魔女の記憶を巡る旅

あろまりん

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第一章【黒】

森を守る存在

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「むふー、おいしーい!」

「そうだろ?じゃんじゃん頼めよ?」

「おいその支払い全部俺だろ」

「シグ、おとこににごんはないでしょ」
「女に飯を奢るのは男の甲斐性だろう」


 調理場ではダグがじゃんじゃんヒナが言う料理を作っていく。当のヒナは俺の横でダグ特製フライドチキンにかじり付いている。…何本目なんだよそれ。
 俺もエールを飲みながら揚げたてのフライドチキンに手を伸ばす。これがまたさっきまでそこらを駆け回ってた鶏で作っている。スパイスもダグのオリジナルだそうだ。くっそ、旨い。王都に帰ってから夢に出そうだ。

 結局、飯を奢ったのは次の日だった。俺はまた夜から採取をしに行かないとならなかったし、付き合ってはやれないからだ。ヒナにそう言うと『ごはんたべれるならどっちでもいいです』と来た。
 実際その言葉に甘えて1日延期させたのだから、好きなだけ飯くらい食わせてやればいい、子供の食べる量なんてたかが知れている…そう思っていたが。


「ダグー、フライドチキンおかわり!」

「あいよ!」
「待て!お前はいったい何本食ってるんだ!」

「まだはいります」


 10本は食ってるんじゃないか…?確かに旨いから何本でも食えるけどな。俺もお代わりを頼んだ。ダグはわかっていたように揚げ出す。
 フライドチキン以外にもスープやパンが出されるが、とにかくフライドチキンが旨い。

 なんだかんだと言いつつも俺もフライドチキンを食べ続け、かなりの量を平らげた。ヒナも同じくらい食べていたが、この小さい体にどうやって入ってるんだ…


「まんぞくまんぞく」

「たくさん食ってくれてありがとうよ!」

「ったく、遠慮の『え』の字もなかったな」

「ヒナがおしえたじょうほうにみあっただけたべました」


 そう言われちまうと返す言葉がない。確かにヒナのおかげで薬草を採取できたのだから。しかしアイツらはどうしたのだろうか。リミットは明日の午前中いっぱいだ。あれだけ『マーキング』したのだから採れているはずだが。
 俺はふとダグにその事について聞いてみる事にした。何か知っているかもしれないしな。


「なぁ、ダグ。アイツらの採取状況は知らないか」

「あん?確か今日は朝早く出たみたいだな。エリオの奴がそう言ってたぜ?どれだけ採取したのかまではわからんがな」


 エリオ、というのはこの村にあるもう一軒の宿屋の主だ。そこは食堂を置いておらず、片翼の鷹シングルホーク亭のように食事時に話を聞くことはできない。なので出掛けた事はわかるが、結果を上げているかどうかまではわからないそうだ。まぁアイツらの事を心配する気持ちはこれっぽっちもないんだがな。
 
 しかし、魔女の香草ハーブってのは時間が経つとどうなっちまうんだ?ダグに聞けば教えてもらえるのだろうか。


「ダグ、あんた魔女の香草ハーブについて詳しいよな?教えてほしい事があるんだが」

「なんだ?とはいってもあんまり詳しい事は俺も知らんぞ?でも内容によっちゃ、ここだけの話にしてもらわないといけないかもしれんが」


 なるほど、あの薬草はギルドでもA級の機密事項だからな。だからこそクエストも限られたメンバーにしか受けられないのだが。
 東大陸で採取できる場所も限られている。下手な情報が出て、ならず者がこの村に押し寄せる事になったら一大事だからな。

 わかったよ、と了承の合図を送る。冒険者同士で伝わる秘密の合図だ。ダグはそれを確認すると話を聞く態度になる。しかしまだ部外者がここにいるんだが。


「おい」

「なんでしょう」

「これから大人の秘密の話をするから、お前は家に帰れ」

「おとなのひみつのおはなし?それはボンキュッボンなおねえさんがでてくるえっちなやつ?」


 俺は無言でヒナのほっぺたをひっぱる。なんて事を言うんだこのガキ。親もそうだがこの村の連中は何を聞かせてるんだ。
 あいだだだ、と喚くヒナ。つまみ出すしかないか?しかしダグがそれを止める。


「おいおい、ヒナちゃんはいても大丈夫だ」

「こいつは部外者だろうが」

「何言ってんだ、ヒナちゃんもだぞ?知らない訳がないだろう」


 その言葉に目が開く。俺は思い違いをしていた。ギルド協力者とは、この目の前にいる『片翼の鷹シングルホーク亭』の主人だけでなく、なのだと。
 もう一つの宿屋の亭主、パン屋の女主人、村に住まう全ての人間…老若男女が皆等しく『深緑の森の守人』という事を。


「・・・参ったな、全員かよ」

「この村はな、皆がこの『深緑の森』に生かされて生活をしているんだ。森で取れる様々な恩恵、森があるからこその周囲の土地の豊かさがあるんだ。その中でのかも知らない奴はいねえよ」


 そこにいるヒナちゃんもな、とダグ。ヒナは俺に引っ張られたほっぺたをさすりながらふくれっ面で俺を見ている。ジトリとした目を向けているから、さすがに悪いと思って謝る。『デザートついかで』と言って機嫌が治った。まあいいかそれくらいで機嫌が治るなら。

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