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第四章【白】
教会都市ケセディア
しおりを挟む「んじゃ、いきましょか」
「ちょっと待て、どこに行くつもりだ」
「シグ、きょうかいとしにいくんでしょ?ひなもいく」
「はあ!?」
畑から戻るなり、珠翠が差し出した小さなリュック。雛はそれをひょいと背負うと、俺の目の前でそう言った。れっつごー!と拳を振り上げて意気揚々と歩いていく。
「いやだから、なんでお前まで。その前に俺がいつ教会都市に行くだなんて話をしたんだ!」
「え?ちがうの?」
「いやそうなんだが」
「じゃあちょうどいいから、ひなもごいっしょしますよ」
「何がちょうどいいんだ!」
歩いていこうとする雛を抑え込み、話を聞く。どうやら雛は教会都市ケセディアで開かれる『薬草市』に行くらしい。
薬草市、というのは年に数度開かれる大掛かりなバザールだ。大陸の様々な場所からたくさんの薬草が集まる。売り手もいれば、買い手もたくさん集まる。
薬師や医者も集い、医術についても意見交換が行われたりするようで、その筋では有名だ。
大きなバザール、ならば商業都市ザビーナでやるものではないかと思う人もいるが、それも正解だ。年に数度という事で、教会都市ケセディアと商業都市ザビーナの両方で交互に開催される。
教会都市、と言われるように、ケセディアは教会本部がある都市だ。故にかなり過激な思想の教会主義者が多い。つまり『魔女』を敵とする奴らの本拠地だ。『魔女討伐隊』を名乗る奴等もここを本拠地としている。
『教会』とは魔女を排斥する教えの者達が集まった集団だ。この世界は『女神』によって創世されて見守られているという教えを基本とし、その世界を乱す悪が『魔女』という考えだ。
魔法は『女神』の慈悲から人間に与えられた知恵であり、力である。そして『女神』の力を貸し与えられた者が『聖女』と呼ばれる乙女である…というのが奴らの主張だ。
教会都市には治癒魔法に長けた者が多く集まるし、だからこそ薬や医術も集まってくる。そういった場所で薬草市が開かれるのは至極当然と言えばそうなのだが。
ちなみに、『神殿』と『教会』は別物だ。『教会』というと神殿と同系列の施設のようだが、どちらかと言えば冒険者ギルドに近い。そもそも『教会』が出来たのは魔女狩りが起こった百年前の話だ。寄せ集めの集団であった団体が、あっという間に人を集め、人心を掌握し、『教会』という屋号を名乗るようになった。あの頃は魔女狩りが全盛期であった為、民衆もそれを望んだのだ。
「お前、教会都市なんかに出入りして大丈夫なのか?」
「バレたことないです」
「それにしてもだな」
「あそこのひとたちにケンカをうるのはエヴァのせんばいとっきょなので、ひなもファーもみてるだけです」
…『緋』の魔女の相手、って訳か。『黒』の魔女にしてみれば同族のオモチャには手を出さない、って事なのか。
「エヴァはあそこのひとたちをうまーくいかさずころさず、てのひらでコロコロするのがすきでね」
「最悪じゃねぇか」
「ながくあそぶためにはガマンもひつようなんだって。エヴァならパーっともやしたりしそうなんだけどね」
「軽く聞こえるが物騒すぎるだろ!」
「でも、ファーだといっしゅんでこおらしてくだいちゃうから」
「・・・どっちにしろ全滅だな。お前ならどうなんだ」
俺はコイツがそうした魔法を使うのは見たことがない。浄化の為の金色の焔。それしか見たことがないのだが。『氷の魔女』や『情熱の魔女』が言うには『黒の魔女は無慈悲』であると言うのだが…
「ひな?ひながやるとまちごときえちゃうから」
「・・・は?」
「ひとだけけすのってむずかしいよね」
聞かなかった方がよかったかもしれない。街ごと消えるって何だ。壊すとも意味合いが違わないか?
幼女の姿をしてはいても、これは間違いなく『古の魔女』だ。永き時を生き、大いなる知識と力を持つ偉大なる魔女。
「じぶんできいたくせに、へんなシグ。ひながこわい?」
「怖くは、ない。・・・いや、どうだろうな」
「こわくていいとおもうよ。だってひなもシグこわいもん」
「俺が?」
「ひとはさきにしんじゃうし、それはシグもおんなじ。それにひなたちがおどろくようなことをするし。ずーっとずっとみてるけど、ヒトってりかいできないことたくさんあるよね」
「・・・『魔女』は『人間』とは違うモノなのか?」
これまで幾度も聞いてきた言葉。コイツ、雛は『ヒト』とは違うとよく言う。何が違う?『魔女』とは『人間』ではないのか?
だが雛は『それを知るのはまだ早い』とでも言うように話してはくれなかった。いつかは話してくれるつもりがあるのか?
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