魔女の記憶を巡る旅

あろまりん

文字の大きさ
35 / 85
第二章【氷】

呪いの果て

しおりを挟む


 茶を飲み終わり『氷の魔女』に促される。王都に戻ってこの薬を届けないとな。まだ猶予はあるだろうが、早い事に越したことはない。まだ夕方だから王都の門もまだ閉まってないだろう。

 前回はダイニングテーブルに座ったままだったが、今回はきちんと送ってくれるつもりのようだ。霊樹の家の外に出て、広場へ。俺が振り向くと、雛は来ておらず『氷の魔女』だけがそこに立っていた。


「雛様のお見送りも欲しかったかしら?」

「いや、構わない。いずれまた礼に来るさ」

「律儀ですのね」


 クスリと笑う『氷の魔女』。こうして見ると割と背の高い女性ヒトなのだなと思う。すらっとした体だが、女性的な肉付きをした魅惑的な美女。この姿に熱を上げる男もいるだろう。


「そんなに熱心に見つめられると困りましてよ」

「あ、ああ、すまない。俺が見た事のある『魔女』はどこか精神がおかしい奴等ばっかりだったからな。雛とあった時も驚いたんだ」

「・・・貴方が出会った魔女は『緋の系譜』ですの?」

「ああ」


 冒険者ギルドに寄せられる魔女絡みのクエストは、基本的に討伐クエストだ。そしてその相手は『緋の系譜』である事が殆どだ。あの『魔女狩り』以降、各地で暴れる魔女は『緋の系譜』が多い。
 『氷の魔女』は目を伏せてひとつため息を付く。彼女も同じ魔女として思うところがあるのだろう。


「先程、人外と契約を交わす、という話をしましたわね。『緋の系譜』の魔女が契約するのは悪魔や魔神が多いのですわ。そしてその強大な力故に『力の暴走』を引き起こす事が多いのです」

「暴走、だって?」


 おい、なんだかすごく重要な事を話されてないか?俺が聞いていいものなのか。

 『氷の魔女』の話はこうだ。『緋の系譜』の魔女は、悪魔や魔神との契約をする者が多く、その大きな力に振り回されて『暴走』してしまう魔女が多いのだとか。


『緋』の魔女あの方の特性がそういうものですから、自然と似た性質の魔女が集まってしまうのは仕方の無いことなんですけれど」

「おい、その話」

「ワタクシとした事が喋りすぎましたわね。詳しく知りたければ雛様に聞いてくださいな。メルキオールにもたまには顔を出しなさいと伝えてちょうだいね」

「ちょっと、待・・・」


 俺が言い終わらないうちにまた、視界が光の乱舞に染まる。あーくそ、何だって『氷の魔女』は話を聞かないんだよ!
 次の瞬間、俺はまた王都手前の街道にいた。また…このパターン…



     □ ■ □



 王都についたのは夕方、日が暮れる手前。ギルドに到着すると、ワイズマンの部屋に直行。そこからロロナ達のいる宿へ向かった。
 部屋には症状の出ているロロナ達パーティメンバーと、ギルド職員だろう女性がいた。症状はロロナが一番進んでいて、かなりの部分が石化していた。


「アリーシャ、薬だ。ロロナ達に飲ませてやれ」

「は、はい!」


 ワイズマンは部屋に入るなり、献身的に看病していた聖女アリーシャに薬を渡した。他に数名いたギルドの人間に渡し、各自飲ませにかかる。
 薬を飲ませ終えると、石化した部分はゆっくりと元の肌色を取り戻してきた。


「・・・本当に、効くんだな」

「ああ、実際に見ていても信じられん」

「ああ、神の御加護です・・・」


 アリーシャは神に祈りを捧げるが、俺としては微妙な気持ちだった。これを治したのは『魔女』なのだから。
 彼等の世話を他の人に任せ、俺とワイズマンはギルドに戻った。ワイズマンは自室に戻るなりソファに沈みこんだ。


「やれやれ、終わったか」

「ああ、これで解決だな」

「本当にお疲れさん、シグ。お前がいなかったらあの四人は死を待つだけだったろう。ギルド長として、礼を言う」

「いや、持ちつ持たれつだろ?俺に何かあったらまたギルドが手助けしてくれるんだから、そこはあいこだ」

「しかし・・・助けてくれたのが『魔女』とはな。確かに昔は各地に『良き魔女』ってのがいたらしいな。『魔女狩り』があってからは隠棲する魔女が増えたと聞く」

「ああ、『氷の魔女』もそう言ってたよ。だから昔はこういう事があっても『良き魔女』がいたから大事にならずに済んでいたってな。この状態は俺達『人間』が作り上げたものだってな」


 『黒い羽根』の事も報告してある。ワイズマンはダンジョンコアのようなものだな、と言っていた。頻発するものではないので、これまで話題にならなかったのだろうとも。

 ロロナ達は三日後には目を覚ました。ワイズマンから色々と注意を受け、今回の薬の支払いもある程度させたそうだ。
 俺にも謝罪に来た。それでも冒険者を辞めることはないようだ。ロロナ達のような気概のある冒険者には、是非とも長く続けてもらいたいもんだ。

 『無銘の賢者』の爺さんにも報告に訪ねた。『氷の魔女』の事に言われたことも全て。


「・・・そうか、師匠はそう言っておったか」

「爺さん、まだ『魔女』になりたいか?」

「いや、儂は『魔法使い』のままでいい。『魔女』となる為に捨てる物が今はもう多すぎてな」


 『魔女となる為に捨てる物』という表現に違和感を覚えたが、その場で聞けるような雰囲気ではなかった。また今度機会があったら話してみるとしよう。…俺にはまだ時間は山のようにあるのだから。


しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

いつか優しく終わらせてあげるために。

イチイ アキラ
恋愛
 初夜の最中。王子は死んだ。  犯人は誰なのか。  妃となった妹を虐げていた姉か。それとも……。  12話くらいからが本編です。そこに至るまでもじっくりお楽しみください。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

強い祝福が原因だった

恋愛
大魔法使いと呼ばれる父と前公爵夫人である母の不貞により生まれた令嬢エイレーネー。 父を憎む義父や義父に同調する使用人達から冷遇されながらも、エイレーネーにしか姿が見えないうさぎのイヴのお陰で孤独にはならずに済んでいた。 大魔法使いを王国に留めておきたい王家の思惑により、王弟を父に持つソレイユ公爵家の公子ラウルと婚約関係にある。しかし、彼が愛情に満ち、優しく笑い合うのは義父の娘ガブリエルで。 愛される未来がないのなら、全てを捨てて実父の許へ行くと決意した。 ※「殿下が好きなのは私だった」と同じ世界観となりますが此方の話を読まなくても大丈夫です。 ※なろうさんにも公開しています。

婚約破棄したら食べられました(物理)

かぜかおる
恋愛
人族のリサは竜種のアレンに出会った時からいい匂いがするから食べたいと言われ続けている。 婚約者もいるから無理と言い続けるも、アレンもしつこく食べたいと言ってくる。 そんな日々が日常と化していたある日 リサは婚約者から婚約破棄を突きつけられる グロは無し

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

【完結】瑠璃色の薬草師

シマセイ
恋愛
瑠璃色の瞳を持つ公爵夫人アリアドネは、信じていた夫と親友の裏切りによって全てを奪われ、雨の夜に屋敷を追放される。 絶望の淵で彼女が見出したのは、忘れかけていた薬草への深い知識と、薬師としての秘めたる才能だった。 持ち前の気丈さと聡明さで困難を乗り越え、新たな街で薬草師として人々の信頼を得ていくアリアドネ。 しかし、胸に刻まれた裏切りの傷と復讐の誓いは消えない。 これは、偽りの愛に裁きを下し、真実の幸福と自らの手で築き上げる未来を掴むため、一人の女性が力強く再生していく物語。

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

処理中です...