15 / 85
第一章【黒】
力の差
しおりを挟む店の中で剣を抜く訳にいかない。壊したらダグに怒られるし、明日まで快適に過ごすには傷一つ許されない。魔法で吹っ飛ばすしかないな。
俺は詠唱を縮小して、風の弾を放つ。殺傷能力は最低レベルに落とし、ただの指向性の突風だ。3人は簡単に押されて店の外へと飛んでいった。
□ ■ □
「くっそ、痛え・・・」
「なんだあの突風は!魔法かよ!?」
「それくらいの受け身も取れないのかよ」
地面に転がる3人組。魔法使いの奴にしたら、前に踏ん張ってた奴らがまとめて転がってきたから非常に迷惑した事だろう。宿屋の前は広くなっているので、喧嘩くらいなら大丈夫そうだ。
3人組は起き上がると、さすがにフォーメーションを組んで俺に挑んで来た。まぁ見れたものじゃない…とまではいかないが、俺の敵ではない。丸腰だと思われているが、俺の装備は全て亜空間倉庫の中にあるのだから。
最初に突っ込んできた剣士の長剣を、亜空間倉庫から呼び出した愛剣で薙ぎ払う。そのままミドルレンジで待機していた弓術士の弓の弦を切る。弓はこれさえ切ってしまえばどうしようもないからな。
弓術士は一瞬で距離を詰めてきた俺に対応し切れず、何が起こったのかと慌てている。その間に後衛の魔法使いへと肉薄。剣の柄でおもいっきりぶん殴っておいた。あえなく撃沈。
「な、な、な、」
「弱っちいな、お前ら・・・クラスCか?それにしても弱すぎるだろ」
「お、俺の弓!この弦は特殊な物なのに、なんで普通の剣で切れるんだよ、おかしいだろ!」
「いやそれくらいの強度なら切れるやついっぱいいるだろ」
「・・・くっ、油断、しました」
「お前はまだ立たない方がいいぞ?脳みそ揺れて使い物にならないだろ、そういうふうに殴ったんだけどな」
あっさりと負けた3人組。嘘だろ、なんで、と言っているのが気に障る。腹が立つので剣士と弓術士の首根っこを掴んで、魔法使いの所まで投げ飛ばしてやった。
その目の前に立ち、剣を地面に突き刺して凄む。
「・・・その程度の力しかなくてよくこのクエストに来たもんだ。お前達に話を持ってきたのはギルド長か」
「そ、そうだ!俺達が強いから・・・」
「違うだろ、使い捨てるのにちょうどよかっただけだ。あそこの商業都市ギルドにはもっと格上のパーティがたくさんいるはずだ。お前達、クラスは何だ」
「お、俺達はクラスBだ!」
「クラスB?お前達が?」
絶対に嘘だ、こんな弱っちくてクラスBに上がれるはずが無い。百歩譲って採取クエスト専門のパーティで、クラスBになったのだとしても、こんなモラルもない奴らに務まるとは思えない。
睨みつけていると、村の入口の方から騎士が数人来た。村長もいる所を見ると、あれは王国軍騎士だろう。
□ ■ □
王国軍騎士が来たことに気付いたのか、アイツらはささっと立ち上がり、騎士達に駆け寄った。そして、言うに事欠いて『俺に暴行を受けた、採取クエストが達成できないからと自分達の素材を寄越せと言ってきた』と言う。
…おい、本当にそこまで腐ってんのか?
しかし、王国軍騎士達は、そう言い募る3人組こそを捕縛した。3人組は呆気に取られている。
「お、俺達が何したってんだ!」
「そうだ!俺達は被害者だぞ!」
「その男が私達を嵌めたんです!」
「うるさい!お前達が商業都市ギルドから派遣された冒険者である事は調べが付いているんだ、大人しくしろ!」
ぎゃあぎゃあ言いながらも連れて行かれる。そうか、国王経由で商業都市の長に話が言ったから捕まえに来たのか。そう思い、愛剣を抜いて亜空間倉庫へと戻す。騎士の1人がこちらへと走ってきた。俺の前で敬礼をする。…嫌な予感が。
「お疲れ様でした、スカルディオ様!」
「あ、ああ、アイツらよろしく頼む。あんたは王都から来たのか?」
「はい、王都から参りました、王国軍所属です!
いやぁ、流石は『閃光のスカルディオ』!御手並み見事ですね、感服いたしました!」
「ちょ、やめ、お前その名前」
「いやいや、王都でも有名な『閃光のスカルディオ』にお会いできるとは感激です!今度サイン下さい!」
うあああああああ!!!その二つ名呼ばれたくねぇぇぇぇぇ!!!
誰が付けたのか知らないが、いつの間にか恥ずかしい二つ名が付いていた。俺はこれを言われるのが恥ずかしくて、出来るだけ外では名前を名乗らないようにしているのに!まだもう一つの『神速』の方がマシなんだよ!
「ねえ『ひかりのスカルディオ』だって、ぷぷー」
「やめろやめろ、英雄様が困ってるだろう」
「ウケるー、ひなならはずかしくてたってらんない」
後ろから聞こえるヒナとダグの声。
ちくしょう、こいつらには知られたくなかった!ダグは薄々気付いていたかもしれないが、黙っていてくれていたんだろう。
「や・め・ろ」
「ぷぷー、ひかり、って『せんこう』ってかくんですよねぇ」
「余計な事は忘れろ!今すぐに!」
「ムリムリ、こんなたのしいことわすれられない」
10
あなたにおすすめの小説
いつか優しく終わらせてあげるために。
イチイ アキラ
恋愛
初夜の最中。王子は死んだ。
犯人は誰なのか。
妃となった妹を虐げていた姉か。それとも……。
12話くらいからが本編です。そこに至るまでもじっくりお楽しみください。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
強い祝福が原因だった
棗
恋愛
大魔法使いと呼ばれる父と前公爵夫人である母の不貞により生まれた令嬢エイレーネー。
父を憎む義父や義父に同調する使用人達から冷遇されながらも、エイレーネーにしか姿が見えないうさぎのイヴのお陰で孤独にはならずに済んでいた。
大魔法使いを王国に留めておきたい王家の思惑により、王弟を父に持つソレイユ公爵家の公子ラウルと婚約関係にある。しかし、彼が愛情に満ち、優しく笑い合うのは義父の娘ガブリエルで。
愛される未来がないのなら、全てを捨てて実父の許へ行くと決意した。
※「殿下が好きなのは私だった」と同じ世界観となりますが此方の話を読まなくても大丈夫です。
※なろうさんにも公開しています。
婚約破棄したら食べられました(物理)
かぜかおる
恋愛
人族のリサは竜種のアレンに出会った時からいい匂いがするから食べたいと言われ続けている。
婚約者もいるから無理と言い続けるも、アレンもしつこく食べたいと言ってくる。
そんな日々が日常と化していたある日
リサは婚約者から婚約破棄を突きつけられる
グロは無し
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
【完結】瑠璃色の薬草師
シマセイ
恋愛
瑠璃色の瞳を持つ公爵夫人アリアドネは、信じていた夫と親友の裏切りによって全てを奪われ、雨の夜に屋敷を追放される。
絶望の淵で彼女が見出したのは、忘れかけていた薬草への深い知識と、薬師としての秘めたる才能だった。
持ち前の気丈さと聡明さで困難を乗り越え、新たな街で薬草師として人々の信頼を得ていくアリアドネ。
しかし、胸に刻まれた裏切りの傷と復讐の誓いは消えない。
これは、偽りの愛に裁きを下し、真実の幸福と自らの手で築き上げる未来を掴むため、一人の女性が力強く再生していく物語。
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる