魔女の記憶を巡る旅

あろまりん

文字の大きさ
16 / 85
第一章【黒】

元冒険者の懺悔

しおりを挟む


 3人組は引っ捕えられ、商業都市まで王国軍騎士が護送するらしい。宿の部屋から出てきた保存容器には、確かに魔女の香草ハーブが採取されていたが、ほとんど光が抜け落ちていた。採取する時間帯が遅かったんだろう。
 一応それも証拠として抑えられ、騎士達が運んでいった。ようやくこの村に静寂が訪れる。

 そして、俺も次の日には王都へ戻る事にした。宿屋の前で、村人が見送ってくれた。なんだか色々と『土産だ』と持たされてしまった。村の出入口までは、ダグが見送ってくれた。


「クエストご苦労さんだったな」

「ダグには世話になったな、あれが採取できたのもあんたのおかげだよ」

「いやいや、礼ならヒナ様にしてくれ。採取の細かい事を話してもいいと許可したのは、他ならぬあの方だ」

「ヒナ、が?」


 どうやら小麦粉を運んだ日、お茶をしながら話した事でヒナは俺を『いい人』と判断したらしい。その後ダグにちょいちょい情報を教えていいよ、と許可したそうだ。


「参ったな」

「・・・俺はな、元冒険者なんだ。ま、お前さんには気付かれていたと思うんだが。『隻眼のダグラス』って名に聞き覚えは?」

「あ?確か十数年前まで活躍してたランクSの冒険者だろう。災害級魔獣との戦いで片目を失ったが、その後も功績を残してたと聞く。ここ数年噂を聞かないが」


 目の前にはニヤニヤ笑う
 …まさか、嘘だろ?


「あ、あんた」

「ウチの宿屋の名前は?」

「!? 片翼の───って、そういう事かよ!」


 『隻眼のダグラス』のパーティのロゴは鷹だった。そしてダグラスは『隻眼』。くそ、こんな事に気付かないとは!


「ちょっと待てよ、隻眼って、今見えてるだろ」

「これはな、ヒナ様に治してもらったのさ」


 う、そだろ。失くした目を戻す?そんな事が可能なのか、魔女ってやつは!ダグは昔話を始める。



     □ ■ □



 昔、自分がリーダーとして冒険者として活躍していた頃。隻眼であったにも関わらず、パーティの援護もあり、ランクSになるまで上り詰めたダグ。自らを過信する事もなかったはずだが、その時は訪れた。

 とある採取クエスト。危険と隣合わせの高難易度のクエストに挑み、結果としては素材も確保。後は無事に戻るだけだった。しかし、アクシデントが発生した。パーティも疲弊し切っている。
 ダグラスは自分が囮になる事によって、パーティ全員と素材を持たせて帰還させた。自分は遭遇してしまった霊獣と相討ちになる事を覚悟して。


「あの時は俺が油断しちまってな。自分の腕なら勝てると思ったんだ。だが、俺の強さは皆の補佐あっての事だったのさ。皆の補佐があれば勝てたと思う。…だが、俺はパーティの奴らの不調に気付いてやれなかったのさ」

「それは、・・・そうか」


 あんただけのせいじゃない、そう言うのは容易い。だがダグラスはパーティのリーダーだった。常に皆の調子を把握し、戦闘を避ける事もしなくてはならなかった。だがその時は自分の力を過信し『勝てる』と判断を誤った。


「それでな、霊獣を追わせないように谷底へ落としたのさ。しかし俺も気力が尽きて、一緒に落ちてしまった。もう死んだと思ったね」

「助かった、んだな」

「その霊獣がな、俺をこの森へ運んだんだ。正しくはこの森に住む魔女の元へな」


 お前も行ったんだろ?霊樹の家に、と言われる。瞬時に頭に浮かぶのは、ヒナに連れられて行ったあの家。
 あそこは魔女の庭で、限られた者しか入れない深緑の森の奥深くにあるそうだ。ヒナは毎日近道して村に来る、と言っていたそうだ。俺が通ったあの道か!
 あの後、どんなに探しても村から出る扉は見つからなかった。自分が使う時だけ見えるようにしてあるのかもしれない。

 ダグが目覚めた時、ヒナと霊獣が見下ろしていたそうだ。死を覚悟したが、ヒナは『ごはんつくれる?』と聞いたそうだ。


「血だらけのボロボロの人間に何を言っているのかと思ったよ。だが瞳を見てわかった。これは『違う存在』だってな。だから、傷を治してくれたらいくらでも飯を作ると言ったんだ。料理は店を持ちたいくらい得意だって言ってな」

「で、治したのか?」

「どれだけ驚いたよ。『じゃあよろしくー』と声がかかって周りが暖かくなったと思ったら、傷も痛みも無くなってた。失った視界すらも取り戻してるんだからな」


 その時の思いを口にはできない。ただ、この先死ぬまでこの人の役に立とう、とそう決めたそうだ。それが『魔女』であったとしても。


「どうして俺を助けたのか聞いたよ。そしたら『このこがもっとあそびたいっていってるから』ってさ。相討ち覚悟で戦った霊獣は俺と遊んでただけだってんだから」

「そりゃ・・・剛毅だな」

「後は予想出来るだろ?俺は死んだ事にして、この村で宿屋兼酒場を始めた。この村は『魔女』に助けられた人達で作ってる村だ。俺も例外じゃない」

「そういう事か。・・・幸せなんだな?あんた」

「おうよ。ここで妻ができて、娘も授かった。後はあの人の望むだけ、旨い飯を作ってやるだけさ」


 そう笑うダグは満足そうだった。元冒険者とはいえ、そこに帰ることもできたはずだが、それを選ばなかった。その時のダグの思いはわからないが、想像はできる。

 命の恩は、命で返す。

 つまりはそういう事だろう。

しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

転生幼女の攻略法〜最強チートの異世界日記〜

みおな
ファンタジー
 私の名前は、瀬尾あかり。 37歳、日本人。性別、女。職業は一般事務員。容姿は10人並み。趣味は、物語を書くこと。  そう!私は、今流行りのラノベをスマホで書くことを趣味にしている、ごくごく普通のOLである。  今日も、いつも通りに仕事を終え、いつも通りに帰りにスーパーで惣菜を買って、いつも通りに1人で食事をする予定だった。  それなのに、どうして私は道路に倒れているんだろう?後ろからぶつかってきた男に刺されたと気付いたのは、もう意識がなくなる寸前だった。  そして、目覚めた時ー

[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜

桐生桜月姫
恋愛
 シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。  だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎  本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎ 〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜 夕方6時に毎日予約更新です。 1話あたり超短いです。 毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。

悪役令嬢発溺愛幼女着

みおな
ファンタジー
「違います!わたくしは、フローラさんをいじめてなどいません!」  わたくしの声がホールに響いたけれど、誰もわたくしに手を差し伸べて下さることはなかった。  響いたのは、婚約者である王太子殿下の冷たい声。  わたくしに差し伸べられたのは、騎士団長のご子息がわたくしを強く床に押し付ける腕。  冷ややかな周囲のご令嬢ご令息の冷笑。  どうして。  誰もわたくしを信じてくれないまま、わたくしは冷たい牢の中で命を落とした。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。

ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」 その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。

わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。

織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。 父であるアーヴェント大公に疎まれている―― 噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。

処理中です...