魔女の記憶を巡る旅

あろまりん

文字の大きさ
36 / 85
第三章【情】

魔女の散歩

しおりを挟む


 王都グロウケテルで開催される建国祭。

 王都中が花飾りで飾られ、バザーや出店が並んで一際騒がしくなる。

 そんな時、冒険者ギルドは暇になるだろうと思われがちだが、こういう時は大体王都内の色んな所から用心棒に立ってほしい、など要請があったりするものだ。

 俺が毎年駆り出されるのは、王都内の見廻りだ。これだけ人が集まると、やはり喧嘩になったりだとか揉め事は起きてしまう。
 そこで、腕の立つ冒険者が単独で見廻りに立ち、大事にならないように未然に防ぐのだが…


「何をしてるんだ、お前は」

「ラーメンならんでます!」
「うにゃ」


こ、こいつは…何だってこんなところに!



     □ ■ □



「うまし」
「ぶにゃー」


 ちゅるるるる、とドンブリを抱える子供。その横で猫がドンブリに頭を突っ込んでラーメンを食っている。嘘だろ、熱くないのか?猫だろ?猫舌じゃないのか。


「はふー、さすがにんまいね!」
「ぶにゃにゃ」

「お前、どうやって来たんだ?あの村からじゃかなりあるだろ?」


 深緑の森の村からは、俺でも二日はかかる。雛の足だと歩くにも遅いだろうし…まさか三日ぐらいかけて来たってのか?
 しかし雛は驚く事を言った。上を指差し、こともなげに。


「そんなことないよ?にじかんくらいだよ」

「は?んなわけ・・・」

「ちょくせんきょりで、にゃもさんにのってきた」

「直線・・・距離?」


 にゃもさんに乗って…ってまさか、神級闘狼エンシェントウルフに乗って空を飛んできたってのか?

 俺の考えた事を読んだのか、雛はにこーっと笑って頷いた。マジかよ、よく見つからなかったな?


『阿呆が、見つかるような真似はせんわ』

「はっ!?あ?お前、か?」

『他に誰がいるというのだ、無能め。思念波によって話しかけている。言葉を発すると痛い人間に見えるぞ』

「悪かったな、っと・・・」

「にゃもさん、つぎはなにたべよっかー」
「うにゃ」


 ラーメンを汁まで残さず平らげた雛は、使い捨ての容器をゴミ箱に捨てながら、そんな事を言ってマダラと歩いていこうとする。
 待て待て、『黒』の魔女を王都内に放置しておく訳にも行かないだろ!俺は雛たちの後をついて行く事にした。


「ついてこなくてもいいよー?」

「んな訳に行かないだろ?仮にも・・・を、王都に放置する訳にはいかない」

「いまのひなをみて、まじょだっておもうひとなんていないよ?」

「それはそうかもしれないが・・・」

「シグはなにしてるの?」

「俺は王都内の見廻りだよ、仕事だ仕事」

「なんだ、ひなのいらいクエストひきうけてきてくれたんじゃないの?」

「は?依頼クエスト?」


 こっちこっち、と冒険者ギルドへと入る。うんしょ、とドアを開けて入ってきた子供に、ギルドの中にいた冒険者達も珍しそうに見ていた。


「あ、ほらほらこれ」

「・・・」


 そこには確かにクエスト依頼が。しかしこれを受領するってどうなってるんだよ?普通おかしいと却下するだろ?そこには、雛の書いたひらがなで『おうとけんぶつ。みちあんないもとむ!シグムントさんしてい ひな』と書かれていた。

 ね?とドヤ顔をした雛。ったく、と依頼ボードからクエスト依頼の紙を取り去り、カウンターへと行けば、いつもの受付嬢がカウンターに乗っかったマダラを撫でまくっていた。
 
 おいやめろ、それはここにいる全員もひと薙ぎで全滅させることのできる神級闘狼エンシェントウルフだぞ!


『この娘、撫で方が上手いな』

「にゃもさんもごまんえつー」

「あら、この猫にゃもさんって言うの?丸々しちゃってかーわいいー」

「でしょでしょー?おなかのとことかふっかふかなの」

「あらほんとだわー」

『フフフフフもっと撫でろ』


 …なんだかヒヤヒヤする。いつ逆鱗に触れてしまうかと思うと。いやいや今はそれじゃなくて、このクエストを受けてることへの説明をだな!


「おい、ナターシャ。これはなんだ」

「え?・・・あら、私も初めて見たわ?道案内?随分初歩的なクエストを指名されたものね、シグムント」

「お前が知らないなんて、じゃあ誰があそこに依頼を載せてるんだよ」

「私じゃなければ、ギルドマスターでしょ?」

「はぁ?ワイズマン?」

「あんね、あたまつるつるのおじさんが『まかしとけ!』ってはってくれたよ」

「ワイズマンね」
「ワイズマンだな・・・」


 ワイズマンはスキンヘッドだ。本人『ハゲてはいない、俺は隠さないだけだ』と訳の分からない事を言っていたが。
 道案内、ってのはあれか。建国祭の間、美味い飯屋を教えろとかそんな所か…?しかし雛は金を持っているのか?あの村ではほとんど物々交換だったから気にしていなかったが。

しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

いつか優しく終わらせてあげるために。

イチイ アキラ
恋愛
 初夜の最中。王子は死んだ。  犯人は誰なのか。  妃となった妹を虐げていた姉か。それとも……。  12話くらいからが本編です。そこに至るまでもじっくりお楽しみください。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

強い祝福が原因だった

恋愛
大魔法使いと呼ばれる父と前公爵夫人である母の不貞により生まれた令嬢エイレーネー。 父を憎む義父や義父に同調する使用人達から冷遇されながらも、エイレーネーにしか姿が見えないうさぎのイヴのお陰で孤独にはならずに済んでいた。 大魔法使いを王国に留めておきたい王家の思惑により、王弟を父に持つソレイユ公爵家の公子ラウルと婚約関係にある。しかし、彼が愛情に満ち、優しく笑い合うのは義父の娘ガブリエルで。 愛される未来がないのなら、全てを捨てて実父の許へ行くと決意した。 ※「殿下が好きなのは私だった」と同じ世界観となりますが此方の話を読まなくても大丈夫です。 ※なろうさんにも公開しています。

婚約破棄したら食べられました(物理)

かぜかおる
恋愛
人族のリサは竜種のアレンに出会った時からいい匂いがするから食べたいと言われ続けている。 婚約者もいるから無理と言い続けるも、アレンもしつこく食べたいと言ってくる。 そんな日々が日常と化していたある日 リサは婚約者から婚約破棄を突きつけられる グロは無し

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

【完結】瑠璃色の薬草師

シマセイ
恋愛
瑠璃色の瞳を持つ公爵夫人アリアドネは、信じていた夫と親友の裏切りによって全てを奪われ、雨の夜に屋敷を追放される。 絶望の淵で彼女が見出したのは、忘れかけていた薬草への深い知識と、薬師としての秘めたる才能だった。 持ち前の気丈さと聡明さで困難を乗り越え、新たな街で薬草師として人々の信頼を得ていくアリアドネ。 しかし、胸に刻まれた裏切りの傷と復讐の誓いは消えない。 これは、偽りの愛に裁きを下し、真実の幸福と自らの手で築き上げる未来を掴むため、一人の女性が力強く再生していく物語。

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

処理中です...