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第二章【氷】
魔女狩り
魔女狩り。
それは、百年ほど前から始まった。
俺が国を出て、各地を放浪している時だった。それまでも手を焼く魔女達を討伐する為の冒険者達はいたものの、大掛かりな討伐隊が結成される事はなかったのだ。
しかし、各地で暴れる魔女達が起こす事件が多発し、各王国がまとまって『魔女討伐隊』を結成した。冒険者だけでなく、王国所属の騎士であったり、傭兵であったり。盗賊団なんかも褒賞目当てに加わった。
しかし、それは悲惨なものだった。
確かに、魔女達はやり過ぎていた面もあるのだろう。だが、捕えられて処刑される魔女達は、主に各地にひっそりと住んでいた『良い魔女』達だったのだ。
それこそ雛の言うように、人と共存をしていた魔女達だ。その叡智と魔法の力で、たくさんの人々を支え助けてきた『白の系譜』の魔女が主だった。そして『魔女』と密告されたただの魔法使い達もいた。
彼女達はただ黙ってその仕打ちを受け入れた訳ではなかったが、人々の数の執念というものは凄かった。俺は何度か立ち寄った街で魔女の処刑を目の当たりにしたが、酷いものだった。これを本当に自分と同じ人間がやったのか?と疑いを抱くほどに…
そうして『魔女』達は二極に分かれた。
その所業に怒り、人に害を成す魔女と。
その所業に呆れ果て、人から姿を隠す魔女と。
十年ほど続いた『魔女狩り』騒ぎは収束した。だが今でもたまに『魔女討伐隊』を名乗る奴等を見る。そいつ等は主にギルドで魔女が起こした事件のクエストを優先して受けている。
「お前の弟子も被害にあったのか」
「ううん、ひなたちはもともとひとざとちかくにはいないし。あんましきょうみないので」
「仲間じゃないのか。・・・人を恨んだりしないのか」
聞いてはいけない事かもしれない。だが、俺は淡々と話す雛に向かってそう聞いていた。この『黒』の魔女からの思いを聞いてみたくて。
雛はフッと大人びた笑みを浮かべた。
「何時の世も愚かしく哀れな生き物よ、人というのは」
「っ、」
「何も思わない訳ではない。だが『魔女』とは自身の行く末を自分で選ぶ事を自らに課した存在。故に関与はしない。これは妾達が古から決めてきた取り決め事」
普段とは違う話し方。これが本来の『黒』の魔女の話し方なのだろう。一言一言に重みがある。同じ声でも聞かなければならない強制力が働くかのよう。
「其方がどう思うのかは知らぬ。だが妾達の考えは人のそれとは少々異なる物だ。永き時の流れに身を置く事で人の世からは外れた同理で存在しておるからな」
しかし、と雛がそっと目を伏せる。何かを思い出しているのだろうか。この小さな子供の姿の魔女にいったいどんな過去があったのだろうか。踏み入る事は許されないのかもしれない。だが、聞いてみたいと…思ってしまった。
「エリカはおくすりのつくりかた、『しろ』のこたちにならったのかもね。きほんてきにレシピってひでんだから、あんまりほかのひとにいっちゃいけないんだよ」
「そ、そうなの、か」
「うん、ひなのハーブティーは、でしのさんにんにはおしえたけどね?それはしていかんけいがあるからかまわないのであって、きほんてきになにかこうかんっこでおしえてもらったんだとおもうから、そのおじいちゃんがしりたいならなにかエリカにさしださないとムリだよね」
「そうか、『魔女に願いを叶えてもらう』には等価交換だったな」
「そゆこと」
わかった?と傾げる姿は先程までとは全く違う。いつもの雛だった。俺も肩の荷が降りた気がして、息をついた。無意識に息を殺していたらしい。
珠翠がタイミングを測ったようにデザートを持ってきた。今日のデザートはプリンらしい。それをもぐもぐ食べながら雛は俺を見てにっこり笑った。
「でもきょうはシグはにゃもさんといっぱいあそんでくれたからね、ひなもなにかおれいをしないとね」
「・・・あいつにとっちゃ『遊んだ』なんだな」
プリンを食べ終わった雛は、家の出口に向かう。どこに行くんだ?俺はまだダイニングテーブルの席に付きながら様子を見守る。
すると、扉の上にあるダイヤルがぐるり、と回った。何だよアレ。何かルーレットのよう物が付いていて、六色に色分けがされている。赤、白、黒、灰、銀、黄色。今はダイヤルがぐるりと回って銀色を指しているが。
雛は扉の前から、外に向かって声をかけた。
「エリカー、いるー?いたらあけてー」
「ブフゥッ!!!」
ちょ、おま、今なんて言った!?エリカ、だって?嘘だろ?まさか『氷の魔女』の名前を呼んでるってのか!?
まさかと思うが、その扉の向こうから『氷の魔女』が出てきたりしないだろうな!?
俺が声も出せないほど動揺していると、ガチャリと扉の開く音がした。そこから覗いた顔は─────
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