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第四章【白】
異端審問
しおりを挟む昨日、薬草市がたっていたとは思えない場所。そこはすでに物々しい空気を湛えた場所となっていた。
中央に火刑の儀式場となる、木で作られた十字架。足元には薪が山と積まれる。
異端審問、とは名ばかり。ただの火刑場だ。火に焼かれても死ななければ『魔女』、死ねば『人間』というお粗末な裁判。
同じように水刑もある。重石を付けて、水に沈めば『人間』。浮き上がれば『魔女』…ただ殺すためだけの裁判。
異端審問、魔女裁判は疑われれば逃れる術を持たないただの確定裁判だ。昔はこれ以上に残酷な刑も多数あり、見るのも無残だった。この教会都市には多数の処刑道具がある。あったらしいなどと言われるが、俺は本当に『ある』ことを知っている。
周囲には一定の距離を置いて、既に物見高い市民達が集っていた。武装している奴等もいる所を見ると、あれは『魔女討伐隊』の奴等かもしれない。
今回、騒ぎを大きくしない為に奴等には警備依頼を出さなかったようだ。アイツらが刑場内にいれば、隙を見て『魔女』自体を討伐される恐れがあるからだ。奴等もまた非常に残酷に攻撃を加えるだろう。
今回、『教会』は異端審問という正式な手続きを踏んで『魔女』を処刑したいのだ。タリアは数年ぶりに行われる、と言っていた。ここ最近は『魔女』が暴れる事も少なく、あったとしても『教会』より先に『魔女討伐隊』が動いたと聞くことが多かった。
そんな中、今回『教会』は本物と思しき『魔女』を手に入れたのだ。権威を示す為にもここで正式な異端審問を行いたいのだろう。
「・・・見物客も多いな」
「そりゃそうさ、数年ぶりの異端審問だ。この街は『魔女』に恨みのある奴も多いからね・・・合法的に憎む相手が処刑される所が見られるんだ、そんな機会は普通の人たちには滅多にないだろうさ」
タリアが吐き捨てるように呟く。タリアもまた、その異端審問を心待ちにする一人なのかもしれない。最愛の伴侶を『魔女』によって殺された過去があるタリア。伴侶も冒険者であり、依頼中に『魔女』と遭遇してタリアは目の前で伴侶を殺され、本人もまた殺されかけたが一命を取り留めたのだという。
「恨みは、深いのか?」
「どうだろうね・・・あれから長い時が経った。焼け付くほどに憎悪で身を焦がした日もあったさ。でもそれと同時に奴等に恐怖するアタシもいる。命があるだけ幸運だった、といえばそうだと思うよ。今じゃギルドの皆がアタシの家族のようなものだからね」
「・・・そうか」
「だから一言じゃ言えないね。・・・でもあの姿を見ると、何もそこまでしなくてもいいじゃないかって思っちまったんだ。あんな事をしたのが、自分と同じ人間なのかと思うとね」
その気持ちは俺にも理解できる。あの呪詛。アレを創り出したのは『人間』だ。俺と同じ。あれほどの狂気と憎悪を、自分も抱えているのだろうか、抱える事ができるのかと思うとゾッとする。きっとタリアもまた、同じように思ったのだろう。
わあ、と歓声が上がった。目を向けると、大神殿の扉が開き、先頭を教会騎士が歩いてくる。後から司祭たちが続き、その後からは布で覆われた大きな檻が見える。
おそらくあの中に『魔女』がいるのだろう。その布で覆われた檻が見えると、民衆の歓声はさらに高まった。タリアが冒険者達に声をかけ、警備体制を崩さないように激を飛ばしていた。
火刑台の近くに檻が止める。ばさりと布が取られ、中に居たのは───タリアが言っていた『魔女』。
「っ、く・・・」
その姿は、異常。
水色の髪はざんばらに乱れ、焦げ跡が見られる。目は見開かれ、血の涙を流していた。血や泥の汚れが付いた簡素なワンピースは裾が破れ、手足にも所々にアザが見える。火傷跡のように引き攣れた傷も。
そして一番の異常は、首を真横に貫いた金属棒だった。その姿でも『魔女』は繋がれた鎖に引き摺られてよろりよろりと歩き、周りを見回している。不意にガクン、と首が折れるがゆっくりと前を向く。目の焦点は合わずに彷徨っているかのよう。
雛の言葉が脳裏を掠める。『彼の娘は既に息絶えている』───確かに、アレはどう見ても死んでいるだろう。しかし、何らかの力で動いていると言ってもいい。
全身に悪寒が走る。ならば、何故、アレは動いているんだ?何のために?どんな力で?『魔女』は死ぬ事も許されないのか?
よろり、ペタリ、とふらつきながら歩く『魔女』。歩いた後にはその場に赤黒く何かが立ち上っている。その痕を聖水を撒いて消す司祭たち。…奴等は感じないのか?この異様さを。
『魔女』を火刑台へと括り付ける教会騎士達。フルフェイスの兜をしているから奴等の顔は見えないが、手元が覚束無いようだった。無理もない、アレを至近距離で見ろというのは実際何かの刑罰に等しいだろう。
ふと、『魔女』が俺と目が合った。ニタリ、と哂う。
「っ、くそ、」
またも全身に悪寒が走る。くそ、縁起でもないな…!こんな光景を見ているのか?雛?
何なんだよ、これは。悪夢が現実になっているかのようだった。しかし、周りの群衆は歓声を上げている。『魔女を殺せ』、と。
周りが熱狂的な渦に包まれる中、俺は一人、全く世界に踏み入ってしまったかのように思えた。
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