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第二章【氷】
黒い羽根
しおりを挟む待つこと数分。ワイズマンは重い口を開く。
「・・・実はな、この羽根を持ってきたのはロロナのパーティなんだ」
ロロナ・アードラ。王都ギルドに所属する調査専門パーティの一人だ。彼女は考古学者でもある。他にパーティは二人。剣士と盗賊だ。ロロナ自身が魔法を使うので、調査には適したパーティでもある。クラスはBだ。
ロロナは女性だが、中級の冒険者だ。若いが根性もあるし、何より探索に適したスキルや性格の為、この王都ギルドに専属となっていた。
「ロロナか。彼女なら慎重だし信用もおけるだろ」
「お前もそう思うくらいだ、もちろん俺としても信用は厚い。彼女がこれを持ってきたのは二日前だ」
「・・・何かあったのか?」
「ロロナが昨日から目を覚まさない」
「は?目を、覚まさない?単に寝てるわけじゃなくてか?」
「ロロナ一人ならその可能性もあるだろう。だが、一緒にクエストに行ったメンバー全員がそうなんだ」
「っ!?」
ロロナ一人ならばまだしも、クエスト参加者全員だと?調査クエスト先で何かトラブルがあったのか。
もちろんワイズマンもその可能性を真っ先に考え、クエスト終了報告を受けたギルド職員に詳しく状況を聞いたそうだ。だが、普段と変わらない報告であったし、クエスト先でもそういった仕掛けだとか何かハプニングがあったという報告は受けていないそうだ。
「朝一番で、対処可能なパーティには調査へ出てもらった。二の舞を避ける為、ザックスのパーティに出てもらった」
「なるほど、アリーシャか」
ザックスのパーティは五人体制。剣士でありリーダーでもあるザックスを筆頭に、重戦士、魔法使いに盗賊、そして回復専門職の聖女だ。
聖女アリーシャ。元々は僧侶だったが、才能が開花したらしく今では聖女と呼ばれるまでとなった。確かに彼女ならば、呪いがあっても浄化できるだろう。
「しかし、備えはしておきたい。顔の広いお前ならこの羽根に心当たりがありそうな人物を知らないか?」
「とはいっても、なあ・・・王都の大学にはこれに心当たりある学者はいなかったのか?」
「既に見せた。だが心当たりは無さそうだ。黒い羽根を持つ魔物について調べてはもらっているが・・・何せ、この容器から出さない方が良さそうだからな」
「この容器は、王都ギルドに持ってきてから保管したのか?」
「ああそうだ。ロロナは普通に持ち帰ってきたんでな。劣化を防ぐためにこれに移したんだが。一応、一昨日応対した職員にも何か異変が起きていないか検査を受けてもらっている。運良くロロナ達が戻ってきた時は、別のパーティもいなかったからな」
むき出しの状態でこの羽根に接したのは、ロロナのパーティ達と、ギルド職員か。ロロナ達に異変が起きたのは昨日の朝。クエスト先から戻ってくるのに5日かかったそうだ。何かあるとすれば…
「・・・リミットは5~7日目ってとこか」
「多分な。ギルド職員に異変が起きるとするなら最短でも3日後だ。何も起きない事を祈る。お前に預けるのも不安はあるが、数少ない亜空間倉庫持ちだ。他の奴等よりは影響はないと判断した」
「確かにそうだろうな」
亜空間倉庫の中ならば、時間や空間の影響は受けない。時間差で何か起こるとしても、亜空間倉庫内ならば起こる影響も低いだろう。
俺が知っている識者で、これに心当たりがありそうな人物。無人の小島に引きこもってる変わり者の賢者の爺さんがいたな…あの人なら何か聞けるかもしれない。
「心当たりはあるか」
「ああ、ショゴス島にいる爺さんなら」
「・・・『無銘の賢者』か?お前さんホントにエラい人物と知り合いだな?」
「まあ奇縁でな」
俺としても『無銘の賢者』と知り合いになるとは思わなかった。以前自分の呪いを解こうと悪戦苦闘していた時に偶然遺跡の中で出会ったのだ。
爺さんはうっかり足を滑らせて転んだらしく、出口まで背負って出てやった。また怪しい事を喋る爺さんで、俺としてもこの体の事を相談できる数少ない相手。
「ショゴス島か、あそこなら船だな」
「あー、いや、転移門が使えるからすぐだ」
「・・・そんなもんがあるのか?」
「爺さん専用のがな。場所は教えられないが、往復しても二日で戻れる」
あの爺さんの所へ行くのも久しぶりだな。王都の酒でも買っていくとするか。…ヒナからもらったハーブティーも少し残っているし、土産にするとしよう。
…そういや、爺さんは『黒』の魔女について知っている事があるのだろうか。それについても聞いてみることにするか。
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