魔女の記憶を巡る旅

あろまりん

文字の大きさ
19 / 85
第二章【氷】

黒い羽根

しおりを挟む


 待つこと数分。ワイズマンは重い口を開く。


「・・・実はな、この羽根を持ってきたのはロロナのパーティなんだ」


 ロロナ・アードラ。王都ギルドに所属する調査専門パーティの一人だ。彼女は考古学者でもある。他にパーティは二人。剣士と盗賊シーフだ。ロロナ自身が魔法を使うので、調査には適したパーティでもある。クラスはBだ。

 ロロナは女性だが、中級の冒険者だ。若いが根性もあるし、何より探索に適したスキルや性格の為、この王都ギルドに専属となっていた。


「ロロナか。彼女なら慎重だし信用もおけるだろ」

「お前もそう思うくらいだ、もちろん俺としても信用は厚い。彼女がこれを持ってきたのは二日前だ」

「・・・何かあったのか?」

「ロロナが昨日から目を覚まさない」

「は?目を、覚まさない?単に寝てるわけじゃなくてか?」

「ロロナ一人ならその可能性もあるだろう。だが、一緒にクエストに行ったメンバー全員がそうなんだ」

「っ!?」


 ロロナ一人ならばまだしも、クエスト参加者全員だと?調査クエスト先で何かトラブルがあったのか。
 
 もちろんワイズマンもその可能性を真っ先に考え、クエスト終了報告を受けたギルド職員に詳しく状況を聞いたそうだ。だが、普段と変わらない報告であったし、クエスト先でもそういった仕掛けだとか何かハプニングがあったという報告は受けていないそうだ。


「朝一番で、対処可能なパーティには調査へ出てもらった。二の舞を避ける為、ザックスのパーティに出てもらった」

「なるほど、アリーシャか」


 ザックスのパーティは五人体制。剣士でありリーダーでもあるザックスを筆頭に、重戦士、魔法使いに盗賊シーフ、そして回復専門職の聖女だ。

 聖女アリーシャ。元々は僧侶クレリックだったが、才能が開花したらしく今では聖女と呼ばれるまでとなった。確かに彼女ならば、呪いがあっても浄化できるだろう。


「しかし、備えはしておきたい。顔の広いお前ならこの羽根に心当たりがありそうな人物を知らないか?」

「とはいっても、なあ・・・王都の大学にはこれに心当たりある学者はいなかったのか?」

「既に見せた。だが心当たりは無さそうだ。黒い羽根を持つ魔物について調べてはもらっているが・・・何せ、この容器から出さない方が良さそうだからな」

「この容器は、王都ギルドに持ってきてから保管したのか?」

「ああそうだ。ロロナは普通に持ち帰ってきたんでな。劣化を防ぐためにこれに移したんだが。一応、一昨日応対した職員にも何か異変が起きていないか検査を受けてもらっている。運良くロロナ達が戻ってきた時は、別のパーティもいなかったからな」


 むき出しの状態でこの羽根に接したのは、ロロナのパーティ達と、ギルド職員か。ロロナ達に異変が起きたのは昨日の朝。クエスト先から戻ってくるのに5日かかったそうだ。何かあるとすれば…


「・・・リミットは5~7日目ってとこか」

「多分な。ギルド職員に異変が起きるとするなら最短でも3日後だ。何も起きない事を祈る。お前に預けるのも不安はあるが、数少ない亜空間倉庫インベントリ持ちだ。他の奴等よりは影響はないと判断した」

「確かにそうだろうな」


 亜空間倉庫インベントリの中ならば、時間や空間の影響は受けない。時間差で何か起こるとしても、亜空間倉庫インベントリ内ならば起こる影響も低いだろう。

 俺が知っている識者で、これに心当たりがありそうな人物。無人の小島に引きこもってる変わり者の賢者の爺さんがいたな…あの人なら何か聞けるかもしれない。


「心当たりはあるか」

「ああ、ショゴス島にいる爺さんなら」

「・・・『無銘の賢者』か?お前さんホントにエラい人物と知り合いだな?」

「まあ奇縁でな」


 俺としても『無銘の賢者』と知り合いになるとは思わなかった。以前自分の呪いを解こうと悪戦苦闘していた時に偶然遺跡の中で出会ったのだ。
 爺さんはうっかり足を滑らせて転んだらしく、出口まで背負って出てやった。また怪しい事を喋る爺さんで、俺としてもこの体の事を相談できる数少ない相手。


「ショゴス島か、あそこなら船だな」

「あー、いや、転移門ゲートが使えるからすぐだ」

「・・・そんなもんがあるのか?」

「爺さん専用のがな。場所は教えられないが、往復しても二日で戻れる」


 あの爺さんの所へ行くのも久しぶりだな。王都の酒でも買っていくとするか。…ヒナからもらったハーブティーも少し残っているし、土産にするとしよう。

 …そういや、爺さんは『黒』の魔女について知っている事があるのだろうか。それについても聞いてみることにするか。

しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

いつか優しく終わらせてあげるために。

イチイ アキラ
恋愛
 初夜の最中。王子は死んだ。  犯人は誰なのか。  妃となった妹を虐げていた姉か。それとも……。  12話くらいからが本編です。そこに至るまでもじっくりお楽しみください。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

強い祝福が原因だった

恋愛
大魔法使いと呼ばれる父と前公爵夫人である母の不貞により生まれた令嬢エイレーネー。 父を憎む義父や義父に同調する使用人達から冷遇されながらも、エイレーネーにしか姿が見えないうさぎのイヴのお陰で孤独にはならずに済んでいた。 大魔法使いを王国に留めておきたい王家の思惑により、王弟を父に持つソレイユ公爵家の公子ラウルと婚約関係にある。しかし、彼が愛情に満ち、優しく笑い合うのは義父の娘ガブリエルで。 愛される未来がないのなら、全てを捨てて実父の許へ行くと決意した。 ※「殿下が好きなのは私だった」と同じ世界観となりますが此方の話を読まなくても大丈夫です。 ※なろうさんにも公開しています。

婚約破棄したら食べられました(物理)

かぜかおる
恋愛
人族のリサは竜種のアレンに出会った時からいい匂いがするから食べたいと言われ続けている。 婚約者もいるから無理と言い続けるも、アレンもしつこく食べたいと言ってくる。 そんな日々が日常と化していたある日 リサは婚約者から婚約破棄を突きつけられる グロは無し

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

【完結】瑠璃色の薬草師

シマセイ
恋愛
瑠璃色の瞳を持つ公爵夫人アリアドネは、信じていた夫と親友の裏切りによって全てを奪われ、雨の夜に屋敷を追放される。 絶望の淵で彼女が見出したのは、忘れかけていた薬草への深い知識と、薬師としての秘めたる才能だった。 持ち前の気丈さと聡明さで困難を乗り越え、新たな街で薬草師として人々の信頼を得ていくアリアドネ。 しかし、胸に刻まれた裏切りの傷と復讐の誓いは消えない。 これは、偽りの愛に裁きを下し、真実の幸福と自らの手で築き上げる未来を掴むため、一人の女性が力強く再生していく物語。

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

処理中です...