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第四章【白】
旅は道連れ
しおりを挟む結局、雛は行くことを止める気配なんてものはなく、意気揚々と家を出て行く。…これから向かうのか?次の町に出るまで何時間かかるんだよ、日が落ちるまでに着くのか?
しかし雛は寝そべっている斑に近寄ってぽふぽふ、と叩いて起こしている。まさかとは思うが、コイツに乗っていく気なのか?
「おい雛、まさかとは思うが斑に乗っていく気か」
「そうですけど」
「それはやめておけ」
「なんで?はやいよ?」
『ひとっ飛びだな』
確かにひとっ飛びかもしれない。だが教会都市に行くのに神級闘狼に乗っていって見ろ、どう考えても敵視されるだろうが!
それに今の教会都市にこれで乗り付けるのは非常にまずい。ギルドからの特殊依頼について先に雛にも話しておくべきだっただろうか。
「とにかく、斑に乗っていくのは却下だ」
「えー、なんでー」
『何が不満だ』
「何でも、だ!今の教会都市は少しデリケートなんだよ、察しろ」
「じゃあちかくのむらまでいくぶんにはいいよね」
『いくら我でも教会都市に降りる馬鹿な真似などせんわ』
「・・・二つほど手前の町にしとけ。あそこからなら教会都市に向かう乗合馬車が出ているはずだからな」
「じゃあそうしますか」
『では行くか。お前も早く乗れ、置いていってもいいのか』
「・・・は?乗せてくれるのか」
驚いた、雛ならまだしも俺も乗せてくれるのか?てっきり雛だけ行くんだと思ってたが。俺は自分で陸路を使うつもりだったから、拍子抜けした。すると、斑はフン、と鼻を鳴らして答える。
『今回は我が着いていく訳にはいかないからな。我の代わりに『黒の女神』を守れよ』
「・・・?行かないのか?」
『あそこは嫌いでな。あの都市に澱む魔力は不愉快だ』
魔力が澱む?斑の言葉に疑問を持ったが、早くしろと急かされて聞く時間はなかった。グズグズしていたら噛みつかれそうだったからな。
背中の毛並みも極上の手触りで、心の中でため息を付いた。雛はすでにぴっとりと背中に埋もれている。
「ふわふわでしあわせ」
「掴んでないと落ちるぞ」
「そのようなことはいたしません」
『では行くとするか』
途端、ぶわりと風が吹く。気付けばすでに空高く舞い上がり、景色が後ろへと流れていく。頬に当たる風が気持ちいい。視界は一面クリアブルーの空。雲より上を駆け抜けている。
「これは・・・壮観だな」
「ふわふわー」
「景色を見ろよ・・・」
「みあきた」
『フフフ、女神はもう何千回と我と飛んでいるからな。貴様のように地を這う人間にはえも言えぬ幸運だろう』
「確かに、な」
地を這うしかできない人間にとって、この光景は何にも変え難い。斑の嫌味にも素直に感動してしまう。とんでもない速さで駆けているのだろうが、風の結界があるのか自分に感じる風は馬車の御者台にいる時とそう変わりはない。
教会都市手前の町までは数時間の旅だったが、俺はずっと空を駆ける気分を味わっていた。
□ ■ □
約束通り、教会都市二つ手前の街近く。森の中に降りる斑。ここなら人目に付くこともないだろう。
「じゃーね、にゃもさん。むかえにきてほしいときはれんらくするねー」
『心得た。人の子、女神を任せたぞ?何かあれば貴様の命など消え去るものと思えよ』
「わかってるよ」
いつから俺は雛の目付役になったんだ…しかしここで嫌だと言おうものなら全力で薙ぎ払われてお陀仏になる未来しか見えない。雛が庇うわけもないからな。
俺が頷いたのを見て、また空高く駆け上がる斑。すぐに白い軌跡となって見えなくなった。
「ではれっつごー」
「迷子になるなよ」
「だいじょぶだいじょぶ」
軽い答えに不安になりながらも、森の中を街道へ向かって歩く。少し歩けばすぐに街道へ出た。遠目に見える町に向かい歩いていると、目の前にスライムが。
「おっ!ひながやっつけます!」
「ちょっと待て」
たたた、と駆け出す雛を鷲掴む。手には石が握られていた。まさか…
「・・・何するつもりだ」
「これでたいじします!」
「お前これ・・・魔力銀原石か?」
「これでいっぱつ」
確かに前言ってたな、これでスライム退治できるって…本気でやるのか?掴んだ手を離さない俺に、雛はしょうがないなとため息を付いた。
「しょうがないな、シグは。やりたいならそういえばいいのに」
「言ってねえ」
「ほらほら、これもって。だいじょぶ、ひなはおたのしみをひとりじめするような、いじわるなオンナじゃないから!」
さあさあどうぞ、と言わんばかりに魔力銀原石を押し付ける雛。これをやりたがる俺って一体何なんだ。
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