6 / 85
第一章【黒】
商業都市ギルドの内紛
しおりを挟む「なんだこのカレーすげぇ旨い」
「はっはっは!そうだろうそうだろう!
『片翼の鷹亭』自慢のオリジナルカレーだ!」
辛味とコク。おいこの酒場どうなってんだ?主人はガチムチの多分元冒険者だろうし、その割には王都でも店を出せるほどの飯の旨さ。
今更だが、この宿屋の名前は『片翼の鷹亭』という。看板にも翼が一枚しかない鷹が描かれている。タグが好きなのか?鷹。
「しかもなんだよこのパン」
「それはな、リーゼんとこがカレーに合うようにって作ってくれたんだ。わざわざお前さんの為に焼いてもらったんだぜ?旨いだろ」
「もう他のカレーが食えないくらい旨い」
俺の分だけ、というのは嘘ではなかったらしい。他の客が注文するが『悪いが今日はこの兄ちゃんの分だけしかないんだ、2週間後な!』と断っていた。ゴネる奴もいやしない。
「なんでそいつの分しかないんだ!ここは飯屋じゃないのかよ!」
いや、いた。後ろからわかりやすい怒号が聞こえた。ジーナが対応していたが、それを見て主人のダグが出ていく。
「ジーナ、中にいなさい。・・・あのなぁ、女相手になんだって声を荒らげるんだ。カレーくらい我慢しろよみっともない」
「なんだと?客に向かって!」
「客に対する態度がなってないな!」
「全くこれだから辺境の村なんかに来たくなかったんですよ、僕は」
酒が入っているせいか、商業都市ギルドの冒険者3人組はいつになく横柄だ。俺達は客だぞ?という態度を崩さずにダグに食ってかかる。アイツら、実はランクかなり下の冒険者なんじゃないのか…?
「そうかそうか、来たくなかったか。んじゃあ出てってもらおうか。確かあんたらの宿代は今日までしかもらってなかったな?だったらちょうどいいな」
「はぁ!?」
「何言ってるんだあんた!」
「この村にはもう一軒だけ宿屋がある。そっちに行きな。今から行って部屋があるといいが。ジーナ、荷物を持って来てやりなさい」
「もう持ってきたわよ。ほらお客さん達、早く行かないと部屋はないかもしれないわよ?こーんな辺境の村だけど、商人の出入りがない訳じゃないんだから」
「お、おい!」
「何するんだよ!」
「こ、こんな事してタダで済むと・・・」
「なぁんか文句でもあんのか?お客さん?」
ずい、と睨みつけるダグ。もう3人組はダグの鋭い目付きに黙ってしまった。ようやく自分が相手しているのが『格上の猛者』である事に気がついたらしい。自分達の荷物を引っ掴み、慌てて出ていった。
フン、と鼻を鳴らし、カウンターの中へと戻るダグ。
「お疲れさん」
「ああまったくだ。昨日の事があってからロクな奴らじゃないと思っていたが、ああもどうしようもないとはな。
・・・アイツらには俺のカレーはやらん!」
「カレーかよ」
□ ■ □
次の日、起きると窓の外に連絡用の鳥がまた来ていた。俺の方からは飛ばしていないから、王都ギルドからの第二弾か?商業都市ギルドからの返事が来たんだろう。俺は着替えるのも後回しにし、手紙を読む。
内容は最悪だった。どうやら商業都市ギルドのギルド長は王都ギルドからの質問を突き返したようだ。なんでも最近商業都市ギルドはギルド長が変わったらしい。前任者は元冒険者のベテランだったようだが、今のギルド長は商人上がりの人間らしく、こちらからの言い分をのらりくらりと交わして知らぬ存ぜぬを決め込んだと。
「おいおい、じゃあどうすんだ・・・?」
王都ギルドのギルド長曰く、
『新しいギルド長はどうやら魔女の香草を大量採取して、売りさばくつもりのようだ。採取制限がある事を信じていないようで、あるだけ取ってこいと指示していると思われる。
しかし魔女の香草はそんな簡単に採れる物ではない。もしかしたら採取できないとわかって、君の採取した物を強奪する可能性もあるから注意してほしい。
王都ギルドとしては、この件を国王陛下に奏上した。明朝に王国から商業都市の長へ指示が行くだろう。そちらへ手が回るとしても数日かかる事が予想される。
今回の採取クエストについては無理をしなくて構わない。採取できる分だけ持ち帰ってくれればいいので、くれぐれも無理はしないで欲しい』
と書かれていた。
おいおい、それじゃあ派遣された商業都市ギルドの冒険者も、多分ランクが足りてない奴らじゃないか?高ランク冒険者であれば、ギルド長からの指示に異議があれば従わない判断もするはずだ。仮にもランクB以上であれば、あんな無茶な『マーキング』なんてしないはず。
ともかく、俺は自分が確保してある分だけ確実に持ち帰ろう。アイツらの処分がいつになるかわからない中で、規定を超えた『マーキング』分の薬草をアテにする訳にもいかない。
10本採るはずが3本しか採れないとなると、高級回復薬のレートは随分高くなりそうだ。依頼報酬もこれじゃ貰うわけにいかなくなってきたな。
10
あなたにおすすめの小説
いつか優しく終わらせてあげるために。
イチイ アキラ
恋愛
初夜の最中。王子は死んだ。
犯人は誰なのか。
妃となった妹を虐げていた姉か。それとも……。
12話くらいからが本編です。そこに至るまでもじっくりお楽しみください。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
強い祝福が原因だった
棗
恋愛
大魔法使いと呼ばれる父と前公爵夫人である母の不貞により生まれた令嬢エイレーネー。
父を憎む義父や義父に同調する使用人達から冷遇されながらも、エイレーネーにしか姿が見えないうさぎのイヴのお陰で孤独にはならずに済んでいた。
大魔法使いを王国に留めておきたい王家の思惑により、王弟を父に持つソレイユ公爵家の公子ラウルと婚約関係にある。しかし、彼が愛情に満ち、優しく笑い合うのは義父の娘ガブリエルで。
愛される未来がないのなら、全てを捨てて実父の許へ行くと決意した。
※「殿下が好きなのは私だった」と同じ世界観となりますが此方の話を読まなくても大丈夫です。
※なろうさんにも公開しています。
婚約破棄したら食べられました(物理)
かぜかおる
恋愛
人族のリサは竜種のアレンに出会った時からいい匂いがするから食べたいと言われ続けている。
婚約者もいるから無理と言い続けるも、アレンもしつこく食べたいと言ってくる。
そんな日々が日常と化していたある日
リサは婚約者から婚約破棄を突きつけられる
グロは無し
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
【完結】瑠璃色の薬草師
シマセイ
恋愛
瑠璃色の瞳を持つ公爵夫人アリアドネは、信じていた夫と親友の裏切りによって全てを奪われ、雨の夜に屋敷を追放される。
絶望の淵で彼女が見出したのは、忘れかけていた薬草への深い知識と、薬師としての秘めたる才能だった。
持ち前の気丈さと聡明さで困難を乗り越え、新たな街で薬草師として人々の信頼を得ていくアリアドネ。
しかし、胸に刻まれた裏切りの傷と復讐の誓いは消えない。
これは、偽りの愛に裁きを下し、真実の幸福と自らの手で築き上げる未来を掴むため、一人の女性が力強く再生していく物語。
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる