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第一章【黒】
森の探索、2回目
しおりを挟む早朝から森に入る。うっすら日が昇り始める時間からでないと、奥地の採取エリアまでは行って帰って来れないだろう。スピードもそうだが、奥地へ入れば入るほど、慎重に進まないとならない。
ついうっかりで霊獣の縄張りを侵す事になれば一大事。負ける事はないだろうが、場合によっては撤退できなくなる事もあるだろう。…昨日のあの馬鹿デカい猪なんかに本気で追われたら俺でも逃げおおせるかわからない。
奥地への境目に到達。ここからはコンパスを使い、常に自分の位置を把握しながら進まなくては。地図を細かく確認し、奥地の採取エリアへ。
どんどん緑が深く、薄暗い場所も多くなる。燐光が大気に泳ぎ、魔素が濃くなっていくのを感じる。こういった環境だからこそ、この森には霊獣や精霊が住んでいるのだろう。そうでなければ魔女の香草が自生する事は無い。
「さすがに、キツいな・・・」
大きな木の根元に腰を下ろす。亜空間倉庫から水筒とサンドイッチを出して食事。この二つはジーナに用意してもらったものだ。朝と昼の分を作ってもらった。備えはしっかりしておかないとな。
ゴミは必ず持ち帰る。こんな森の中に放置したりすれば、森の住民に反感を買いかねない。
以前、別の冒険者がこういった深い森にゴミを捨てて行ったことがあるらしい。人が入らないような所だからと油断したのかもしれないが、森から出るまでにその森に住む様々な動物、魔物、精霊達から酷い目にあったそうだ。
人の世界の物を持ち込まない。ゴミのポイ捨てなんかしないのが当たり前なのだが、どうもモラルのない冒険者も少なくはないようだ。ま、そんな奴らはランクも上には上がってこないのだが。…でも待てよアイツらBランクくらいじゃないのか?
まぁ今はそんな事気にしても仕方がない。太陽が中天に登るまでに採取エリアへ着きたい。帰りの事もあるからな。
□ ■ □
「・・・さすがに、ここは来てないか」
王都ギルドで把握している奥地の採取エリア。そこには3本の薬草が生えていた。まだ花は付いてない。
俺は預かっている道具を使い、『マーキング』を済ませていく。…とりあえずこれで3本は確実だな。しかし毎日ここに通うのは骨が折れるな。
魔女の香草についての詳細な情報はあまり無い。いつ頃採れる、という事はわかってはいるが、いつ採取できる状態になるのかは未だ不明だ。
少なくとも王都ギルドではその生態について把握してはいない。唯一、月の光で育つという事がわかっているので、採取には夜が明けてからということだ。
つまり、毎朝チェックしに来ないといけないのだ。ここまで毎日はキツいな…まだ花が咲いていないから明日って事はなさそうだが。
魔女の香草の採取限度は10本だ。1人10本ということはなく、ワンシーズンにつき10本となっている。つまり俺も10本、アイツらも10本までしか採取できないということ。保存容器も10個持っている。
不思議なもんだが、1人でも何人パーティでも同じ数っていうのはどうカウントしているんだろうか。そこの仕様も全く解明されていないが、例外はないのだから驚きだ。
森の主が見ているのだ、なんて言う魔術師もいるくらいだからな。そうでもないと説明つかないんだが、証明できない事だからな。
□ ■ □
村に帰り着く頃には、夕方近い。さすがに奥地まで往復となると一日がかりだな。まぁ今日は道を覚えるという事もあったし、次はもっと早く往復できるだろう。そのくらいのスキルはある。
宿へと帰り着くと、部屋の窓辺に連絡用の鳥が止まっていた。さすがに緊急用は早いな。返事を見てみると、王都ギルド側でも信じられないという。各ギルドには徹底して決まりを守っているはずだし、そんな事をするような冒険者を指名するはずがないが、ともかく商業都市ギルドへ問題提起をするから待ってくれとの事だ。
商業都市ギルドからの返答が来るには、早くても明日になるだろう。各ギルド間にはリアルタイムで連絡を取る手段があるし、すぐに解決するはずだ。…商業都市ギルド側が腐っていなければ、だが。
しかしこの問題は思わぬ展開を迎える事になる。
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