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第二章【氷】
王都グロウケテル
しおりを挟む「ご苦労さん、シグ」
「ああ、今日の討伐はこれで終わりだ」
ドサリ、と今日討伐してきた魔獣を出す。
ギルドには魔獣を解体してくれる所がある。
魔獣、といっても様々で、食用になるものから装備の素材に適したものなど色々だ。
俺達のようなギルドの冒険者は、魔獣退治で日銭を稼ぐ奴も多い。
「これだけあると魔石もかなりあるな。解体分は明日の査定で構わないか?」
「ああ、そんなに困ってないからゆっくりやってくれていい」
「助かるよ。・・・ああそうだ、ギルド長がお呼びだぜ?顔出してやってくれ」
ギルド長が?こういう時は面倒くさい依頼を持ちかけられると相場が決まっている。しかしクラスSともなると、難易度の高いクエストを優先的に受けなければならない。
俺はギルド長に会うため、2階へと上がる。
□ ■ □
2階の廊下の突き当たり。ギルド長の執務室へ向かい、ノックをする。野太い声の返事が聞こえるので、中へ。
「おう、帰ったかシグ」
「ボルカスから聞いた。何の厄介事だ」
「今回はそこまでじゃねえさ。ま、掛けな」
執務室にある応接スペースへ。ソファへと座ると、高級品らしく体が程よく沈む。王都ギルドのギルド長ともなれば、地位の高い客人も来るだろうし、これくらいは当然か。
ギルド長のワイズマンは何かケースに包まれた筒状の物を目の前に置いて向かいに座った。
「これなんだが」
「・・・何だ?」
ケースから出てきたのは、密封された筒状の保存容器。中には黒い羽根が一枚入っていた。単なる羽根、といえばそうなのだが。
「これがどうしたってんだ?」
「これはよ、最近持ち込まれたもんだ。最初は俺も珍しくもなんともない魔物の羽根だと思ったんだが。調べるうちに、どの魔物のものでもない事がわかった」
「こんなにデカい羽根・・・ならそれなりのランクの魔物だろう?あんたが知らない魔物がいるのか?」
「そこまで評価してもらってるのも嬉しいが、俺がこのギルドに着任してからは見た事がない。変異種なのかもしれんが」
確かに一枚がそこそこデカい。掌ふたつ分、といったところか?この大きさの魔物…鳥型だろうか。有名な物だとロックバードか…?しかし俺も黒いロックバードなんて見た事はない。
あとはセイレーンやハーピー辺りだろうか。まさかグリフォン?そのどれも黒色なんていたか?
俺が思い当たる魔物を探っていると、ワイズマンは話を再開した。
「俺もな、思い当たる魔物を当たっては見たんだ。しかし一向に思い当たらん。解体係リーダーのボルカスに聞いてもだ。黒い魔物に心当たりはあっても、この大きさの羽根を持つ魔物に心当たりはないんだ」
「黒い魔物、か。この辺りじゃホーンブルくらいだからな。だがあれじゃ牛みたいなもんだし、こんな羽根はないからな」
「そうなんだ。・・・だからお前に心当たりがないかと思ってな。この王都ギルドに来るまでに辺境も回ってきたんだろ?」
ワイズマンは俺の過去を知る数少ない人物だ。とはいえ、全てを知っているわけではない。『ろくでもない呪いにかかり歳を取らない』という事だけ。ワイズマンは俺が見かけ通りの年齢ではないという事を知っても、『だったら長い事ギルドに貢献してもらえるな!』と笑っただけだった。
「ということは、今回の依頼はこの羽根の正体を調べる事か?」
「ああ、済まないが任されてもらいたい。昨日別クエストからクラスAのパーティも戻ってきたから、王都近郊の守りは気にしないでいいからな。それよりもこの正体を掴んでほしい」
「・・・何かあるのか?」
俺に託すにしては、理由がぼんやりしている気がするが。この正体を調べるなら、調査を専門としている冒険者に頼んだ方がよくないか?
俺が専門にしているのは、どちらかというと討伐クエストが多い。次に採取クエスト。こういった調査クエストも受ける事もあるが、基本は王都ギルドに調査専門の冒険者パーティが数組いるからそちらへ依頼が行く。
主要都市のギルドには、専門的にクエストを受けるパーティが一定数所属する。討伐、採取、調査と難易度は様々だが、毎月決まった数のクエストを受注するからだ。
討伐は言わずもがなというやつだが、採取や調査クエストは、主要都市だと大手の商会などが利用するからだ。王都になると大学があるので、そこの研究室から頼まれるクエストも多くある。
その為、王都ギルドには調査クエストの数が周りの都市と比べて格段に多い。商業都市ギルドだと、商会の数が多いので採取クエストが多く寄せられる様だが。
ワイズマンは黙って考え込んでいる。何か事情がありそうだな。俺は事情を聞かせてもらうのを待つことにした。
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