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第二章【氷】
心尽くしの晩餐
しおりを挟む日が落ち、霊樹の家に入ると、ダイニングテーブルにはすでに雛がいた。今日はシチューのようだ。雛ではなく珠翠が作ったに違いない。
「おつかれシグ」
「・・・死ぬかと思った」
「ギリギリでちりょうするにゃもさんさすがだね!」
くそ、やっぱりギリギリだったのか。何度か視界が暗転したもんな。力が抜けていくあの感覚はそこまで味わいたいものではない。
テーブルに付くと、湯気が立ちのぼるシチュー皿が置かれる。疲れちゃいるが怪我はない。ただ、魔力の使いすぎで精神的にダルいだけだ。ゆっくりと食事を始める。
「お前は今日何してたんだ」
「ハーブティーつくりました!」
「・・・他には」
「うーん、いろいろ?あ、そーいえばシグにまほうのとりさんがてがみはこんできてたよ」
魔法の鳥?まさか賢者の爺さんか?珠翠がそっと手紙を持ってきた。スプーンを置き、手紙を開く。
それはやはり『無銘の賢者』からの手紙だった。簡潔に用件を記した手紙に、爺さんの性格が出ている。
「なんてかいてあったの?」
「・・・『氷の魔女』は薬のレシピは教えてくれなかったんだとさ。爺さんにゃ作れない。それが理由だと」
「ほうほう」
「・・・くそ、手詰まりか」
やるせない気持ち。ゴールに近づいていると思ったんだがな。爺さんにゃ作れないって事は『魔女』でなきゃ作れない代物なのか。または材料が手に入らないのか。
飯を食うどころじゃないな。王都を経ってからもう四日経つ。石化の兆候が出てもおかしくはない。俺は立ち上がりこの家を出る準備をすることにした。
「どこいくの?」
「王都へ戻る。もしかしたら何か手があるかもしれない」
「ないよ」
「っ!」
雛を見ると、変わらずシチューを頬張り続けている。こんな時によく飯を食ってられるもんだ。
「よく食ってられるな」
「せっかくしゅすいがじかんをかけてつくってくれたごはんをムダにできないし」
「ああそうかよ、『魔女』様にゃ関係のないことだからな」
構ってられない。雛が知らないだけで何か手立てはあるかもしれない。一刻も早く戻らなければ。爺さんには止められたが『氷の魔女』に直接当たってみるしかないかもしれない。
「どうしてシグはそんなにひとのはなしをきかないこにそだったの?ひなはいったよね?まだじかんあるって。おぼえてないの?わすれちゃったの?」
「お前の言葉に真実味がないからだろうが!」
「しつれいなこといってるぅー」
「俺はここで無駄な時間を過ごしている余裕はないんだ!一刻も早く解決方法を見つけないと、最低でも四人の命が失われるんだぞ、なんでそう落ち着いていられる!」
雛の側まで詰め寄り、怒号を発する。しかし雛は俺の様子に怯える事もない。ただ、落ち着いた目で見上げるだけ。
「シグ、すわりなさい」
「っ、お前は!」
「そんなからだでどうするきなの?シグのからだはもりをでられるほどたいりょくなんてのこってない。この『れいじゅのいえ』だからそうしてられるだけ」
「それは、」
「すわってたべなさい。なんのためにしゅすいがなんじかんもかけてシチューつくってくれたとおもってるの?
シグのからだにふたんをかけないおりょうりにしてくれたんでしょ?どうしてそれにかんしゃもできないの?」
ハッとする。確かに小さく切られた野菜。クタクタに煮込まれたシチュー。パンも柔らかい物を。雛の皿には固めのバゲットが。俺の皿には柔らかな白パン。
その他の何もかもが気を遣われていたのだと気づくのに、今の今まで気付かなかった。
俺は自分の席に戻り、飯を再開する。体に染み渡るような優しい味がした。
「まったくシグはこまったさんなんだから」
「悪かったな」
「まぁね、だれがこののろいにかかろうと、シグのいうとおりひなにはかんけいないことなんだけどね」
「喧嘩なら後で買ってやる」
「あのくろいはね、おぼえてる?」
「遺跡から出たってヤツだろ?」
「あれはね、こういのまぞくのものなのね。ほんらいアレはこのせかいにあっちゃいけないものなんだけど、ときおりああしてあらわれるのを、きけんをさっせないひとがもってきちゃうの」
雛の説明によると、あの黒い羽根はそこにある事で魔獣を産むらしい。遺跡やダンジョンの中には時にああして高位魔族の遺物が現れるそうだ。
魔力を視る事ができれば近寄らないはずだが、時折今回のように持ち帰ってしまう事があるのだとか。
そう、ロロナ達は運が悪かっただけ、なのだ。とはいえ過去にはこういう時に『白の系譜』の魔女達が薬を作って解決してくれていたらしい。
「でもね、いまはみんなかくれすんでるからね・・・むかしはもっとひとのいるところのちかくにいて、おくすりつくったりうったりしてなかよくきょうぞんできてたから、そこまでおおごとにならなかったんだよね」
「『魔女狩り』か・・・」
ああイヤになる。救われるはずだったのに、その手立てを遠ざけたのは俺達人間だというのだから。俺はシチューをおかわりしつつ、雛の話に耳を傾ける。
そんな俺を珠翠は笑ってシチューのおかわりをよそってくれるのだった。いいだろ、旨いんだから。
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