てはなさそうだ。

 ポツリポツリと互いに話をしていると、またもあのガキが入ってきた。


「たのもーう!」

「お、来たな?珈琲飲むか」

「のむのむー!」

「おいガキに珈琲はもったいないだろ」

「レディーにガキよばわりはしつれいすぎ!」

「った!何しやがる!」


 べちーん!と脛を思い切り引っぱたいた。くそ、小さいのを逆手に取りやがって!いえーい、と言いながら椅子によじ登る。そこへダグが可愛らしいカップに珈琲と、ミルクピッチャーを付けて出した。


「あいよ、ヒナちゃん」

「ありがとー!・・・んー、きょうもいいにおい!あじもひなのすきなかんじ!ダグさいこー!」


 ふうふう息を吹きかけて冷やし、じゅるじゅる、とひと口。ふはー!とオヤジのような息を付いてこのセリフ。わかるのか、お前にこの珈琲の味が。しかしダグは満足そうにうんうんと頷いている。好きすぎだろ、ダグ。

 少し珈琲を飲んで、背負っていた小さなリュックからノートとペンを取り出した。そこに何やら一生懸命メモを取り始める。


「んー、ダグのところはたりないおくすりある?」

「ウチか?そうだな頭痛薬はまだあるし、胃薬頼むわ。後は切り傷に効く軟膏だな」

「おっけー、まかしといてー」

「・・・なんだ薬でも届けに来てるのか?」


 このガキは雑貨屋でもやってんのか?チラッとメモの内容を見ると『○○にしっぷ、ダグになんこうといぐすり』など、どうやらこの村の数人の所から薬の注文を取っているようだ。


「シグはひまなの?ひなのおてつだいでもする?」

「誰が」
「おおいいじゃねえか、手伝ってやれば」

「おいおい待ってくれ」

「ちゃんと礼はしてくれるぞ?なあヒナちゃん」

「しますよ!おれいは!」


 がってん!と頷くガキ。マジかよ。確かに暇っちゃ暇だが、こんな小さいガキの手伝いすんのか?何させられるんだよ…


「シグはぼうけんしゃさん?そしたらきずぐすりとかがいいかな?」

「ヒナちゃんの薬は効くぞ?俺の古傷も治ったからなあ」

「あのときはなおるかヒヤヒヤしたよね!」

「わーった、わかったよ。手伝ってやるよ」


 1人でいりゃあ考えこんでしまいそうな事を思うと、子供の手伝いとはいえ体を動かしていた方が楽だ。俺は先に宿屋を出て待つことにした。



     □ ■ □



 少し待つと、片翼の鷹シングルホーク亭からリュックを背負った子供が出てきた。俺の近くに立つと、じっと見上げてくる。


「なんだよ」

「ひな」

「は?」

「ひなのおなまえ。ガキじゃなくて、ひな、ね」

「・・・ヒナ」

「はいな」

「で?何手伝えってんだ」

「あんね、こむぎこをかってかえるの。おもいからシグもってー」

「・・・荷物係かよ」

「たすかるぅー」


 こっちこっちー!と雑貨屋へ。『どれくらいもてる?』と聞かれたので、欲しいだけ持ってやるよと言ったらヒナは小麦粉を10キロ欲しいと言い出した。
 …お前な、確かに持ってやると言ったがそれはないだろ。しかし男に二言はない。俺は10キロもの小麦粉を軽量化ウエイトダウンの魔法を使って運んでやる事にした。

 ったく、これが使えてなかったらどうなってたんだか。


「すごいすごーい!シグちからもちー!」

「お前な、俺が魔法使えなかったらどうするつもりだったんだよ」

「そしたらざんねんですがりょうをかるくします」

「だったら最初から遠慮しろよ・・・」

「えー、だってクッキーつくるのにたくさんこむぎこひつよう」

「絶対いらねえだろこんなに!」


 まーまーカリカリしないでー、と言いながらヒナはずんずん歩いていく。いったいどこまで行くんだ?

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